【売買契約の売主または買主が複数である場合の所有関係・代金の可分性】
1 売買契約の売主または買主が複数である場合の所有関係・代金の可分性
売買の一方当事者が複数存在するケースがあります。買主が複数人(共同買主)であれば所有形態が共有となる傾向があります。
売主が複数人(共同売主)の場合、つまり共有不動産の売却のケースでは、売却代金の帰属が問題となります。
本記事ではこのような問題について説明します。
なお、賃貸借の一方当事者が複数であるケースにおける金銭債権・債務の可分性については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|複数の賃貸人(共同賃貸人)の金銭債権・債務の可分性(賃料債権・保証金・敷金返還債務)
詳しくはこちら|複数の賃借人(共同賃借人)の金銭債権・債務の可分性(賃料債務・損害金債務)
2 複数の買主の代金債務の可分性(基本)
買主が複数人いるというケースでは、代金を支払う人が複数存在するということです。この代金債務は、性質上不可分ではないため、可分となります。もちろん、当事者が不可分とすると合意していればそのとおりになります。
複数の買主の代金債務の可分性(基本)
そうとすれば、原判決の判断に理由不備、理由そごの違法のないことは明らかである。
※最判昭和45年10月13日
3 共同出資者による落札による共有関係
複数人で出資して不動産を購入したケースを紹介します。
タイプとしては『買主が複数』に分類できます。
このケースは競売による落札というものです。
実質と異なる形式で入札がなされたと思われます。
共同出資者による落札による共有関係
あ 共同出資者による落札
競売不動産に複数の出資者が共同して入札した
共同出資者のうち1名Aが代表として入札した
この入札が最高価買受人となり落札した
い 所有権の帰属
不動産は共同出資者の共有となる
各自の出資額の割合に応じた共有持分を取得する
※最高裁昭和51年10月26日
4 複数の売主(共同売主)の代金債権の可分性
売主が複数いるというタイプの説明をします。代金を請求する人が複数存在するということです。
代金請求権の法的扱いをまとめます。
複数の売主(共同売主)の代金債権の可分性
あ 前提事情
売買契約が締結された
売主が複数人である
い 代金債権の可分性
一般的に金銭債権は可分給付である
→代金債権は可分となる
※最高裁昭和52年9月19日
※我妻榮ほか『我妻・有泉コンメンタール民法 第3版 総則・物権・債権』日本評論社p764
う 遺産分割との関係・売買契約の個数(参考)
相続開始後に共同相続人全員が合意のうえ遺産のうちの特定財産を売却したときは、遺産の一部分割の合意が成立したとみうる場合が多いであろうが、そうでなくても、各共同相続人が当該財産の上に有する共有持分権を処分することは自由であるから、共同相続人の数に応じた数個の売買が同時に成立した場合に当り、売主たる各相続人は自己の持分に応じた代金債権を買主に対して直接に取得することになる
※田中恒朗稿『判例タイムズ367号 臨時増刊 主要民事判例解説』p55〜
5 複数の売主(共有者)の間の代金分配義務
売主が複数というケースの判例を紹介します。
代金請求権の分割が前提となっています。
その上で代表として1名が受領するのが一般的です。
その後の分配についての判断がなされました。
複数の売主(共有者)の間の代金分配義務
あ 共有不動産の売却
不動産をA・Bが共有していた
遺産共有であった
A・Bの合意により第三者に売却した
Aが代金を受領した
い 代金債権の帰属
A・Bは分割された代金債権を取得する
Aは受領権限を委任されている
う 金銭交付義務
AはBに対してB持分相当の金額を交付する義務がある
※民法646条1項前段
※最高裁昭和52年9月19日
6 売主が複数|共有地の買収×代金の帰属
共有不動産の売却における代金の帰属が問題となったケースです。
単純な売却ではありません。
『買収』という特殊なものでした。
そのため、見解の対立が生じたと思われます。
『売主が複数』のタイプの中の変わったケースと言えます。
売主が複数|共有地の買収×代金の帰属
あ 共有の土地
農地or牧野である土地甲が共有となっていた
い 裁判所の判断|買収の可否
土地甲は買収の対象となる
根拠=自作農創設特別措置法
う 裁判所の判断|買収金額算定
ア 原則論
買収金額は保有面積を用いる
イ 共有地への適用
『面積』の算定方法について
→共有持分に応じ共有地の面積を按分する
※最高裁昭和30年3月8日
7 入会団体の財産の売却×代金の帰属|概要
共有不動産の売却代金の帰属に関する別の判例もあります。
単なる共有ではなく入会権という性質があったケースです。
このケースでは、代金の帰属にも特殊性が反映されています。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|入会権・入会団体|全体・基本|所有形態
本記事では、売買の当事者のいずれかが複数である場合の代金債権や代金債務の法的扱いについて説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に不動産などの売買で当事者が複数であるケースの問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。