【実質的共有状態の維持|信託受益権化・資産管理会社の活用】
1 実質的共有状態維持の方法|全体
『共有』の状態を維持する方法を説明します。
実質的共有状態維持の方法|全体
あ 前提事情
共有の状態を維持したい
しかし、共有状態が維持できないリスクがある
詳しくはこちら|共有状態を維持するニーズ・手法とハードル
い 共有状態維持の方法
共有物分割禁止特約により共有状態を維持できる
→厳しい制約がある
例=期間制限・登記の必要性
詳しくはこちら|共有物分割禁止特約の基本(最長5年・登記の必要性)
う 実質的共有状態の維持
実質的な共有状態を維持する方法として
→次のような方法がある
ア 資産管理会社の活用(後記※1)イ 供託の活用(後記※2)
期間制限なしで共有状態を維持する方法があります。
形式的には共有ではなくなります。
しかし共同で管理する状態を固定化することができます。
詳しい内容は以下説明します。
2 実質的共有維持|資産管理会社
古典的な資産の共同管理方法は法人の活用です。
つまり、資産管理会社を設立し財産を所有させるものです。
実質的共有維持|資産管理会社(※1)
あ 資産管理会社の設立
資産管理会社を設立する
対象不動産の共有者は『株主』になる
い 管理会社による所有
資産管理会社に対象不動産を現物出資(または売却)する
資産管理会社が対象不動産を所有する
資産管理会社が賃貸管理を行う
不動産の収益を各株主に利益配当をする
複数の所有者から複数の株式に変わると言えます。
単独の株主同士では共有の規定は適用されません。
つまり、共有物分割請求はできない状態となります。
3 資産管理会社×課税
資産管理会社の活用は大きなデメリットがあります。
重い税金を負担することになるのです。
資産管理会社×課税
あ 売却×税金
資産管理会社への売却について課税される
例;登録免許税・譲渡所得税
通常の『売買』と同じ扱いである
=低減されない
『外部への売却』ではない割には高い
い 利益分配に関する税金
ア 株主への配当の特徴
法人に生じた利益の計算上、株主への配当は経費として控除できない
→実質的に両方で課税対象となる
いわゆるダブルタックスである
実質的に過剰な課税となる
イ 管理業務の対価
共有者個人が管理業務を行い、法人から当該個人に役員報酬、給与や業務委託料の支払う場合
適正な金額の範囲内であれば法人の経費となる
=ダブルタックスにはならない
4 実質的共有維持|信託受益権化
『信託』を利用して実質的な共有を実現する方法もあります。
期間制限なく共同管理の状態を維持できます。
実質的共有維持|信託受益権化(※2)
あ 信託受益権化
共有物全部を『信託』する
→元共有者はそれぞれが『受益者』となる
→共有物分割請求はできない
→共有物分割による不都合を回避できる
い 当事者変更の回避
受益権処分・譲渡に制限を設定できる
例;『既存受益者・法定相続人の範囲内』
→当事者が変更することを回避できる
う 管理方法・収益分配の明確化
信託契約・遺言の中の信託の条項において
管理に関する事項を明確に設定できる
例;管理方法・収益分配方法
要するに『複数の所有者』から『複数の受益者』に変わるのです。
複数の受益者の間では、共有物分割請求はできません。
5 信託×課税
信託を活用する場合の課税は特別扱いがあります。
信託×課税
あ 一般的な『移転』×課税
一般的に財産の移転により次の課税関係が生じる
ア 流通税
登録免許税・不動産取得税
イ 譲渡益課税
不動産譲渡所得税
い 信託×課税|特別扱い
信託による財産の移転の場合
→『移転』は形式的に過ぎない
=実質的な『移転』とは大きく異なる
→『あ』の税金が免除or軽減される
※租税特別措置法72条
→信託の実行コストが安くて済む
資産管理会社のような過剰な課税を回避できます。
6 複数の受益者|権利行使のハードル|概要
共有不動産を信託受益権化すると、受益者が複数人になります。
この場合『受益者による意思決定』でトラブルが生じる傾向があります。
法改正によりいろいろな対策が可能となっています。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|複数の受益者|権利行使のハードル・受益権取得請求権