【売買・賃貸借契約などの履行遅滞による解除(全体)】
1 履行遅滞による解除の条文の規定
2 催告を不要とする特約
3 過大or過小な催告の基本的な有効性
4 過大な催告の有効性
5 過小催告
6 催告の期間(期限)と有効性(概要)
1 履行遅滞による解除の条文の規定
売買や賃貸借などの双務契約は履行遅滞の時に解除することができます。この場合の要件と効果は条文に明確に規定されています。まずは規定の内容を整理します。
<履行遅滞による解除の条文の規定>
あ 要件
双務契約の当事者の一方が債務を履行しない
相手方(債権者)が相当の期間を定めて履行の催告をした
指定期間内に履行がない
い 効果
債権者は契約を解除できる
※民法541条
条文の内容は単純です。この点,この規定に関する解釈論にはいろいろなものがあります。以下説明します。
2 催告を不要とする特約
契約の当事者間で催告を不要とする特約を合意することができます。この効力に関する判例の解釈をまとめます。
<催告を不要とする特約>
あ 特約の内容
債務不履行があった場合について
催告しなくても契約を解除できる
い 特約の効力(基本)
『あ』の内容を不合理とする事情がない限りは有効である
※最高裁昭和43年11月21日;賃貸借契約について
う 履行の提供の要否
『あ』の特約がある場合において
解除する者からの履行の提供は必要である
※最高裁昭和51年12月2日
3 過大or過小な催告の基本的な有効性
催告の内容は債務の履行を求めるというものです。金銭債務であれば債務として存在する金銭の請求です。
催告の内容の金額が,適正なものではないというケースもあります。
過大や過小な内容の催告の有効性に関してはいろいろな解釈論があります。まずは基本的な有効性の解釈をまとめます。
<過大or過小な催告の基本的な有効性>
催告の内容が過大or過小である場合
→債務の同一性が分かる限りは有効である
※我妻栄『債権各論上巻(民法講義6)』岩波書店p158
4 過大な催告の有効性
催告の内容の金額が本来の債務額よりも多かったケースの有効性についてまとめます。
<過大な催告の有効性>
あ 著しく過大な催告
賃料の請求について
適正賃料と比べて催告の内容が著しく過大な金額である場合
→適正額では賃貸人が受領しないことが明らかである
→『適正額の弁済の機会を与える』ことにはならない
→催告としては無効である
※大判昭和7年3月17日
い 多少過大な催告+受領拒絶認定
賃料の請求について
催告の内容が適正賃料を多少超えた程度であった
催告額以下では賃貸人が受領しないことが明確であった
→催告は効力を生じない
※最高裁昭和39年6月26日
5 過小催告
催告の内容の金額が本来の債務額よりも少なかったケースの有効性についてまとめます。
<過小催告>
あ 解除の範囲への影響
債務の一部につき催告することは債権者の自由である
→催告額の範囲で解除ができることになる
い 催告の趣旨の認定
『ア・イ』の両方に該当する場合
→全部について解除権が生じる
ア 催告の金額が本来の債務額をわずかに下回るイ 債権者が全部を催告する趣旨であることが明らかである
※金沢地裁昭和31年3月24日
※我妻栄『債権各論上巻(民法講義6)』岩波書店p159
6 催告の期間(期限)と有効性(概要)
催告の中で指定する期間,つまり支払期限について,条文上は『相当の期間』と規定されています。これについての解釈論がいくつかあります。具体的日数はどの程度になるのか,不適切な期間(期限)であった場合の効力などの解釈です。
これらについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|履行遅滞による解除のための督促の『相当の期間』の解釈