【履行遅滞による解除のための督促の『相当の期間』の解釈】
1 催告の相当期間の解釈
2 相当期間の判断の具体例(肯定)
3 相当期間の判断の具体例(否定)
4 催告の指定期間と効力(時代による変化)
5 催告の指定期間と効力(現在の見解)
6 特約に反する催告期間の指定
7 催告の延着の扱い
8 特約による催告なしの解除(概要)
1 催告の相当期間の解釈
履行遅滞による解除については相当期間を定めた催告が必要です。
本記事では『相当期間』に関する解釈について説明します。
最初に,相当期間が必要とされる趣旨と解釈論のうち基本的なものをまとめます。
<催告の相当期間の解釈>
あ 催告による解除権発生(概要)
『相当の期間』を定めた催告により解除権が発生する
※民法541条
詳しくはこちら|売買・賃貸借契約などの履行遅滞による解除(全体)
い 催告の意義
債務者が履行するために要する期間である
う 判断要素の分類
客観的事情によって定まる
例;債務の性質
債務者の主観的事情を考慮しない
例;債務者の病気・旅行のスケジュール
※大判大正6年6月27日
え 抽象的な基準
催告の際の相当期間の算定について
履行を『一から』するのに必要な期間,ではない
債務者は履行の大体の準備をしていることを前提する
※大判大正13年7月15日
※大判昭和18年3月9日
2 相当期間の判断の具体例(肯定)
現実に催告を行う場合に期間(期限)をどのように定めたらよいかを迷うことがあるでしょう。そこで,具体的な期間について『相当期間』と言えるかどうかを判断した事例を紹介します。まずは相当期間として認められた判例をまとめます。
<相当期間の判断の具体例(肯定)>
あ 2日間
商取引における売買代金の残代金について
2日の催告期間
→不当ではない
※最高裁昭和30年3月22日
い 3日間
商取引ではない賃貸借契約
賃借人が商事会社であった
延滞賃料の支払催告について
3日の期間
→不当ではない
※最高裁昭和32年3月28日
3 相当期間の判断の具体例(否定)
相当期間として認められなかった期限の設定の判例です。
<相当期間の判断の具体例(否定)>
あ 1.5日
売買代金の支払の指定期間について
催告書の到達より1日と約半日
→不相当な期間である
※大判大正11年8月4日
い 0.5日
賃料支払の督促について
夜半に『翌日午前中』を支払期限として指定した
広島より大阪にある債務者に電報で通知した
→不相当な期間である
※大判昭和9年3月20日
なお,相当期間として否定されても,催告自体が無効となるわけではありません。これについては後述します。
4 催告の指定期間と効力(時代による変化)
催告の中で指定した期間(期限)が相当期間として認められないケースもあります(前記)。この場合の催告の効力についての解釈は,時代によって変化があります。
<催告の指定期間と効力(時代による変化)>
あ かつての判例
『ア・イ』に該当する催告について
→無効である
ア 指定した期間が不相当であるイ 期間の指定がない
※大判大正6年7月10日
※大判大正11年4月17日
い 現在の判例・通説
『あ』の催告について
→有効である
催告後相当期間の経過によって解除権が発生する(後記※1)
※大判昭和2年2月2日
※大判昭和9年10月31日
※最高裁昭和29年12月21日
※最高裁昭和31年12月6日
※我妻栄『債権各論上巻(民法講義6)』岩波書店p160
5 催告の指定期間と効力(現在の見解)
相当期間未満を指定した催告の効力について,現在の見解の内容をまとめます。
<催告の指定期間と効力(現在の見解;※1)>
あ 期間の設定がない催告
催告の際に相当期間を定めなかった場合
→催告の時から相当期間を経過した時点で解除権が生じる
※最判昭和31年12月6日
い 相当期間未満の設定による催告
催告の際に指定した期間が短かすぎた場合
=相当期間に満たない指定
→催告の時から相当期間を経過すれば契約を解除権が生じる
※最高裁昭和44年4月15日
う 債務者の督促拒絶との関係
債務者が催告を拒絶する意思を表示している場合
→相当期間が経過する前であっても債権者は契約を解除できる
※大判昭和7年7月7日
6 特約に反する催告期間の指定
以上の説明は,純粋に指定した期間が『相当期間』といえるかどうか,というものでした。この点,最初から特約として『催告の期間』を具体的に定めることもあります。それにも関わらず,定めた期間より短い期間を催告の時に指定したケースの扱いについてまとめます。
<特約に反する催告期間の指定>
あ 特約による催告
特約で催告の期間が定められていた
この期間(所定期間)は相当である
い 特約による期間未満の指定
所定期間より短い期間を指定して催告した
う 裁判所の判断
催告の時から『所定期間』を経過した時点において
→解除権が生じる
※最高裁昭和44年4月15日
7 催告の延着の扱い
催告に関するイレギュラーな事態についての解釈論があります。
催告が想定よりも遅れて届いたというケースです。
<催告の延着の扱い>
あ 債務不履行発生と催告
滞納賃料の催告について
賃貸人が次の内容の通知書を賃借人に送付した
い 催告の書面の内容
特定の日を催告期限に指定する
督促期限の徒過を停止条件とする賃貸借契約解除の意思表示
う 延着
内容証明郵便の到着が予定よりも遅くなった
催告期限よりも後に賃借人に到着した
え 裁判所の判断
予定到着日から催告期限(指定期日)までを『催告期間』とする
→現実の到着日から『催告期間』経過後を『実際の催告期限』とする
『実際の催告期限』に解除権が生じる
※最高裁昭和39年11月27日
8 特約による催告なしの解除(概要)
以上の説明は,催告に関する特約がない場合の一般論です。逆に,催告がなくても解除できるという特約(無催告解除特約)がある場合は別です。とはいっても,無催告解除特約が有効となるのは一定の範囲に限られています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|無催告解除特約・当然解除特約の有効性(借地借家法との抵触)
本記事では,履行遅滞による解除のための督促の相当の期間について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に契約の解除に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。