【隣地使用権の訴訟法的な整理(訴訟物・請求原因)】
1 隣地使用権・住家立入権・償還請求権の訴訟物
2 隣地使用権の請求原因
3 住家立入権の請求原因
4 隣地使用による償金請求権の請求原因
5 住家立入による償金請求の請求原因
1 隣地使用権・住家立入権・償還請求権の訴訟物
本記事では,隣地使用権に関して訴訟における請求・主張を整理します。
まずは訴訟物をまとめます。
<隣地使用権・住家立入権・償還請求権の訴訟物>
あ 隣地使用権
ア 請求権説
X(原告)のY(被告)に対する甲地(原告所有地)所有権に基づく相隣関係としての隣地の使用権
イ 形成権説
権利者が隣地に立ち入ることに対する隣人の妨害を排除する請求権
※民法209条第1項本文
い 住家立入権
XのYに対する甲地所有権に基づく相隣関係としての住家立入権
※民法209条第1項ただし書
う 償還請求権
XのYに対する乙地(or乙地上の住家)の使用に基づく償金請求権
※埼玉弁護士会『相隣関係をめぐる法律と実務〜現代型相隣紛争解決の手引〜』ぎょうせいp86,87
2 隣地使用権の請求原因
次に,隣地使用権に関する権利の請求原因をまとめます。
まずは隣地使用権そのものの請求原因です。
<隣地使用権の請求原因>
あ 一般的な請求原因
ア Xは甲地の所有であるイ Xは甲地と乙地の境界or乙地付近の甲地において障壁・建物の築造・修繕をすることウ Yは乙地の占有であるエ Xはイのため乙地に立ち入る必要があることを基礎づける事実
い 形成権説
形成権説では『オ・カ』も加わる
オ XはYにイのために乙地に立ち入る旨の意思表示カ YはXの乙地への立ち入りの妨害
※埼玉弁護士会『相隣関係をめぐる法律と実務〜現代型相隣紛争解決の手引〜』ぎょうせいp86
3 住家立入権の請求原因
住家立入権の請求原因です。
<住家立入権の請求原因>
あ 一般的な請求原因
ア Xは甲地の所有であるイ Xは甲地と乙地の境界or乙地付近の甲地において障壁・建物の築造・修繕をすることウ Yは乙地上の住家を占有しているエ Xはイのため乙地に立ち入る必要があることを基礎づける事実オ Yが,住家への立入りについて承諾をしないことが権利濫用となることを基礎づける事実
い 形成権説
形成権説では『カ・キ』も請求原因に加わる
カ XはYにイのために乙地に立ち入る旨の意思表示をしたキ YはXの乙地への立ち入りの妨害をした
う 承諾に代わる判決が可能である見解
承諾に変わる判決を認める見解の場合
→『ク』も請求原因に加わる
ク 住家への立ち入りについてX・Y間で協議が整わないこと
=YがXの当人の住家への立入りを承諾しないこと
※埼玉弁護士会『相隣関係をめぐる法律と実務〜現代型相隣紛争解決の手引〜』ぎょうせいp86
4 隣地使用による償金請求権の請求原因
隣地使用による一般的な償金請求権の請求原因です。
<隣地使用による償金請求権の請求原因>
ア Yは甲地の所有であるイ Yは,甲地と乙地の境界or乙地付近の甲地において障壁・建物の築造・修繕をすることウ Xは乙地を占有しているエ Yはイのため乙地に立ち入る必要があることを基礎づける事実オ Yはイのために甲地に立ち入ったことカ 『オ』によって発生した損害+その額
5 住家立入による償金請求の請求原因
住家立入による償金請求の請求原因です。
<住家立入による償金請求の請求原因>
ア Yは甲地の所有であるイ Yは甲地と乙地の境界or乙地付近の甲地において障壁・建物の築造・修繕をすることウ Xは乙地上の住家を占有しているエ Yはイのため住家に立ち入る必要があることを基礎づける事実オ XはYが住家に立ち入ることを承諾したことカ Yはイのために住家に立ち入ったことキ 『オ』によって発生したXの損害+その額 ※埼玉弁護士会『相隣関係をめぐる法律と実務〜現代型相隣紛争解決の手引〜』ぎょうせいp87