【賃料改定特約の無効と増減額請求権の行使としての扱い】
1 賃料改定特約の無効と増減額請求権の行使
2 特約の無効と増額請求権の行使(実例)
3 特約の無効と減額請求権の行使(実例)
1 賃料改定特約の無効と増減額請求権の行使
賃料改定特約は有用なものですが,状況によって無効となることもあります。
詳しくはこちら|賃料に関する特約の一般的な有効性判断基準(限定的有効説)
特約が無効であれば『特約に基づく賃料額の主張(請求)』も無効となるはずです。
この点,特約とは関係なく,法律上の制度として賃料増減額請求があります。
『特約に基づく賃料額の主張』は『賃料増減額請求権の行使』として扱われます。
<賃料改定特約の無効と増減額請求権の行使>
あ 特約の無効と通知の趣旨
自動改定特約に基づく賃料の増額が相当性を欠く
→特約が無効(失効)となった
→改定額の通知には『い』の意思表示が含まれる
い 意思表示の趣旨
改定特約が無効な場合には増減額請求をする旨
う 増減額請求の訴訟での扱い
『あ』の事情がある場合
→裁判所は増減額請求権の行使があったものとして扱う
→裁判所は適正な改定賃料の形成が可能である
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p867
※橋本和夫『地代・家賃紛争の調停制度』/『ジュリスト1006号』有斐閣1992年p125
以下,無効である賃料改定特約に基づく主張が『賃料増減額請求権の行使』として認められた裁判例を紹介します。
2 特約の無効と増額請求権の行使(実例)
賃料改定特約の主張が増額請求権の行使として認められた裁判例です。
<特約の無効と増額請求権の行使(実例)>
あ 賃料改定特約
ア 甲地
土地路線価の増減に応じて賃料も当然に増減するものとする
イ 乙地
昭和57年の固定資産税及び都市計画税又は同評価額もしくは路線価のうち最も増加率の高いものを基準としてその増減に応じて賃料も当然に増減するものとする
い 特約に基づく算定の内容
ア 甲地
昭和53〜61年 | 賃料増額率年平均10% |
昭和61〜62年 | 賃料増額率年平均20% |
昭和63年〜平成2年 | 前年比賃料増加率32.6〜99.9% |
イ 乙地
昭和58〜62年 | 賃料増額率年平均10% |
昭和63年〜平成2年 | 前年比賃料増加率33.3〜100% |
う 特約の有効性
著しく地価が高騰している
賃料改定特約に拘束力を認めることは相当性を欠く
→特約どおりの改定賃料の算定を行わない
え 賃料増額請求
昭和62年の賃料額を基準とした適正継続賃料を改定賃料額とする
→賃料増額請求権の行使があったのと同じことになった
※東京地裁平成3年3月29日
3 特約の無効と減額請求権の行使(実例)
賃料改定特約の主張が減額請求権の行使として認められた裁判例です。
<特約の無効と減額請求権の行使(実例)>
あ 和解による自動改定特約の合意
昭和41年8月
裁判上の和解が成立した
自動改定特約が合意された
い 自動改定特約の内容
賃料は,将来昭和41年度固定資産税及び都市計画税の総額を基準として,それら総額の増減率と同じ率で増減額する
う 税額の推移
特約合意前 | 昭和31〜41年度 | 2.28倍の上昇 |
特約合意後 | 昭和41〜54年度 | 21.86倍の上昇 |
え 特約の有効性
和解成立当時,当事者は『13年間で21.86倍の上昇』を予想できなかった
→自動改定特約に当事者を拘束させるのは公平の観点に照し妥当ではない
→自動改定条項は失効した
お 減額請求権の行使の具体的方法
賃料減額請求は具体的な額を明示することを要しない
単に値下げの要請・交渉であってもよい
か 特約の無効と減額請求権の行使
借地人が賃料の減額を要請した行為について
→減額請求権の行使として扱う
※名古屋地裁昭和58年3月14日