【賃料改定特約に関する紛争中の差額賃料と債務不履行】
1 賃料改定特約と差額賃料の不払い(基本)
2 賃料増減額請求の債務不履行回避規定の適用
3 賃料改定特約と差額賃料の不払い(解釈)
1 賃料改定特約と差額賃料の不払い(基本)
賃料改定特約は状況によって無効(失効)となることがあります。
詳しくはこちら|賃料に関する特約の一般的な有効性判断基準(限定的有効説)
有効性判断について当事者が合意できない限り,最終的には後から裁判所が判断することになります。
判断が確定するまでは『有効か無効か分からない状態』がしばらく続くのです。
そのため,判決が出た時点で『今まで支払っていた賃料は不足していた』という状況も生じます。
この差額の不払いについての法的扱いの基本的事項をまとめます。
<賃料改定特約と差額賃料の不払い(基本)>
あ 特約無効の主張
賃借人が賃料改定特約が無効であると主張している
賃料賃料特約により算定した賃料を支払わない
従前の賃料or自己が相当と判断する賃料を支払ってる
い 形式的な債務不履行
事後的に特約が有効であると判断され確定した
結果的に賃料支払義務の一部が不履行であったことになる
=解除が可能な状態である
う 救済的な規定の適用の有無
債務不履行を回避する規定は適用されない(後記※1)
2 賃料増減額請求の債務不履行回避規定の適用
賃料の差額の不払いについては,債務不履行を回避する規定があります。
ただし,賃料改定特約を原因とするケースに直接適用されるものではありません。
<賃料増減額請求の債務不履行回避規定の適用(※1)>
あ 増額請求権の規定(参考)
『賃料増減額請求』において
→暫定的な賃料の支払額が事後的に不足していても
→債務不履行にならない
※借地借家法11条2項
詳しくはこちら|賃料増減額の紛争中の暫定的な賃料支払(基本・誤解による解除事例)
い 増額請求権の規定の適用
賃料改定特約による賃料の改定について
『賃料増減額請求』には該当しない
→増額請求権行使時の規定(あ)は適用されない
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p868
3 賃料改定特約と差額賃料の不払い(解釈)
賃料改定特約を原因とする差額の不払いは,解釈として救済されることになります。
つまり,これを理由として契約が解除されることは解釈上否定されるのです。
<賃料改定特約と差額賃料の不払い(解釈)>
あ 賃料改定特約の趣旨
賃料改定特約は増減額請求の具体化である
※借地借家法11条2項
い 差額賃料不払いの法的扱い
事後的に差額賃料の不払い(前記※1)が生じた場合
→『う・え』のいずれかの扱いとなる
う 増減額請求の規定の類推適用
事後的な差額の不払いは債務不履行に該当しない
※借地借家法11条2項
え 信頼関係破壊の判断への流用
債務不履行解除の信頼関係破壊の判断において
増減額請求の規定の趣旨が考慮される
→特約の不遵守は解除に直結しない
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p868
※副田隆重『地代家賃の改訂手続』/『法律時報64巻6号』1992年p45,46