【利回り法における土地価格(建付減価・契約減価の有無)】
1 利回り法における土地価格(建付減価・契約減価の有無)
2 土地価格の内容
3 建付減価の意味と昭和40年代の減価率
4 昭和50年頃の裁判例に現れた建付減価(契約減価)
5 契約減価の意味と契約減価を適用する見解
6 契約減価を実質的に反映した裁判例
7 不動産鑑定評価基準の基礎価格の規定(概要)
1 利回り法における土地価格(建付減価・契約減価の有無)
借地の継続賃料の算定方式のうち,利回り法(積算法)の計算では,基礎価格に利回りをかけたものに必要経費を加えたものを改定賃料とします。
この基礎価格は,一般的に,土地価格から借地権価格を控除した金額(=底地価格)を使います。
詳しくはこちら|利回り法における基礎価格(借地権価格を控除した底地価格)
ここで使う土地価格としてどのような金額を使うのか,ということについてはいくつかの問題があります。本記事では,土地価格の計算方法について説明します。
2 土地価格の内容
まず,土地価格としては,更地価格と建付地価格の2とおりの考え方があります。現在では建付地価格を使うのが一般的です。
<土地価格の内容>
あ 更地価格を採用する見解
土地価格として更地の価格を採用する
※多数の裁判例
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p754
い 建付地価格を採用する見解
土地価格として,更地価格に建付減価(後記※1)をしたもの(建付地価格)を採用する
※大阪地判昭和43年8月30日
※東京地判昭和44年11月15日
う 契約減価をした価格を採用する見解(概要)
裁判例,不動産鑑定評価基準は,土地価格として契約減価をした価格を採用する傾向がある(後記※2)
3 建付減価の意味と昭和40年代の減価率
利回り法の計算の中の土地価格として,建付地価格を使う見解も以前はありました。この建付地価格とは,更地価格に建付減価をしたものです。
一般的な「建付減価」の意味は,建物の解体費用相当額を控除するというものです。しかし,古い裁判例では更地価格の一定割合を控除するものがありました。今でいう場所的利益(の控除)の考え方と同じようなものです。
<建付減価の意味と昭和40年代の減価率(※1)>
あ 現在の建付減価の意味(概要)
建物の存在により土地(敷地)が最有効活用を妨げられていることによる減価
土地(敷地)の評価(建付地評価)は,建物と土地(敷地)の全体の価値のうち,敷地部分の価値ということになる
建物を解体することが妥当である場合には,土地の価格は更地価格から建物解体費用相当額を控除した額になる
詳しくはこちら|「建付地」の鑑定評価と「建付減価」の意味
い 昭和40年代の減価率(参考)
当時の鑑定評価理論上いわゆる建付減価の幅は普通,更地価格の0〜10%,特に5〜10%といわれていた。
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p754
4 昭和50年頃の裁判例に現れた建付減価(契約減価)
利回り法の計算の中で「建付減価」が登場した昭和50年頃の裁判例があります。言葉としては「建付減価」という表記ですが,中身は本来の「建付減価」とは異なっています。実際には,借地契約により土地の活用が制限されていることによる減価(いわゆる契約減価)のことを意味するものといえます。
<昭和50年頃の裁判例に現れた建付減価(契約減価)>
あ 45%を否定した裁判例
(原審は更地価格の45%をいわゆる建付減価した)
原審は不相当である
※東京高判昭和50年9月29日
い 40%を採用した裁判例
次に,建付減価率について・・・本件土地は,北側200坪余りの部分には被告所有の木造平家建貸家居宅5戸が建設されており,南側約320坪余りの部分は転借人17名に細分転貸されこれら転借人所有の木造平家建もしくは2階建の居宅もしくは店舗等が建設されており,しかも東が国道に接面するほか南のすぐそばに高架の高速道路(中国縦貫自動車道)があるため2,3階の建物を建築すれば騒音,排気ガスの公害がある(従って,本件土地の最有効使用の用途は運輸関連企業用地である)ことが認められることからすれば,本件土地は,最有効使用からは著しくかけはなれた形で使用されているとみられるので,建付減価率は,S鑑定のいう25パーセントでは低きに失し,O鑑定のいう40パーセントが正しいとみられる。
※大阪地判昭和50年9月22日
う 「建付減価」の2義
「あ・い」の裁判例における減価は一般的な「建付減価」とは異なる
不動産鑑定評価理論上いわゆる「契約減価」(後記※2)といわれていたものに相応する
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p754
5 契約減価の意味と契約減価を適用する見解
利回り法の中の土地価格としては,更地価格から契約減価をした金額を使う,という見解が有力です。現実の状態を前提とした土地の価値,という意味です。
<契約減価の意味と契約減価を適用する見解(※2)>
あ 契約減価の意味
契約減価とは,(最有効活用を前提とした価値を基準として)借地契約に定められた使用目的及び方法により生じる減価である
い 契約減価を採用する見解
継続賃料としての相当賃料を求める前提としての当該土地の経済価値の把握であるから,それは必ずしも当該土地の最有効使用に即応する経済価値を意味するものではなく,借地契約に定められた使用目的及び方法により減価(契約減価)を加えられるべき場合のある経済価値に外ならない
基礎価格というものを,土地の経済価値,すなわち交換価値とのみ考えるのではなく,借地契約により具体的に制約を受けている土地の現実的な収益というものを顧慮することを認めるような意味の経済価値・元本価格を考えていた
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p754,755
う 裁判例からの読み取り
(後記※3)のような裁判例の基礎価格に関する考えは,平成12年基準,同15年基準が,この度,採用した基礎価格の定義(後記※4)と整合するものであり,また賃料の価格時点(賃料の算定の期間の期首)における元本価格(基礎価格)を原価法と取引事例比較法により求めるべきであるとする点にも留意しなければならない。
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p755
6 契約減価を実質的に反映した裁判例
裁判例としても,実質的に契約減価した金額を土地価格として使っているといえるものがあります。
<契約減価を実質的に反映した裁判例(※3)>
あ 木造からの脱却阻止の反映
当該借地の周囲はほとんど堅固建物であるが,地主の反対のために木造建物であることを余儀なくされている
土地価格として,期待価格を包含している更地価格から期待価格を分析してこれを控除した現況価額を採用した
利回り方式に基づく賃料額の50%を減価した
※大阪地判昭和40年7月13日
い 増築措置の反映
地主が増改築禁止の特約を楯にして増築を拒否している
借地の効率的利用ができない事情を考慮すべきである
※仙台高判昭和51年2月4日
う 建替不可の反映
地上建物の建替の必要はあるが法律上,建築確認を受けられない
→地代の算定において建替不能であることを考慮する
※東京地判昭和52年6月30日
7 不動産鑑定評価基準の基礎価格の規定(概要)
現在の(平成12年改定以降の)不動産鑑定評価基準に,土地価格の内容が明記されているわけではありませんが,土地価格として契約減価をしたものを使うことと整合する規定になっているともいえます。
<不動産鑑定評価基準の基礎価格の規定(概要)(※4)>
継続賃料の算定方式のうち利回り法において
基礎価格については原価法及び取引事例比較法により求める
詳しくはこちら|利回り法における基礎価格(借地権価格を控除した底地価格)
本記事では,継続賃料の算定方式のうち利回り法で使う「土地価格」の内容を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
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