【宅建業者が依頼者以外に対して負う注意義務(調査・説明義務)】
1 依頼者以外への注意義務(総論)
2 依頼者以外への配慮に関する規定
3 依頼者以外への信頼関係
4 依頼者以外への宅建業者の注意義務
5 黙示の委託関係を認定する見解
1 依頼者以外への注意義務(総論)
宅建業者と委託(依頼)した者との関係は準委任契約です。
詳しくはこちら|仲介契約の基本(元付/客付・準委任の扱い・誠実義務・善管注意義務)
宅建業者は依頼者に対して契約に基づく善管注意義務を負います。
そして,取引の両方の当事者が同じ宅建業者に依頼するケースも多いです。
いわゆる『両手』と呼ばれる方式です。
詳しくはこちら|仲介業者の不正|全体|片手と両手・両手の誘惑・ダブル両手
しかし,当事者のそれぞれが別の宅建業者に媒介の依頼をすることもあります。
この場合でも,宅建業者は『取引当事者のうち依頼を受けていない者』に対して一定の注意義務を負います。
本記事では,このように依頼を受けていない者に対して宅建業者が負う義務について説明します。
2 依頼者以外への配慮に関する規定
宅建業者と『依頼者以外の当事者』の関係に関する規定がいくつかあります。
<依頼者以外への配慮に関する規定(※1)>
あ 基本的事項
宅建業者は『取引の関係者』に対して
『い〜え』の規制が適用される
依頼者に限定されていない
い 信義誠実義務
信義を旨とし誠実にその業務を行わなければならない
※宅建業法31条
う 重要事項説明義務
重要事項を書面で説明しなければならない
※宅建業法35条
え 事実の不告知・不実告知の禁止
重要事項について事実の不告知・不実告知が禁止される
※宅建業法47条1項
※東京地裁昭和33年5月21日
3 依頼者以外への信頼関係
宅建業者と『依頼者以外の当事者』の関係には,現実には一定の信頼が生じます。
<依頼者以外への信頼関係(※2)>
あ 宅建業者の立場
宅建業法は,免許を受けて宅地建物取引業を営む者である
不動産取引について専門的知識・経験を有する者である
い 一般的な信頼
宅建業者が収集・分析した情報に対して
第三者も大きな信頼を寄せている
依頼者に限られない
宅建業者の介入によって取引に過誤がないことを期待されている
※東京高裁昭和32年11月29日
※東京地裁昭和49年11月14日
4 依頼者以外への宅建業者の注意義務
以上のような事情から,宅建業者は依頼者以外の取引当事者に対しても注意義務を負います。
<依頼者以外への宅建業者の注意義務>
あ 基本的事項
前記※1,※2より
宅建業者は,不動産取引の相手方に対して
業務上の一般的な注意義務がある
委託関係がなくてもあてはまる
い 注意義務の内容
信義誠実を旨とする
取引の過誤による不測の損害を生じせしめないように配慮する
う 注意義務の具体例
『ア・イ』などについて格段の注意を払う
ア 目的不動産の瑕疵イ 権利者の真偽
※最高裁昭和36年5月26日(※3)
※東京地裁昭和33年5月21日
※東京高裁昭和32年11月29日
※東京地裁昭和49年11月14日
※名古屋高裁昭和59年11月10日
5 黙示の委託関係を認定する見解
以上の解釈と同様の結果になるけれど,理論的には異なる見解もあります。
宅建業者と形式的に委託(依頼)関係がない取引当事者との間に黙示の委任を認めるというものです。
<黙示の委託関係を認定する見解>
あ 黙示の委託関係
宅建業者と明示の委託がない当事者の間について
仲介の過程において黙示の委託関係が成立している
い 法的責任の種類
宅建業者の不注意について
→債務不履行と解する
う 批判対象の判例
※最高裁昭和36年5月26日(前記※3)
※明石三郎『 不動産仲介契約の研究』一粒社1977年p210
どちらの見解でも,宅建業者は,両方の取引当事者に対して注意義務を負います。