【権利(所有権・担保負担)に関する仲介業者の調査・説明義務】
1 権利に関する仲介業者の調査・説明義務(総論)
2 他人物売買の仲介の調査義務
3 権利関係に問題のある不動産の仲介の注意義務
4 担保の負担に関する仲介の調査義務(有責事例)
1 権利に関する仲介業者の調査・説明義務(総論)
不動産取引の仲介業者(宅建業者)は,問題が生じないように注意する義務があります。
いろいろな事項についての調査と説明をする義務です。
詳しくはこちら|不動産売買における調査・説明義務の基本(一般的基準)
調査・説明をする事項の代表的なものは取引の目的物の権利です。
一般的な注意義務の内容は,公的な情報により,権利者や他の権利の負担の有無を確認することです。
しかし,注意義務の内容がさらに高くなることもあります。
以下説明します。
2 他人物売買の仲介の調査義務
権利関係に問題があるケースの代表的なものは他人物売買です。
そのままでは,売買契約を締結しても買主は所有権を得られません。
取引の当事者が想定外の損失を生じないように,仲介業者は調査する義務があります。
<他人物売買の仲介の調査義務>
あ リスクの高さ
他人が所有する不動産の売買について
所有者本人が自ら売主となる場合に比べて
目的不動産を取得することができるか否かに不安がある
い 権利に関する調査義務
仲介業者は目的不動産の権利関係について調査する義務を負う
権利関係に問題のある土地を仲介することのないようにする
例;売主の所有に属さない
※神戸地裁尼崎支部昭和63年2月25日
3 権利関係に問題のある不動産の仲介の注意義務
売主に権利がない不動産の取引を誤ってしてしまうと買主は大きな損失を受けます(前記)。
しかし,取引の中には,売主に権利がなくても,後日権利を得ることを想定して行う取引もあります。
このようなケースでは,仲介業者は,後日,想定どおりに買主が権利を得る可能性を把握することが求められます。
他の権利の負担がある目的物について,後日負担が解消されることも同様です。
とにかく,仲介業者は『取引時点の権利の状態』を説明するだけでは説明が不足しているのです。
<権利関係に問題のある不動産の仲介の注意義務>
あ 対象の取引
権利関係に問題のある不動産の取引
例;他人の不動産であることを知りながら取引する
い 注意義務のレベル
仲介業者は,通常よりも高度の注意を払う義務を負う
う 注意義務の内容
買主が売主から安全・確実に不動産を取得することができるようにする
例;不動産が所有者から売主に確実に移転する
※川井健ほか『新 裁判実務大系(8)専門家責任訴訟法』青林書院2004年p172
4 担保の負担に関する仲介の調査義務(有責事例)
取引目的物の権利に関する仲介業者の調査義務違反が認められた実例を紹介します。
<担保の負担に関する仲介の調査義務(有責事例)>
あ 売買契約締結
Xは,宅建業者Yに土地購入の仲介を委託した
Xは,Yの仲介でAから土地を購入した
Xは売買代金をすべて支払った
い 根抵当権の負担の発覚
売買契約と残代金支払との間において
土地に根抵当権設定登記が経由されていたことが判明した
内容=Aを債務者,第三者Bを債権者とする
う 責任の有無(裁判所の判断)
仲介業者Yについて調査説明義務違反を認めた
調査の内容=土地の権利関係
仲介業者Yの債務不履行責任を認めた
え 賠償金額(裁判所の判断)
損害の全体=根抵当権の極度額900万円
過失相殺=5割(Xの過失割合)
賠償額=450万円
※東京地裁平成8年7月12日
本記事では,不動産売買における権利に関する仲介業者の調査義務について説明しました。
実際には,細かい事情や主張・立証によって結論が違ってくることがあります。
実際に仲介業者の調査に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。