【解除権の消滅時効と解除により生じる債権の消滅時効】

1 解除権と解除により生じる債権の消滅時効(総論)
2 解除権の消滅時効(基本)
3 形成権の消滅時効の判例の集約(参考)
4 賃料不払による解除権の消滅時効の起算点
5 無断転貸による解除権の消滅時効の起算点
6 解除により生じる債権の消滅時効

1 解除権と解除により生じる債権の消滅時効(総論)

いろいろな契約について,解除を行うケースがよくあります。
実際には,売買契約と賃貸借契約を解除するものが多いです。
解除ができる事情(要件)は,その根拠によっていろいろなものがあります。
そして,解除の根拠(責任の種類)ごとに,解除できる期間制限があります。
詳しくはこちら|売買・請負に関する責任の期間制限と実務的な選択
解除する根拠とは別に,『解除権自体の消滅時効』もあります。
さらに,解除した後の別の処理に関する期間制限もあります。
本記事では,解除権の消滅時効と解除により生じた債権の消滅時効について説明します。

2 解除権の消滅時効(基本)

解除権の消滅時効は,判例により認められています。

<解除権の消滅時効(基本)>

あ 解除権の性質

解除は形成権である
他の形成権では一般的に消滅時効が適用されている(後記※1

い 解除権の消滅時効(基本)

『解除により生じる債権』(後記※4)と同じ扱いとなる

う 時効期間

ア 原則 10年 ※民法167条1項
イ 商行為による取引 5年 ※商法522条
※大判大正5年5月10日
※大判大正6年11月14日;株式売買委託契約の解除について
※大判大正7年4月13日
※最高裁昭和35年11月1日
※最高裁昭和56年6月16日;借地契約の解除について

う 消滅時効の起算点

解除事由の発生時が起算点となる
※大判大正6年11月14日
解除事由の発生時点は事案によって認定される(後記※2,※3)

3 形成権の消滅時効の判例の集約(参考)

解除権の消滅時効については,形成権の消滅時効との整合性が考えられています(前記)。
いろいろな形成権について,古い時期の判例で消滅時効が認められてきています。

<形成権の消滅時効の判例の集約(参考;※1)>

あ 基本的時効

形成権一般について
→消滅時効の適用が認められている
『い〜お』の権利の消滅時効が判例で認められている

い 再売買の予約完結権

※大判大正4年7月13日

う 株式売買委託契約の解除権

※大判大正6年11月4日

え 白地小切手の補充権

※最高裁昭和36年11月24日

お 建物買取請求権

※借地法10条
※最高裁昭和42年7月20日
※最高裁昭和52年9月21日

4 賃料不払による解除権の消滅時効の起算点

解除権の消滅時効の起算点は解除事由の発生時です(前記)。
その具体的な内容を示している判例があります。
まずは賃料不払を理由とした賃貸借契約の解除についての判例を紹介します。

<賃料不払による解除権の消滅時効の起算点(※2)

あ 賃料不払による解除

継続した地代不払があった
地主は地代不払を理由として解除した
地代不払の全体を一括して1個の解除原因として主張した

い 解除権の消滅時効の起算点

最後の地代の支払期日が経過した時を起算点とする
※最高裁昭和56年6月16日

5 無断転貸による解除権の消滅時効の起算点

無断転貸を理由とした解除権の消滅時効の起算点についての判例を紹介します。

<無断転貸による解除権の消滅時効の起算点(※3)

あ 無断転貸による解除

土地賃貸借の賃借人が無断転貸を行った
転借人が土地の使用収益を行った
地主は無断転貸を理由として解除した

い 解除権の消滅時効の起算点

転借人が土地の使用収益を開始した時を起算点とする
※最高裁昭和62年10月8日

6 解除により生じる債権の消滅時効

期間制限に抵触せずに解除できたとしても別の期間制限もあります。
『解除によって生じた債権』の消滅時効です。

<解除により生じる債権の消滅時効(※4)

あ 解除により生じる債権の具体例

ア 原状回復請求権イ 損害賠償請求権

い 消滅時効の適用

解除権の行使によって生じる債権(あ)について
→消滅時効が適用される

う 時効期間

ア 原則 10年 ※民法167条1項
イ 商行為による取引 5年 ※商法522条
※大判大正5年5月10日
※大判大正6年11月14日;株式売買委託契約の解除について
※大判大正7年4月13日
※最高裁昭和35年11月1日
※最高裁昭和56年6月16日

え 消滅時効の起算点

解除時が起算点となる
※大判大正7年4月13日
※最高裁昭和35年11月1日

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