【既存不適格建物の適用除外(建築基準法3条2項)】

1 既存不適格建物の適用除外
2 既存不適格建物の条文規定
3 既存不適格の規定の性格
4 規定の施行または適用
5 工事中の意味
6 法令の適用除外の具体的内容
7 既存不適格建物の再築・改築
8 既存不適格による適用除外の典型例
9 既存不適格と建付増価(参考・概要)

1 既存不適格建物の適用除外

建築基準法は文字どおり,建築に関する基準が規定されています。
建築基準法は継続的に内容が変更されています。
そうすると,以前は適法であった建物が,新たなルールだと違法となるケースが生じます。
このような場合,既存の建物については,新たなルールを適用しないという扱いがあります。
既存不適格建物の適用除外と呼んでいます。
本記事では,既存不適格建物の規定について説明します。

2 既存不適格建物の条文規定

まず,既存不適格建物の適用除外の条文の規定を整理します。

<既存不適格建物の条文規定>

あ 基準時点

『ア〜ウ』の法令の規定の施行or適用(後記※2)の時点
ア 建築基準法イ 建築基準法に基づく命令ウ 建築基準法に基づく条例

い 対象となる建物・敷地(※1)

ア 現存建物 『あ』の時点において
現に存する建築物・その敷地
イ 工事中の建物 現に建築・修繕or模様替の工事中(後記※3)の建築物・その敷地

う 新規規定との抵触

『い』の建物の全部or一部について
新たな法令の規定に適合しない

え 適用除外(概要)

対象となる建物・敷地(前記※1)について
→新たな法令の規定は適用しない(後記※4
※建築基準法3条2項

3 既存不適格の規定の性格

既存不適格建物の適用除外の規定の性格は,法改正の経過措置を一括してルールにしたというものです。

<既存不適格の規定の性格>

あ 経過措置という性格

建築基準法の改正・地域や地区の変更などにおける
経過措置を定めたものという性格を持つ

い 典型的経過措置の一括

『あ』のような規定の変化により経過措置が必要となる
典型的な経過措置を一括して法律の条文として規定した

う 一般的な法令改正の措置(比較)

一般的な法令改正において
通常は改正法令の附則で経過措置を規定する
※逐条解説建築基準法編集委員会『逐条解説 建築基準法』ぎょうせい2012年p30

4 規定の施行または適用

既存不適格建物に該当するのは『規定の施行or適用』の時点での一定の建物です(前記)。
『規定の施行or適用』の内容にはいくつかのバリエーションがあります。

<規定の施行または適用(※2)

あ 命令・条例の内容

ア 建築基準法に基づく政令・省令・条例イ 政令に基づく条例 例;令128条の3第6項に規定する条例

い 法令の施行or適用の内容

ア 建築基準法が制定され初めて施行されたイ 建築基準法の一部の改正法が施行されたウ 区域の規制が適用された(う)

う 区域の規制の適用の内容

一定の区域・地域・地区内に限り適用される規定について
例;第3章の各規定,屋根不燃区域(22条),災害危険区域(39条)
→『ア・イ』のいずれかが生じた
ア 区域・地域・地区に初めて指定されたイ 区域・地域・地区の指定に変更があった ※逐条解説建築基準法編集委員会『逐条解説 建築基準法』ぎょうせい2012年p29

5 工事中の意味

既存不適格建物に該当する建物の『工事中』という意味は,工事に着工後のものだけです。
工事着工前のものは,改正後のルールが適用されるということです。

<工事中の意味(※3)

進捗状況 『工事中』に該当するか
建築の計画中 該当しない
建築確認を受けた 該当しない
工事に着工した 該当する

※逐条解説建築基準法編集委員会『逐条解説 建築基準法』ぎょうせい2012年p29

6 法令の適用除外の具体的内容

既存不適格建物は新しい規定が適用されません。
具体的には,違反としての刑事罰や行政処分の対象にならない,という内容です。

<法令の適用除外の具体的内容(※4)

あ 基本的事項

既存不適格建物に該当する(前記※1
→違反として扱わない
具体的内容は『い・う』がある

い 刑事罰の適用除外

違反による刑事罰について
詳しくはこちら|建築基準法の違反(違法建築)への罰則と行政的措置
→適用されない

う 行政処分の適用除外

違反による行政処分について
例;建物の除却命令
詳しくはこちら|建築基準法の違反(違法建築)への罰則と行政的措置
→適用されない

7 既存不適格建物の再築・改築

既存不適格建物の法的な制限は一切ないというわけではありません。
再築や改築は原則的にできません。
現実的に利用・活用できる範囲は,現状のまま居住などに使い続けるというものだけです。

<既存不適格建物の再築・改築>

あ 再築・改築の扱い

再築や改築の建築確認において
詳しくはこちら|建築確認|審査内容=建築基準法等の適合性|審査の流れ|建設主事・特定行政庁
→既存不適格建物の適用除外にはならない
=不適合となる

い 既存不適格建物の活用の限界

既存不適格建物について
→再築や改築はできない
現状の建物を維持することだけは可能である

8 既存不適格による適用除外の典型例

実際に既存不適格建物はとても多く存在しています。
特定の『現在のルール』に違反しているけれど違反扱いされないという状況です。
抵触している現在のルールの種類で分類してみます。

9 既存不適格と建付増価(参考・概要)

ところで,既存不適格の建物は,合法的な現行法の上限を超えた活用レベルを有するともいえます。合法的な既得権ということもできます。そこで,既存不適格の建物が存在することにより,土地(敷地)が更地を超える価値を持つということがありえます。建付増価というものです。
詳しくはこちら|「建付地」の鑑定評価と「建付減価」の意味

本記事では,建築基準法の既存不適格について説明しました。
実際には,個別的な事案によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に建築基準法の適合性などの不動産に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

共有不動産の紛争解決の実務第2版

使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第2版 弁護士・司法書士 三平聡史 著 使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記、税務まで 第2班では、背景にある判例、学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補! 共有物分割、共有物持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続きを上手に使い分けるためこ指針を示した定番書!

実務で使用する書式、知っておくべき判例を多数収録した待望の改訂版!

  • 第2版では、背景にある判例・学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分けるための指針を示した定番書!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【建物の老朽化による建物賃貸借終了・明渡の裁判例の集約】
【建築基準法の建物の耐震基準(新/旧耐震基準)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00