【表示の登記の職権/申請の分類(分筆・合筆登記の例外扱い)】
1 表示の登記の職権/申請の分類(分筆・合筆登記の例外扱い)
不動産の表示の登記は、権利の登記とは、手続的な扱いが大きく異なります。所有者などの当事者が申請しなくても法務局が職権で登記をする、という扱いがあるのです。ただし、分筆、合筆については表示の登記の中でも特殊な扱いがあります。
本記事では、表示の登記がどのように行われるか、ということについて説明します。
2 職権による表示登記(基本)
表示登記は、権利の登記とは違って、物理的な状況を記録するものです。所有者などの権利者の利害と直結するわけではないので、登記官(法務局)が判断できること、また正確性の確保が必要であるということから、原則的に職権による登記が可能となっています。
職権による表示登記(基本)
あ 条文
(職権による表示に関する登記)
第二十八条 表示に関する登記は、登記官が、職権ですることができる。
※不動産登記法28条
い 趣旨→現況主義
土地の地目、建物の新築、増築等不動産の形状等は、客観的に明らかであることがあり、また、登記官が自己の資質と能力をもって判断できる事項でもあることがあるからである。
この表示の登記は、不動産の客観的現況を公示し、取引関係者に権利の内容を知らしめある作用を持つとともに、固定資産税台帳の基礎をなしているし、さらに道路建設、土地改良、土地区画整理、土地の利用計画等土地に関する行政上も基礎資料となるものであるから、職権ででも登記することとして、正確性を確保しようとしたものである。
※田中康久稿/林良平ほか編『注解不動産法 第6巻 不動産登記法 補訂版』青林書院1992年p179
3 創設的登記の特別扱い
表示登記の種類の中には創設的なものもあります。創設的な登記は、所有権への影響が大きいので、権利者(所有者)が関与なく行ってしまうのはよくありません。そこで、創設的な登記は例外的に、職権による登記ができず、申請が必要です。代表的なものは、土地については分筆、合筆の登記です。建物については、分割、合併、また、区分所有にする登記です。
なお、建物を区分所有とすることについては、(登記ではなく)実体上も所有者の意思が必要とされています。
詳しくはこちら|区分所有権の主観的要件(区分所有の意思)
創設的登記の特別扱い
例えば、土地の分筆合筆の登記、建物の分割・区分・合併の登記、共用部分たる旨および共用部分の廃止の登記である。
財産権の自由処分権を当事者に委ねているわが国の法制の下では、これらは、当事者の自由な意思に委ね、当事者が希望する場合に限って処理するものとすることが相当であるからである。
※田中康久稿/林良平ほか編『注解不動産法 第6巻 不動産登記法 補訂版』青林書院1992年p181
4 申請による分筆・合筆登記の原則(条文)
土地の分筆・合筆の登記は、創設的登記なので、職権による登記ができません。
申請する当事者は、原則として、表題部所有者と所有権登記を得ている者です。これらの者が申請して初めて、分筆・合筆の登記がなされるのです。
申請による分筆・合筆登記の原則(条文)
※不動産登記法39条1項
5 共有土地の分筆登記の申請人(持分過半数の共有者)
土地が共有である場合に、分筆(や合筆)登記をする場合の申請人については、令和3年改正で変わりました。
単純に考えると、土地の個数が変わるので、変更として、共有者全員の同意が必要、つまり登記申請も共有者全員が必須、となります。
この点、令和3年改正で「変更」の中でも「軽微な変更」は管理扱いとする、という規定ができました。
詳しくはこちら|共有物の「軽微変更」の意味や具体例(令和3年改正による新設)
登記実務では、分筆と合筆登記が、「軽微な変更」にあたるという扱いになっています。つまり、持分の過半数の共有者だけが登記申請人となれば足りる、ということです。
なお、令和3年改正で規定として作られた共有物の管理者は、管理行為(軽微変更を含む)をする権限があります。そこで、共有物の管理者が分筆・合筆登記をすることができますが、登記申請の際には選任されたことが示されている書面が代理権限証書となります。
詳しくはこちら|共有物の管理者の制度(令和3年改正)
共有土地の分筆登記の申請人(持分過半数の共有者)
あ 現在(令和3年改正後)
分筆又は合筆の登記については、前記(1)の軽微変更に該当し、分筆又は合筆の登記を申請しようとする土地の表題部所有者又は所有権の登記名義人(不登法第39条第1項)の持分の価格に従い、その合計が過半数となる場合には、これらの者が登記申請人となって分筆又は合筆の登記を申請することができ、それ以外の共有者らが登記申請人となる必要はない・・・
※法務省民事局長令和5年3月28日『法務省民二第533号』通達p2
い 令和3年改正前の扱い(参考)
ア 分類→処分行為
分筆の登記は、これにより法律上の土地の個数を変更するものであるところから、処分行為と解されている。
※昭和37年3月13日民事三発第214号法務省民事局第三課長電報回答(共有物の処分または変更に該当する)
※表示登記研究会編『分筆登記の実務』きんざいp22(共有物の処分行為に該当する)
イ 共有者の一部による申請→却下
共有名義の土地について、共有者の一部の者から、保存行為として、分筆の登記を申請することは認められないこととされている
これに違背する登記申請の却下条項については、若干の疑義があるが、分筆の登記申請書に記載された申請人の表示が登記簿上のそれと符合しない場合(前掲の1(一八頁)参照)と同様、申請書に適法な申請人の表示の記載がないものとして、法49条4号の規定により、却下するのが相当と解する。
※表示登記研究会編『分筆登記の実務』きんざい1994年p22
6 共有土地の分筆登記の申請人(遺産分割)
ところで、土地が共有となる原因としては、相続が非常に多いです。相続によっていったん共有となっても、通常、遺産分割で単独所有にする結果とすることが多いです。たとえば、土地を分筆した上で、1筆ごとに各相続人の単独所有にする方法(現物分割)です。
この場合、登記上は(形式的には)被相続人が所有者となっていることがありますが、その場合に、被相続人が申請者となることはできないので、相続人が申請者となります。相続人が複数人いる場合は、相続人の全員が共有しているということになりますので、相続人のうち(持分(相続分)の)過半数が分筆登記の申請人となる必要があるはずです。
この点、遺産分割協議書(または審判書)があり、別紙として地積測量図が添付されている場合は、共有者の1人だけが分筆登記の申請人になることで足ります。
共有土地の分筆登記の申請人(遺産分割)
あ 相続人による申請
遺産分割協議の結果、1筆の土地を分割して、分割後のそれぞれの各土地について相続人が各自単独所有する場合には、相続による所有権の移転の登記の前提として、分筆の登記を申請する必要がある。
・・・法42条の規定を準用して、相続人から、相続を証する書面を添付して分筆の登記を申請することができる。
※『質疑応答6063・6064』/『登記研究419号』p64
い 相続人1人による申請
ア 見解
甲の相続に関する遺産分割協議の結果、1筆の土地を2筆に分割し、分割後の各土地の一方を相続人甲1が、他方を相続人甲2がそれぞれ単独所有することとなった場合・・・遺産分割協議書にその地積測量図が添付されているときは、・・・当該遺産分割協議書によって、具体的な分割の方法が明らかであって、誰から申請しても当該遺産分割協議書に添付されている地積測量図のとおりにしか分筆できないところから、(当該分筆の登記の申請を、甲1または甲2から、単独で申請することができるか、ということについて)積極的に解すべきであろう。
イ まとめ
相続人からする分筆登記の申請は、共同相続人全員からはもちろん、遺産分割等の結果、当該土地を相続することとなった相続人のみからでもよい
※表示登記研究会編『分筆登記の実務』きんざい1994年p24、25
遺産分割(現物分割)による分筆登記は、この理論とは別に、次に説明する代位の方式で申請することもできます。
7 共有物分割・遺産分割による分筆登記の代位申請
ところで、現物分割は、遺産分割として行うほかに、共有物分割として行うこともあります。
共有物分割(としての現物分割)の場合には、前述の相続人による登記の方式は使えません。相続人による登記は、登記上の所有者である被相続人は存在しないことによる例外だからです。
だからといって、共有物分割が判決によりなされたケースでは、過半数の持分を持つ共有者の協力を得ることはできないこともあります。判決を得ても登記できないということでは困ります。では、判決主文に分筆登記が記載されていれば単独申請できるか、というと、もともと登記義務者と登記権利者の共同申請ではないので、判決による登記申請意思の擬制は使えません。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の訴状の請求の趣旨・判決主文の実例
結論として、現物分割の分筆登記は、対象部分を得る者が代位して申請することができます。代位による分筆登記申請は、共有物分割だけでなく遺産分割の場合でも可能です。
共有物分割・遺産分割による分筆登記の代位申請
→対象土地の取得者が分筆登記の代位申請をすることができる
※平成6年1月5日民三第265号民事局第三課長回答(共有物分割について)
※平成2年4月24日民三第1528号民事局第三課長回答(遺産分割について)
8 例外的な職権による分筆・合筆登記
分筆・合筆登記は原則的に職権では行なえません。
しかし、例外的に職権で行えることや、行わなくてはならないこともあります。
例外的な職権による分筆・合筆登記
あ 必要的な職権登記
『ア・イ』のいずれかの場合
→登記官は職権で分筆登記をする義務がある
ア 一筆の土地の一部が別の地目となったイ 地番区域を異にするに至った
※不動産登記法39条2項
い 任意的な職権登記
『ア・イ』のいずれにも該当する場合
→登記官は職権で分筆or合筆登記をすることができる
ア 14条地図を作成するために必要があるイ 所有者の異議がない
※不動産登記法39条3項
本記事では、表示の登記がどのように行われるか、ということについて説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の登記に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。