【建物売買後の改修コスト(耐震基準・アスベスト)発覚によるトラブル】
1 建物の改修コストによる売買のトラブル(総論)
2 建物・ビルの改修によるコスト
3 売買における耐震性・アスベストに関する調査
4 建物の耐震補強工事が必要となる典型例
5 耐震基準の変更(概要)
6 アスベスト対策工事が必要となる典型例
1 建物の改修コストによる売買のトラブル(総論)
建物のコンディションによっては改修が必要になります。
当然,改修の規模によっては工事費用が多額になり,長期の工事期間を要します。
売買の後で改修の必要性が発覚した場合は,売買に関する当事者の責任が発生することもあります。
逆にいえば,売買の段階でこのような状況を調査しておくべきなのです。
本記事では,このような回収コストに関する売買のトラブルについて説明します。
2 建物・ビルの改修によるコスト
まずは,ビルなどの建物の改修コストを整理します。
所有しているだけで,潜在的なコストを負担していることになります。
<建物・ビルの改修によるコスト>
あ 基本的事項
建物のコンディションによっては将来改修工事が必要となる
→将来,多額の費用を要することにつながる
い 典型例
3 売買における耐震性・アスベストに関する調査
前記のように,建物の耐震性やアスベストの使用については,売買の際に調査しておくことが望ましいです。
調査する内容をまとめます。
<売買における耐震性・アスベストに関する調査>
あ 売買における調査内容
ア 新築時の耐震基準の内容
旧耐震基準or新耐震基準(後記※2)
イ 過去の耐震補強工事歴
工事の内容も含む
ウ アスベスト(石綿)の使用の有無
撤去工事の時期や内容も含む
い 調査不足のケースの責任(概要)
売買の後から『改修工事の必要性』が発覚した場合
→瑕疵担保責任や調査・説明義務違反の責任が生じることがある
→売主や仲介業者がこれらの責任を負うことになる
詳しくはこちら|売買契約に関する責任の種類(瑕疵担保・債務不履行・不法行為)
4 建物の耐震補強工事が必要となる典型例
実際に建物の耐震補強工事が必要となる状況はよくあります。
建築時に設定した基準が低い,とか,メンテナンスとしての補強工事の不備が典型的な要因です。
<建物の耐震補強工事が必要となる典型例(※1)>
あ 建築・建築時期
『旧耐震基準』(後記※2)により建物が建築されている場合
→耐震強度が弱いことがある
→安全の確保のために補強工事が必要となる
い 過去の耐震補強工事
過去に耐震補強工事が行われている
しかし,この工事内容が不十分であった場合
→事実上,改めて補強工事を行うことが必要となる
※『エコノミスト2015年4月14日』p33,35参照
5 耐震基準の変更(概要)
耐震基準は,昭和56年に大きく変更されました。
建築時期によって,設定された耐震強度が違うのです。
耐震基準の変化の概要をまとめておきます。
<耐震基準の変更(概要)(※2)>
あ 変更時期
建物の耐震基準について
昭和56年(1981年)に大きく改正された
い 変更の内容
建設時期 | 耐震基準 |
昭和56年6月1日以前 | 旧耐震基準(旧耐震) |
昭和56年6月1日以降 | 新耐震基準(新耐震) |
詳しくはこちら|建築基準法の建物の耐震基準(新/旧耐震基準)
う 既存不適格建物
旧耐震基準による建物について
→現時点で新耐震基準に適合させる補強工事をする法的義務はない
→補強されないままの建物が実際に多く存在している
詳しくはこちら|既存不適格建物の適用除外(建築基準法3条2項)
6 アスベスト対策工事が必要となる典型例
アスベストが使用されていても,対策工事をしないままの建物も存在します。
実際に,対策工事をせざるを得ない状況になって初めて気付いて困るというケースもあります。
対策工事が必要となる状況をまとめます。
<アスベスト対策工事が必要となる典型例(※3)>
あ テナント募集
収益用不動産においてテナントを募集する
その前提として事実上撤去工事が必要となることがある
※『エコノミスト2015年4月14日』p33,35参照
い 居住用途
居住する建物について
アスベストの撤去が好ましい
本記事では,建物の売買の後に改修や補修が必要であることが分かったケースにおける法的責任について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的責任や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の売買の後に不具合が発覚したという問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。