【契約締結に向けた交渉を破棄した責任(全体)】
1 契約締結自由の原則(前提)
2 契約交渉破棄の責任(基本)
3 契約交渉破棄の責任の賠償の範囲
4 契約交渉破棄の責任の分類
1 契約締結自由の原則(前提)
『契約締結上の過失』に含まれる責任の中に,交渉を破棄した責任の類型が含まれます。
詳しくはこちら|契約締結上の過失(全体)
本記事では,交渉を破棄した責任について説明します。
本来は,契約を締結する,しないは自由であり,この判断によって責任が生じることはありません。
<契約締結自由の原則(前提)>
あ 契約締結自由の原則
契約を締結するかしないかの判断は自由である
→交渉破棄によって責任が生じるわけではない
い 交渉破棄責任の自己負担
交渉破棄が原因で発生した損害について
→自己負担となる
2 契約交渉破棄の責任(基本)
契約締結の自由はありますが(前記),特殊事情により例外的な扱いとなることもあります。
つまり,交渉を破棄したこと自体によって責任が発生することもあるのです。
<契約交渉破棄の責任(基本)>
あ 契約自由の原則の例外
特殊事情がある場合
→例外的に,交渉を破棄したことの責任が認められることがある
い 賠償責任の範囲(概要)
原則的に信頼利益に相当する金額が認められる(後記※1)
う 過失相殺の実務的傾向
賠償責任(あ・い)について
実際には大幅な過失相殺が認められることが多い
※能見善久ほか『論点体系 判例民法5 第2版』第一法規出版2013年p18,19
3 契約交渉破棄の責任の賠償の範囲
契約交渉を破棄したことで責任が発生した場合には,賠償責任の範囲が問題となります。
個別的事情で大きく変わります。
原則的な判断と個別的な判断のバラエティーを整理します。
<契約交渉破棄の責任の賠償の範囲(※1)>
あ 一般的な判断
信頼利益に相当する分が認められている
個別的な事情により異なる判断となるケースもある(い〜え)
い 裁判所の裁量
信頼利益の損害額の立証が極めて困難である
→裁判所の裁量により損害額を認定した
※民事訴訟法248条
※東京高裁平成14年3月13日;交渉序盤の破棄
う 実質的な履行利益
契約が履行されると信じたために別の取引を失った
別の取引による得べかりし利益を含める
→実質的には履行利益を認めた
※東京地裁平成18年7月7日;交渉終盤の破棄について
え 慰謝料
慰謝料を損害として認めた
※福岡高裁平成23年3月10日;交渉終盤の破棄について
※東京高裁平成19年12月17日;交渉終盤の破棄について
詳しくはこちら|交渉終盤において交渉を破棄した責任
4 契約交渉破棄の責任の分類
交渉を破棄した責任としては,多くの事例があります。
大きく3種類に分類することができます。
<契約交渉破棄の責任の分類>
あ 交渉序盤
契約締結に向けた交渉に入った段階
詳しくはこちら|交渉序盤において交渉を破棄した責任
い 交渉終盤
契約締結に向けた交渉が進展した段階
詳しくはこちら|交渉終盤において交渉を破棄した責任
う 契約未満の合意
契約を締結することを合意したケース
詳しくはこちら|交渉中の契約未満の合意による交渉破棄の責任
この3種類のそれぞれの内容や具体的事例については,別の記事で説明しています。