【更新料支払特約に反する不払による解除の有効性】
1 更新料不払による解除(総論)
借地契約において、更新料を支払う合意(特約)がなされるケースがあります。有効かどうかという問題はありますが、原則として有効となります。
詳しくはこちら|借地の更新料特約の有効性(基本)
また、特約の文言が法定更新も含めて更新料の支払義務があると読み取れる場合には、法定更新にも適用されると判断される傾向があります。
詳しくはこちら|更新料特約の法定更新への適用(更新料支払義務)の有無
では、更新料の支払義務がある状況で、更新料を支払わなかったらどうなるのでしょうか。具体的には地主が解除したら、解除は有効となるのでしょうか。
本記事では、この問題について説明します。
2 合意した更新料の不払による解除の有効性(まとめ)
更新料の特約があるのに更新料を支払わないことを理由とする解除の有効性は、いろいろな事情によって判定されます。
最初に、有効性判断の全体的なまとめを示します。
合意した更新料の不払による解除の有効性(まとめ)
あ 前提事情
地主・借地人が更新料を支払う合意をした
期間満了時において借地人が更新料を支払わない
地主が契約解除の通知をした
い 解除の有効性の方向性
個別的な事情によって有効性を判断する
信頼関係の破壊と評価できる場合は有効となる(後記※1)
う 典型的な判断要素
『え』の事情がある場合
→解除が有効となる方向性である(後記※2)
『え』の事情がない場合
→解除は無効となる方向性である(後記※3)
え 解除が有効となる方向の事情の例
ア 過去に借地人側に解除原因があった
例=債務不履行
イ 慎重な判断・プロセスにより更新料の合意をした
例=裁判所の調停条項として合意した
※最判昭和59年4月20日
3 更新料不払による解除の有効性判断基準
更新料の不払を理由とする解除の有効性の判断基準を最高裁が示した判例があります。判断基準とはいっても、抽象的な判断要素を示しただけです。具体的な事案についてはっきりと判断できる、というものではありません。
更新料不払による解除の有効性判断基準(※1)
あ 前提事情(更新料不払)
更新料の支払を合意した
借地人が更新料を支払わない
地主が借地人に対して契約解除の通知をした
い 判断基準
土地の賃貸借契約の存続期間の満了にあたり賃借人が賃貸人に対し更新料を支払う例が少なくないが、その更新料がいかなる性格のものであるか及びその不払が当該賃貸借契約の解除原因となりうるかどうかは、
単にその更新料の支払がなくても法定更新がされたかどうかという事情のみならず、
当該賃貸借成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払の合意が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量したうえ、具体的事実関係に即して判断されるべきものと解するのが相当であるところ、
※最判昭和59年4月20日
※澤野順彦著『論点 借地借家法』青林書院2013年p270参照
4 更新料不払による解除(あてはめ)
前記の判断基準を示した最高裁の判例では、対象となった事案について有効性を判断しています。
この事案は、「更新料」とはいっても、実質的には過去の賃借人の違反行為による解除をしない対価が含まれていました。いわゆる「解決金(和解金)」の性格を持っていたのです。
このことが決め手となり、裁判所は、解除を有効と判断しました。
このような特殊性がなければ、解除が有効とはならなかったと思われます。
とはいっても、更新料を支払わないと解除が認められるかもしれないという印象を与える判例です。実際の借地の当事者の心理に大きな影響を与えています。
更新料不払による解除(あてはめ・有効判断)(※2)
あ 更新料の合意の経緯(前提)
借地人が無断増築・無断転貸といった賃貸借契約違反行為を行った
違反行為を不問に付す趣旨で、解決金を含めた更新料100万円を支払う旨の調停が成立した
借地人はこの更新料を支払わなかった
地主は解除の通知をした
い 裁判所の判断
本件更新料の支払は、賃料の支払と同様、更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、その賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものというべきであるから、その不払は、右基盤を失わせる著しい背信行為として本件賃貸借契約それ自体の解除原因となりうるものと解するのが相当である。
※最判昭和59年4月20日
5 更新料不払による解除と法定更新(解除無効)
前記の最高裁の判断とは結論が大きく異なる高裁判例もあります。
要するに、更新料の合意どおりに支払わなくても、更新料合意とは別の法定更新はできるというものです。
法定更新には更新料合意は適用されないので、結論として更新料支払義務はない、という結論です。
更新料不払による解除と法定更新(解除無効)(※3)
あ 更新料支払合意
土地の賃貸借契約満了の約1年前において
地主・借地人が更新料支払の合意をした
い 合意した更新料の性質
合意した更新料の性質について
賃貸借契約の期間満了時に地主が有する異議権の行使を放棄する対価である
う 更新料遅滞と更新料契約の解除
更新料支払の遅滞があった場合
→地主は『更新料の支払契約』を解除できる
→『異議権行使の放棄』が解消される
=地主は異議権を行使できる状態に戻る
え 法定更新への影響
賃貸借契約は法定更新されている
→更新料支払義務はない
→借地人に債務不履行は生じていない
→地主は解除できない
※東京高裁昭和45年12月18日
本記事では、借地における更新料不払いによる解除の有効性について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地の更新料に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。