【再築禁止特約と増改築許可の利用(新旧法共通)】
1 再築禁止特約と再築を許可する裁判(総論)
2 建物の再築を禁止する特約の有効性
3 再築禁止特約への違反に対する法的扱い
4 再築についての裁判所の許可
5 裁判所の許可の効果(地主の異議権との関係)
6 裁判所の許可と地主の異議の具体的結果
7 借地借家法の再築許可と旧法時代の借地(概要)
1 再築禁止特約と再築を許可する裁判(総論)
借地法では,借地人が建物を再築することについて,原則として地主が止めることはできません。
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)
借地借家法には,地主の承諾がない建物の再築は解約されることになります。
詳しくはこちら|借地借家法における借地上の建物の滅失や再築による解約
ただし,この解約は更新後(第2ステージ)だけが対象です。
借地借家法でも更新前(第1ステージ)は,旧法時代の借地と同様です。
以下の説明では,旧借地法を前提とする裁判例や学説を紹介しますが,これらの解釈は借地借家法でも適用できます。
ところで,実際の借地では再築を禁止する特約が付いているケースも多いです。
再築禁止特約の有効性や,有効だとしてその効果についてはいろいろな見解があります。
また,地主に代わって地主が許可する裁判も利用できます。
本記事では,再築禁止特約の有効性や具体的な効力とこの特約を排除するための裁判所の許可について説明します。
2 建物の再築を禁止する特約の有効性
借地法における再築を禁止する特約は無効・有効という両方の見解の最高裁判例があります。
現在の実務では有効とする傾向があります。
<建物の再築を禁止する特約の有効性>
あ 再築を禁止する特約
借地人による建物の再築を禁止する
例;残存期間を超えて存続するような建物を建てない
例;借地人自らが建物を取り壊して築造することを禁止する
い 無効とする見解
『あ』の特約は無効である
※借地法11条
※最高裁昭和33年1月23日
※東京高裁昭和33年2月12日
※『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p189
う 有効とする見解
『あ』の特約は有効である
ただし,解除の効果を制限する(後記※1)
※最高裁昭和41年4月21日;増改築禁止特約について
詳しくはこちら|借地契約の増改築禁止特約の有効性と違反への解除の効力
3 再築禁止特約への違反に対する法的扱い
実務では,再築禁止特約を基本的に有効としつつ,具体的な効力で調整を加える扱いをする傾向があります。
要するに,容易には解除を認めないという方向性です。
<再築禁止特約への違反に対する法的扱い(※1)>
あ 有効とする見解
借地人自らが取り壊して再築することを禁止する特約
→増改築禁止特約の一種とみるべきである
→一応有効である
い 違反に対する法的扱い
地主の承諾がないのに借地人が再築した
地主が解除を通知した
→信頼関係破壊の評価により解除の有効性が決まる
信頼関係を破壊しないことにより解除を否定する傾向がある
詳しくはこちら|借地契約の増改築禁止特約の有効性と違反への解除の効力
※最高裁昭和41年4月21日;増改築禁止特約について
※名古屋高裁昭和54年6月27日
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p189
う 承諾に代わる裁判
借地人は増改築許可の裁判を申し立てることができる(後記※2)
4 再築についての裁判所の許可
再築禁止特約は,増改築禁止特約の一種として有効とする傾向があります(前記)。
この解釈を前提にすると,増改築について裁判所の許可を得る手続が利用できることになります。
地主の承諾に代えて裁判所が許可する手続です。
借地非訟手続と呼ばれるものです。
<再築についての裁判所の許可(※2)>
あ 前提事情
借地人が建物を取り壊して再築することを禁止する特約がある
借地人は建物の再築を行いたい
い 増改築許可の裁判の適用
『再築禁止』は『増改築禁止』の一種といえる
→借地人は裁判所の増改築許可の申立をすることができる
※借地法8条の2
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p189
う 存続期間への影響
裁判所が地主の承諾に代わる許可をした場合
借地の存続期間について
→裁判確定の時から30年or20年となる
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)
※千葉地裁昭和43年7月11日;同趣旨
5 裁判所の許可の効果(地主の異議権との関係)
再築禁止特約があっても,再築について裁判所が許可することができます(前記)。
裁判所が許可すれば,借地人は堂々と再築できることになります。
ただし,この場合でも地主は異議を出すことができます。
この『異議』の意味は,『借地期間の延長を生じさせない』というものです。
<裁判所の許可の効果(地主の異議権との関係)>
あ 再築禁止特約なしのケースとの比較
再築禁止特約がない場合は裁判所の許可手続が適用されない
→地主は問題なく異議を述べることができる
い 裁判所の許可による異議権喪失の不合理性
裁判所の再築の許可によって地主の異議権がなくなると仮定すると
再築の禁止特約がある方が地主に不利になる
→バランスとして不合理である
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p189
う 裁判所の許可の効果(異議権喪失否定)
裁判所の許可があった場合
→地主は異議権を失わない
※東京地裁昭和45年11月5日
え 裁判所の許可の効果(禁止特約の排除)
裁判所の許可は単に再築(増改築)禁止特約を排除するにすぎない
※明石三郎『増改築制限の借地条件』/中川善之助ほか『借地・借家 不動産法大系3』p304
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p189
6 裁判所の許可と地主の異議の具体的結果
借地法において,再築禁止特約があっても裁判所が再築の許可をすることがあります。
そして,裁判所が許可を出しても,地主は『異議を述べる』ことは可能です(前記)。
ちょっと複雑なので,具体的な状況と結果について典型的なものをまとめます。
<裁判所の許可と地主の異議の具体的結果>
あ 事案
再築を禁止する特約がある
裁判所が再築(増改築)を許可した
地主は再築に異議を述べた
借地人が建物を再築した
い 特約違反の有無
特約違反には該当しない
→地主は特約違反を理由とする解除を主張できない
う 再築による期間延長の適用
再築による期間延長の規定は適用されない
=従前の残存期間は存続する
詳しくはこちら|旧借地法における地主の異議を無視した建物再築の扱い
7 借地借家法の再築許可と旧法時代の借地(概要)
借地借家法には建物の再築の許可の制度があります。
旧借地法には再築の許可の制度はありません。
この点,借地借家法施行前からある借地(旧法時代の借地)については,借地借家法の再築許可の裁判は適用されません。
詳しくはこちら|借地上の建物の再築許可の裁判制度の基本(趣旨・新旧法の違い)
旧法時代の借地について,特約で増改築や再築が禁止されている場合だけはこの特約を排除するために増改築許可の裁判が利用できるのです(前記)。