【シェアオフィス(法律事務所)への借地借家法適用(肯定裁判例)】
1 シェアオフィスの『借家』該当性(総論)
2 借地借家法の『建物』の判断基準(概要)
3 貸与スペースの状況
4 貸与スペースについての判断
5 契約の法的性格の判断
6 スペース貸与以外のサービスの内容
7 スペース貸与以外のサービスについての法的性格
8 オーナーの主張する特殊事情と判断
9 裁判所の判断(結論)
10 シェアオフィスの多様性と誤解への注意
1 シェアオフィスの『借家』該当性(総論)
場所やスペースと貸すことが『借家』となることもあります。
『借家』だと借地借家法(や旧借家法)の適用があり,借主が強く保護されます。
詳しくはこちら|借地借家法による借家の保護の主な内容と借家の種類
そこで,『借家』に該当するかしないかの意見の対立が生じることがよくあります。
トラブルになりやすいものに,オフィスとしてのスペースの貸与,いわゆるシェアオフィスがあります。
詳しくはこちら|シェアオフィスへの借地借家法の適用についての判断の傾向
本記事では,シェアオフィスについて『借家』であると認めた裁判例を紹介します。
2 借地借家法の『建物』の判断基準(概要)
このケースの判断では,旧借家法の『建物』についての過去の最高裁判例の基準が使われています。
最初にこの判例の基準をまとめておきます。
<借地借家法の『建物』の判断基準(概要)>
あ 基本的事項
建物の一部であっても
『い』の内容の両方に該当する場合
→借地借家法の『建物』に該当する
い 『建物』の判断基準
ア 障壁その他によって他の部分と区画されているイ 独占的排他的支配が可能な構造・規模を有する
※最高裁判所昭和42年6月2日;旧借家法について
詳しくはこちら|借地借家法の『建物』(借家該当性)の判断基準の基本
3 貸与スペースの状況
『建物』の判断で特に重要なのは,貸している場所の状況です。
貸与されたスペースの状況をまとめます。
<貸与スペースの状況(※1)>
あ 貸与スペースの面積
面積=3.5平方メートル
狭小である
い パーティション(障壁)
貸与スペースの四方について
天井まで隙間のない障壁で囲まれている
う 出入りの制限
共用スペースと貸与スペースの区分について
→鍵付きのドアによって区画されている
ドアを開けなければ
共用スペースからはドアを開けない限り
貸与スペース内部の様子をうかがうことはできない構造である
※東京地裁平成26年11月11日
4 貸与スペースについての判断
貸与スペースは前記のように狭かったのですが,隔離がしっかりしていました。
そこで,裁判所は独立性が高いと評価し,『建物』であると判断しました。
<貸与スペースについての判断(※2)>
あ 判断基準へのあてはめ
貸与スペースの状況(前記※1)によると
障壁によって他の部分と区画されている
独占的排他的支配が可能な構造・規模を有する
い 裁判所の判断
貸与スペースの状況からは
借地借家法の『建物』に該当する
他の事情についても検討する(後記)
※東京地裁平成26年11月11日
5 契約の法的性格の判断
裁判所は貸与スペースを『建物』として認めた上で,他の事情についての検討も進めます。
貸与する契約の内容は,一定のスペースの使用とその対価という構造です。
このことから賃貸借という性格であると判断しました。
<契約の法的性格の判断(※3)>
あ 契約の中核的な内容
Aが区画をBに使用収益させる(い)
Bがその対価である利用料金を毎月Aに支払う
い 区画の使用収益の内容
建物の独占的排他的な使用である(前記※2)
う 契約書の条項
『賃借権は発生しないものとする』という規定がある
え 裁判所の判断
法的性格は,建物の賃貸借契約である
借地借家法の強行法規定を合意によって排除できない
※東京地裁平成26年11月11日
6 スペース貸与以外のサービスの内容
このケースでは,単純なスペースの貸与以外のサービスもありました。
<スペース貸与以外のサービスの内容(※4)>
あ オプションサービス
入居者は別途の有償サービスの申込が可能である
ア バーチャル秘書サービスイ 電話応答サービス
い 『起業家支援プログラム費』
基本契約の料金の中に『起業家支援プログラム費』があった
月額=1万0500円
これに対応するサービスは不明であった
う 共用サービス
メインのスペースの貸与以外のサービスもあった
ア インターネット回線の利用イ 共用の会議室の利用ウ 共用部に置かれた機材の利用
内容=コピー機・プリンター・シュレッダー・掃除用具の利用
一部は有料であった
※東京地裁平成26年11月11日
7 スペース貸与以外のサービスについての法的性格
前記のスペース貸与以外のサービスの評価によっては,建物の賃貸借とは違うという判断もあり得ます。
しかし結論としては,建物の賃貸借の範囲内であるという判断に至りました。
<スペース貸与以外のサービスについての法的性格>
あ スペース貸与の契約との関係性
各種サービス(前記※4)について
法的には『ア・イ』のいずれかの性格である
ア スペース貸与の契約と別個独立の契約イ スペース貸与の契約に付加された付帯サービス
い 他のサービスの費用
各種サービス(前記※4)の対価について
→共益費に含まれている
う 『起業家支援プログラム費』の性格
スペース貸与の対価(賃料)or各種サービス(前記※1)の一部である
え 一般的な建物賃貸借との関係性
各種サービス(前記※4)の内容について
一般的な建物賃貸借に付帯することもよくある
=特別なサービスではない
お まとめ
スペース貸与の建物賃貸借という性質を否定しない
※東京地裁平成26年11月11日
8 オーナーの主張する特殊事情と判断
スペースの貸主は,他に,賃貸借とは異なる事情があると主張しました。
しかし,これに対しても,裁判所は建物賃貸借の範囲内にとどまると判断しました。
<オーナーの主張する特殊事情と判断(※5)>
あ オーナーの主張の概要
入居者の『排他的支配』を否定する規定(合意)が多く存在する
→排他的支配は否定される
い 排他的支配を否定する方向の規定(合意)
ア 入居者において業種,商号の設定があるイ 入居者が貸与スペースの模様替えを行うについて制限があるウ 入居者は施設内の他の貸与スペースに移転することができる
契約の解約手続を要しない
エ 管理上必要に応じてAが室内に立ち入ることができる
う 裁判所の判断
『い』の規定(合意)について
いずれも建物の賃貸借契約という性格を否定するものではない
※東京地裁平成26年11月11日
9 裁判所の判断(結論)
以上のように,裁判所はスペースの貸与の契約を建物賃貸借として『借家』であると判断しました。
<裁判所の判断(結論)>
あ 基本的判断(概要)
貸与スペースについて
物理的に隔離されている
入居者Bが独占的排他的に支配している
→借地借家法の建物に該当する(前記※2)
い 契約の法的性格・特殊事情
契約の法的性格は建物の賃貸借である(前記※3)
他のサービス(前記※4)や個別的な事情(前記※5)について
→建物賃貸借という性格を否定しない
う 結論
貸与スペースの契約は『建物の賃貸借』に該当する
→借地借家法の『借家』に該当する
→法定更新が適用される
※東京地裁平成26年11月11日
10 シェアオフィスの多様性と誤解への注意
以上の判断はシェアオフィスというサービス一般に成り立つものではありません。
貸与スペースの独立性や,それ以外のサービスの位置づけは,非常に幅広いバリエーションがあります。
実際に,サービスの具体的な内容によって,シェアオフィスに借地借家法が適用されない結論となった裁判例もあります。
詳しくはこちら|シェアオフィスへの借地借家法の適用についての判断の傾向
少なくともシェアオフィスというネーミングだけで決まるわけではありません。
もともと『シェアオフィス』というサービスの呼称は法律上のものではないのです。
また,前記の判断は下級審(地裁)の裁判例です。
仮に同様の事案でも,別の地裁(裁判官)の判断がこれとは異なるということも十分あり得ます。