【増改築禁止特約における『増改築』の意味と解釈】
1 一般用語の『増改築』の意味(全体)
借地契約において、増改築を制限する特約があることは多いです。
実際にはどのような工事が制限や禁止されるのかが不明確なケースもあります。
本記事では増改築禁止特約における『増改築』の意味(解釈)をまとめます。
最初に『増改築』を『増築』と『改築』に分けます。
さらに、『修繕』も、その内容(規模)によっては『増改築』に該当します。
一般用語の『増改築』の意味
2 借地借家法の『増改築』の意味
前記の『増改築』の意味は、一般用語としてのものです。
借地に関する法的な意味での『増改築』はちょっと違う意味になります。
『増築』と『改築』に分けにくいし、また、分ける意味もないのです。
法律上は『増築』と『改築』で別の規定が適用されるということはないのです。
借地借家法の『増改築』の意味(※1)
あ 借地借家法の増改築
増改築許可の規定に『増改築』の記載がある
※借地借家法17条2項、借地法8条の2第2項
い 借地借家法の『増改築』の意味
借地借家法の『増改築』(あ)の意味について
→建築基準法の建築・新築・増築・移転の意味(後記※2)のすべてを含む
う 法律による用語の意味の違い
借地借家法と建築基準法において
→用語の定義(意味)は異なることもある
え 『増築・改築』の区別
『増築』『改築』その他を区別することは実際上困難な場合が多い
区別する実益もない
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p223
3 建築基準法の建築・新築・増築・移転の意味
ところで、建築基準法は建築を主な規制対象しています。
そこで、建築や増築・改築などの用語の定義など、細かい規定があります。
同じ用語でも借地借家法とは意味が違うこともあります(前記)。
ただし、解釈や適用で参考になりますので、まとめておきます。
建築基準法の建築・新築・増築・移転の意味(※2)
あ 『建築』
建築物を新築し、増築し、改築し、又は移転すること
※建築基準法2条13号
い 『新築』
建築物のない更地に建築物を造ること
う 『増築』(※3)
敷地内にある在来の建築物に、建築面積が床面積、延べ面積を増加させること
え 『改築』(※4)
敷地内にある在来の建築物の一部若しくは全部を除却し、又は災害等によって滅失したのち引き続き従前の建物と、用途、構造、規模の著しく異ならない建築物を造ること
お 『移転』
同一の敷地内における移転をいう
※荒秀ほか『改訂 建築基準法 特別法コンメンタール』第一法規出版1990年p54
4 『再築』の意味
借地借家法では建物の『再築』という用語も出てきます。
いわゆる建物の建替えのことです。
借地借家法には『再築』した時に適用される規定があります。
『増改築』との関係では『再築』は『増改築』に含まれるという関係になります。
『再築』の意味
あ 一般用語としての『再築』の意味
『再築』という用語の一般的な意味について
→従前の材料を使用して建築すること(という意味もある)
い 借地借家法の『再築』の意味
建物滅失後に同一の借地上に新たに建物を築造すること
→条文の見出しとして『再築』が使われている
借地借家法の『増改築』の概念(前記※1)に含まれる
※借地借家法7条、18条
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p223
5 自然による建物の滅失・損壊後の修復の法的扱い
実務では、災害などで建物が消滅や損壊することがあります。
当然、借地人としては急いで修復しようと考えます。
これについて増改築禁止特約で禁止される(増改築に該当する)という解釈と、禁止されないという解釈があります。
ただし、どちらの解釈だとしても、結論としては、違反としての解除は認められない方向になります。
自然による建物の滅失・損壊後の修復の法的扱い
あ 前提事情
人為的でない原因により建物の全部または一部が滅失した
その後借地人が建物を修復した
い 一般的な実務の扱い
実務では『増改築禁止特約』の対象として扱っている
う 理論的な解釈
『増改築』には該当しないという理論もあり得る
→『増改築禁止特約』の対象ではない
=地主は解除できないという結論になる
え 実際的な結論の同一性
借地人が無断で『あ』の工事を行った場合
『い』の見解を前提にしても
修復または再築に差し迫った事情があるといえることが多い
→無断増改築には背信性がない
→地主の解除は効力を生じない方向性となる
※名古屋高裁昭和54年6月27日
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p226
6 区画整理よる建物の移動と「増改築」(概要)
借地について区画整理が行われると、(仮)換地に建物を移動する必要が出てきます。移動の方法には、曳行移転や移築(解体した上で元の材料を使って建築(復元する)などがあります。
曳行移転は建物はそのまま(同一性がある)ので「増改築」ではないですが、移築の場合、材料は同じだけど、いったん解体したことになるので、「増改築」にあたる可能性もあります。仮に「増改築」にあたったとしても、借地人が自発的に行ったわけではない、という点では、前述の自然災害による建物の滅失の後の再築と同じです。解除は認められない傾向が強いと思われます。
詳しくはこちら|区画整理による借地上の建物の移動の影響(地主の承諾の要否)
7 大規模修繕の扱い(概要)
建物の修繕は、その規模によっては『増改築』に含まれます(前記)。
実際に、増改築禁止特約で禁止される工事か、そうでない工事か、という見解の対立が生じるケースは多いです。
大修繕の扱い(概要)(※5)
本記事では、増改築禁止特約における「増改築」の意味や解釈を説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物の増改築(建替えや修繕)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。