【借地における増改築禁止特約の設定の実情とあいまいな特約の解釈】
1 増改築禁止特約の設定の傾向
増改築禁止特約に違反する建物の工事について、解除が主張されるトラブルは多いです。
解除が有効か無効かという点で見解の対立が生じやすいです。
詳しくはこちら|借地契約の増改築禁止特約の有効性と違反への解除の効力
ところが、増改築禁止特約自体がないケースや、それらしき特約はあるけど内容があいまいであるケースもあります。
本記事では、時代による増改築禁止特約の有無の傾向やあいまいな条項の解釈方法について説明します。
2 増改築禁止特約の設定の傾向と典型例
現在の新たな借地では、増改築禁止特約がない方が珍しいです。
しかし、古い時代の契約では増改築禁止特約がないということもあります。
増改築禁止特約の設定の傾向と典型例
あ 古い時代
増改築禁止特約がない契約書の方が多かった
→借地人は自由に増改築や建替えができる
詳しくはこちら|借地上の建物の建築・増改築の自由と制限(借地条件・増改築禁止特約)
曖昧な条項の特約もあった(後記※1)
い 近年
契約書には通常、増改築禁止特約がある
う 増改築禁止特約の内容の典型例
増改築を禁止する
地主の承諾を得ないで増改築をしてはならない
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p225
3 増改築を制限するあいまいな条項と法的扱い
古い時代の借地の契約では、増改築を制限するように読めるけどハッキリしない特約も多いです。
実務では増改築禁止特約として扱い、増改築許可の手続を申し立てる手法もあります。
増改築を制限するあいまいな条項と法的扱い(※1)
あ あいまいな条項の典型例
土地の原状を変更してはならない
賃貸人の承諾なくして賃借物の用法または原状を変じないこと
い 一般的な実務での扱い
実務では一般的に、増改築禁止特約として扱うことが多い
う 厳密な解釈
正確には増改築禁止特約には該当しない
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p225
4 「賃借物」の変更を禁止する条項の解釈(増改築禁止特約否定)
土地の賃貸借契約の中に、賃借物つまり土地の変更を禁止する特約があったケースで、この意味について判断した裁判例があります。変更を禁止しているのは建物ではなくて土地なので、建物の増改築は禁止していないという判断になっています。
「賃借物」の変更を禁止する条項の解釈(増改築禁止特約否定)
賃借土地上の建物の増改築は、本来賃借人において自由になし得るものであり(借地法7条・8条の2第2項参照)、これを制限するには、明確な特約の存することが必要であると解される。
然るに、右特約は、賃借物である本件土地についての原状変更または附加工事を禁止した趣旨であることは明らかであるが、地上建物の増改築禁止特約であると認めるには不十分である。
※東京地判昭和47年12月15日
※『ジュリスト552号』1974年1月p6
本記事では、借地契約において、建物の増改築禁止特約が設定される傾向があるということと、あいまいな条項の判断について説明しました。
実際には、具体的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地契約における建物の工事(増改築)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。