【増改築トラブルにより地主の融資承諾書を得られない問題(弁護士ガイド)】

1 地主と借地人の対立(関係悪化)の影響

借地上の建物の増改築や建替えをすることはよくあります。
増改築禁止特約があるケースでは、地主の承諾が必要になります。
地主が承諾しない場合には、代わりに裁判所が許可をする制度もあります。
詳しくはこちら|借地条件変更・増改築許可の裁判手続(基本・新旧法振り分け)
裁判所の許可があれば地主の承諾そのものは不要となります。
また、増改築禁止特約がないケースでは、増改築や建替えのための地主の承諾自体は法的に不要です。
詳しくはこちら|借地上の建物の建築・増改築の自由と制限(借地条件・増改築禁止特約)
このように地主の承諾がなくても法的には問題がない状況があるのです。
しかし、地主と借地人が対立的、つまり関係が悪化していると、法律的な事項以外で不都合が生じることがあります。

2 借地人はローンを利用できなくなる(融資承諾書)

建物の増改築や建替えの際に、その費用についてローンを利用することもあります。
リフォームローンなどとしていろいろな融資の商品があります。
借地上の建物の工事のローンでは、金融機関は一定の書類を求めます。
まず、増改築や建替えの承諾書です。
金融機関は、裁判所の増改築許可(決定書)で代用することを認めることもあります。
次に、抵当権設定承諾書(融資承諾書)も必要となります。
土地に抵当権を設定するわけではないので、理論的には地主の関与は不要です。
しかし、実際にはほぼすべての金融機関が融資の条件としています。
詳しくはこちら|地主の融資承諾書の効力(金融機関への通知なしの解除の有効性・損害賠償責任)
詳しくはこちら|借地上の建物と借地権への担保設定(担保価値相場・地主の融資承諾書)
抵当権設定承諾書(融資承諾書)の代用となるような裁判所の許可(決定書)はないです。
結局、実際に地主が承諾しない限り、借地人は建物(+借地権)を担保とする融資を利用できないのです。

3 建物(+借地権)の通常の売却ができなくなる

借地人としては、仕事や家族の状況によっては、引っ越すこととなり、建物を使わなくなることがあります。
地主が借地権を買い戻してくれれることが理想的です。
しかし地主が買わない場合は、第三者に売却することを考えます。
借地権の譲渡(売却)には地主の承諾が必要です。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸の基本(賃貸人の承諾が必要・無断譲渡・転貸に対する明渡請求)
地主が承諾しない場合は、裁判所の譲渡許可の裁判(決定)で代用できます。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判の趣旨と機能(許可の効力)
しかし、建物を購入する人の立場では、地主と裁判をする前提で購入することは回避したいと思うでしょう。
実際には売却しにくいという状況となります。
また、一般的な入居予定の購入者(エンドユーザー)は、住宅ローンを利用することがほとんどです。
そうすると、ローンのために抵当権設定同意書(融資承諾書)が必要になります(前記)。
地主と借地人の関係が悪化している状況では、地主はこの書面に調印してくれないでしょう。
この点でも、購入する人が現れない、つまり売却できないということになります。

4 下取業者は買うけど坪10〜20万円程度となる

地主の協力がないという状態でも、理論的には裁判所の譲渡許可を得て、適法に売却することができます(前記)。
この理論どおりに売却する方法は一応あります。
いわゆる下取業者の下取りです。
当然、多くのハードルという負担があるので、売却金額は通常の売買とは大幅に異なります。
相場として坪10〜20万円程度まで落ちることになります。
詳しくはこちら|借地権の下取|代金相場・契約形態|自由解除条項・介入権行使時の差額分配率

5 法的には承諾不要だけど承諾料を払うケースもある

以上のように、増改築の承諾のトラブルで地主と借地人の関係が悪くなると、法律面以外で問題が生じます。
そこで、特約がない借地でも、増改築のために地主の承諾を求める状況は生じるのです。
詳しくはこちら|借地上の建物の建築・増改築の自由と制限(借地条件・増改築禁止特約)
法律の内容の誤解ということもあるでしょうけど、以上の説明のような地主と対立することによる問題を避けるという事情もあります。
また、増改築禁止特約がある借地では、できる限り、裁判所の許可ではなく地主の承諾を得るという方針で交渉することもあります。

6 借地のトラブルに詳しい弁護士へ相談の推奨

以上の説明は、法律の規定や解釈論だけではなく、実務における実情のごく一部です。
個別的な事情によっては、原則とは違う扱いとなることもよくあります。
また、交渉や裁判手続については、1つ1つのアクションが、最終結果に影響します。
借地のトラブルに詳しい弁護士であれば、スピーディーに適切なアドバイスを差し上げることができます。
具体的なトラブルに関しては、具体的なアクションを行う前に、まずは法律相談で弁護士から正式なアドバイスを受けることをお勧めします。

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【増改築禁止特約の違反による解除の効力(裁判例集約)】

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