【借地上の建物の譲渡に関するトラブルと解決の全体像(弁護士ガイド)】
1 借地上の建物の売買には地主の承諾が必要
借地人は借地上の建物を所有しています。
借地人は自分の所有物として建物を売却することができます。
この際、地主の承諾がないと借地契約を解除されることがあります。
建物を売却した時点で借地権の譲渡になるのです。
詳しくはこちら|借地上の建物の譲渡は借地権譲渡に該当する
そして、借地権(賃借権)の譲渡には地主(賃貸人)の承諾が必要なのです。
承諾がない、つまり無断での借地権譲渡があると地主が解除できるのです。
ただし、実際には状況によって解除が認められないことも多いです。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸の基本(賃貸人の承諾が必要・無断譲渡・転貸に対する明渡請求)
2 借地権譲渡の承諾料の相場は借地権価格×10%
借地上の建物の譲渡(借地権譲渡)を地主が承諾する時には通常、承諾料の支払と引き換えになります。
承諾料には相場があり、借地権価格の10%相当額が標準です。
ただし、特殊事情があるとこれより下がることになります。
また、借地権価格自体について地主と借地人で意見が対立することもとても多いです。
詳しくはこちら|借地権譲渡の承諾料の相場(借地権価格×10%)と借地権価格の評価法
3 地主の承諾がもらえない時は裁判所の許可を得る
借地上の建物を売却(譲渡)する時は地主の承諾が必要です(前記)。
地主が承諾してくれない場合には、代わりに裁判所が許可するという手続があります(借地権譲渡許可の裁判)。
裁判所が許可すれば、地主の承諾と同じことになります。
つまり、解除されずに、安全に建物の売却(譲渡)ができるのです。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判の趣旨と機能(許可の効力)
4 特殊な事情がなければ裁判所は譲渡を許可する
裁判所に、借地権譲渡許可の裁判を申し立てると、裁判所は許可するかしないかを判断します。
特殊な事情がない限り、裁判所は譲渡を許可します。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の形式的要件・実質的要件(判断基準)の基本
許可する際は、同時に承諾料(財産上の給付)の金額を決めます。
通常は、相場である借地権価格の10%相当額で算定します。
詳しくはこちら|借地権譲渡の承諾料の相場(借地権価格×10%)と借地権価格の評価法
5 地主は優先的に借地権を買い取ることができる
借地権譲渡許可の裁判では、地主は介入権を行使することができます。
これにより、予定されている譲受人よりも優先して地主が自ら借地権を買い取ることができます。
しかし、代金の算定では借地権割合を下げずにそのまま使う傾向があります。
一般的な取引と比べると地主に不利な結果といえるでしょう。
詳しくはこちら|借地権優先譲受申出(介入権)の基本(趣旨・典型例・相当の対価)
6 裁判所の許可の申立の前に売買予約契約をしておく
実際に裁判所に借地権譲渡許可の裁判を申し立てる前には、準備が必要です。
具体的には、建物(借地権)の売買の予約契約を締結しておくのです。
予約ではなく通常の売買契約をしてしまうと、申立ができなくなり、また、地主に借地契約を解除されることになります。
詳しくはこちら|実務的な借地権譲渡許可申立までのプロセス(予約契約・ブラフ交渉)
7 承諾・許可は譲渡と建替えがセットになることが多い
実際に建物と借地権を売却するケースでは、購入した者は後で建物を建て替える予定であることが多いです。
そこで、地主に建物と借地権の譲渡の承諾を求めるとともに建物の建替えについても承諾を求めるケースが多いです。
さらに融資承諾書の調印も求めるケースもよくあります(後記)。
裁判所の許可を申し立てる場合は、借地権譲渡許可と増改築許可を併合して申し立てることになります。
8 借地上の建物の売買代金の相場は低い傾向がある
借地上の建物の売却には、地主の承諾か裁判所の許可が必要です(前記)。
ところで、実際に売却する際の代金の相場は借地権割合で算定した金額よりも下がる傾向があります。
詳しくはこちら|借地権・底地の『第三者』への売却|代金相場|路線価の借地権割合は使わない
なお、地主の承諾せず、対立関係にある状態でも売却する方法として、下取業者の利用があります。
当然この場合はさらに大幅に低い金額でしか売れないことになります。
詳しくはこちら|借地権の下取|代金相場・契約形態|自由解除条項・介入権行使時の差額分配率
9 競売では取得の後で裁判所の許可の申立ができる
裁判所の競売で借地権付きの建物が売却されることもよくあります。
この場合は、入札者が取得(代金納付)した後で申し立てることが可能です。
競売の特殊性を反映した特別な扱いといえます。
詳しくはこちら|買受人譲渡許可の裁判の形式的要件
10 借地上の建物の相続では地主の承諾は不要
借地上の建物の移転にはすべて地主の承諾が必要というわけではありません。
相続によって移転した場合は借地権の譲渡には該当しません。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡の意味と典型的なケースについての判断
地主の承諾は不要です。理論的には、名義書換料などの名目で支払うことは必要ないのです。
詳しくはこちら|借地人の相続は『借地権譲渡』ではないので『名義書換料』は不要
11 遺贈や死因贈与では地主の承諾が必要なこともある
法定相続であれば、建物と借地権が移転しても、地主の承諾は不要です。
相続のタイミングであっても、遺贈や死因贈与ではちょっと扱いが違います。
建物と借地権を取得する者によって、地主の承諾が必要か不要かが違ってくるのです。
詳しくはこちら|賃借権の相続・遺産分割・死因贈与・遺贈は賃借権譲渡に該当するか
12 地主の承諾がないとローンの利用で困ることになる
実際に借地権の売却(譲渡)について地主と交渉する際には大きな落とし穴があります。
地主が譲渡に承諾してくれたとしても、その後、融資承諾書が必要になることがあるのです。
典型例は、建物と借地権を購入する方が購入代金の資金としてローンを利用する状況です。
大部分の金融機関が地主の融資承諾書を要求するのです。
借地権譲渡の承諾の交渉の段階から、融資承諾書も含めて交渉しておくべきなのです。
詳しくはこちら|地主の融資承諾書の効力(金融機関への通知なしの解除の有効性・損害賠償責任)
詳しくはこちら|借地上の建物と借地権への担保設定(担保価値相場・地主の融資承諾書)