【担保権実行における土地共有者が合意した利用権の消滅か存続】

1 担保権実行による土地共有者間の利用権の消滅・存続

A・Bの共有の土地の上に、A単独で所有する建物が存在するケースがあります。
このようなケースで競売が行われると、法定地上権の成否が問題となります。
ところで、法定地上権とは別に、土地共有者間で合意した土地の利用権原もあったはずです。
競売の後にも、この合意による利用権原が存続するかどうかという問題もあります。
本記事では、土地共有者間の合意による利用権原が担保権実行(競売)の後にどうなるかについて説明します。

2 建物の競売

共有の土地上の建物に設定された担保権が実行されたケースです。

(1)一般的見解→法定地上権なし+合意による利用権原なし

最初に、一般的見解を整理します。結論として、法定地上権は成立せず、また、合意によって生じた土地利用権原もなくなります。

一般的見解→法定地上権なし+合意による利用権原なし

あ 所有権と抵当権の状態

建物 A単独所有 抵当権を設定した 土地 A・Bの共有 抵当権設定なし

い 法定地上権の成否(概要)

抵当権が実行された
→法定地上権は成立しない
詳しくはこちら|共有と法定地上権の成否(単独所有への抵当権設定)

う 共有者の合意による利用権原の承継

建物は、共有者AB間の合意による土地利用権に基づいて土地上に存在したものである。
しかし買受人であるCは、この利用権を主張できない
なぜなら、この利用権を主張できるのは土地の共有持分権を有する者のみだからである。
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会1999年p266

(2)道垣内弘人氏見解→合意による利用権原存続

これについて、道垣内氏は、合意による土地利用権原を、買受人が承継する、という見解を示しています。その上で、買受人は土地の使用対価(民法249条2項の償還義務の金額)については、民法388条後段(裁判所が地代を定める実質的非訟手続)によって裁判所が定めるという見解をとっています。
ただし、前述のような、共有者間の合意を承継するのは持分の譲受人(民法254条)だけであるという見解の方が一般的であると思われます。

道垣内弘人氏見解→合意による利用権原存続

あ 共有物使用合意(前提)

土地がA・Bの共有で、建物がAの単独所有であるときは、建物所有のために、A―B間で土地利用についての合意がなされねばならない。・・・

い 抵当権の効力→合意に及ぶという見解

そして、建物の全部または共有持分についての抵当権の効力は、この合意に及び競落人Cこの合意に基づき土地の利用を継続できる

う 地代確定請求(形式的形成訴訟)の利用→肯定

もっとも、たとえば、建物がAの単独所有で、土地がA・Bの共有のとき、この合意はおそらくAのBに対する使用料支払のみを定めていると思われるが、Cは、A・B双方に借賃を支払わねばならないはずであり、その場合は、民法388条後段の類推適用によって、裁判所が借賃を新たに定めうる
※道垣内弘人著『担保物権法 第4版』有斐閣2017年p222

3 土地の共有持分(建物所有者)の競売

建物所有者が有していた土地の共有持分に抵当権が設定され、その共有持分が競売となったケースです。

(1)一般的見解→法定地上権なし+合意による利用権原なし

最初に、一般的見解を整理します。結論として、通常は法定地上権は成立せず、また、合意によって生じた土地利用権原もなくなります。

一般的見解→法定地上権なし+合意による利用権原なし

あ 所有権と抵当権の状態

建物 A単独所有 抵当権設定なし 土地 A・Bの共有 A持分に抵当権を設定した

い 法定地上権の成否(概要)

抵当権が実行された
→実務的には法定地上権が成立しないことが多い
詳しくはこちら|共有者の『容認』による例外的な法定地上権の成立とその判断基準

う 共有者の合意による利用権原の承継

建物所有者として残るAは、建物存立の基礎となっていた共有者AB間の合意による土地利用権を主張できない
なぜなら、Aは土地の共有持分を失ってしまったからである。
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会1999年p268

(2)道垣内弘人氏見解→合意による利用権原存続

これについて道垣内氏は、合意による土地利用権原の負担を買受人が承継する、という見解をとっています。根拠としては借地借家法10条の拡大解釈を挙げています。この点、借地借家法10条は土地についての制限物権(に準じる賃借権)に対抗力を認めるものです。共有者間の合意共有者(持分譲受人を含む)以外の者に及ぼすのはかなり新しい発想だと思います。
ただし、道垣内氏の見解は共有者間の合意がそのまま存続するというものでもありません。使用対価(民法249条2項の償還義務の金額)については拘束力を失い、裁判所が定める、という処理を提唱しています。

道垣内弘人氏見解→合意による利用権原存続

あ 共有物使用合意(前提)

土地がA・Bの共有で、建物がAの単独所有であるときは、建物所有のために、A―B間で土地利用についての合意がなされねばならない。・・・

い 抵当権者(買受人)との関係→合意を対抗される見解

次に、土地の全部または共有持分についての抵当権者は、この合意を対抗され(借地借家10条の拡大解釈)、建物の存続を容認しなければならない

う 地代確定請求(形式的形成訴訟)の利用→肯定

借賃については、上記の場合と同様に解すべきである。
※道垣内弘人著『担保物権法 第4版』有斐閣2017年p222

4 土地の共有持分(建物所有者以外)の競売→法定地上権なし+合意による利用権原なし

次に、建物所有者Aではない方の土地共有者Bの持分に抵当権が設定され、この持分が競売となったケースについて説明します。
抵当権実行の後も、合意による土地利用権原が存続します。
しかし、この状況では実際には、その後に共有物分割がなされることが多いです。その場合、共有物分割が完了した時点で利用権原が維持されなくなると想定されます。

土地の共有持分(建物所有者以外)の競売→法定地上権なし+合意による利用権原なし

あ 所有権と抵当権の状態

建物 A単独所有 抵当権設定なし 土地 A・Bの共有 B持分に抵当権を設定した

い 法定地上権の成否

抵当権が実行された
→抵当権設定者(B)と建物所有者(A)が異なる
→一般的に法定地上権は成立しない

う 共有者の合意による利用権原の承継

土地共有者ABの合意によりAに土地利用権があった
Aと買受人の共有関係にも承継される
詳しくはこちら|共有持分譲渡における共有者間の権利関係の承継(民法254条)の基本
→Aは建物の収去義務を負わない

え その後の収去リスク(概要)

その後、買受人が土地の共有物分割を請求することが想定される
→形式的競売における法定地上権の適用の有無について統一的見解はない(肯定する傾向がある)
→法定地上権の成立要件を満たす場合であっても、形式的競売であるという理由で法定地上権が認められない(結果的にAが建物の収去義務を負う)ことになるリスクも少しある
詳しくはこちら|形式的競売における法定地上権の適用の有無

5 土地全体の競売

次に土地全体に抵当権が設定されていて、これが競売となった場合を想定します。

(1)一般的見解→法定地上権なし+合意による利用権原なし

土地全体の競売によって、土地の共有関係は解消します。もともと存在した土地共有者間で合意した土地の利用権原は共有関係が維持されていることが前提なので競売の後には存続しません。共有物分割により共有関係が解消された時の状況と同じです。
詳しくはこちら|共有物分割完了後の占有権原(合意・債権関係の消滅)
また、法定地上権も成立しないという見解が実務の一般的見解です。
詳しくはこちら|共有と法定地上権の成否(全体像と共有者全員による抵当権設定)
結局、競売の後には土地利用権原はない状態となります。

(2)道垣内弘人氏見解→合意による利用権原存続

道垣内氏は、土地の全体の競売についても、前述の土地の持分の競売と同じように、合意による土地利用権原の負担を買受人が承継する、という見解をとっています。

道垣内弘人氏見解→合意による利用権原存続

あ 共有物使用合意(前提)

土地がA・Bの共有で、建物がAの単独所有であるときは、建物所有のために、A―B間で土地利用についての合意がなされねばならない。・・・

い 抵当権者(買受人)との関係→合意を対抗される見解

次に、土地の全部または共有持分についての抵当権者は、この合意を対抗され(借地借家10条の拡大解釈)、建物の存続を容認しなければならない”。

う 地代確定請求(形式的形成訴訟)の利用→肯定

借賃については、上記の場合と同様に解すべきである。
※道垣内弘人著『担保物権法 第4版』有斐閣2017年p222

本記事では、土地や建物が共有であるケースで、担保権実行(競売)がなされた時の土地利用権原について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産の競売に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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