【法定地上権の成立する範囲には庭や通路も含まれる】
1 法定地上権の成立する土地の範囲
2 法定地上権は建物の利用に必要な範囲で成立する
3 『建物の利用に必要な範囲』の抽象的な内容
4 庭や通路は法定地上権の範囲に含まれる
5 駐車場や車庫の部分と法定地上権の範囲の判断
6 建築基準法の建ぺい率も法定地上権の範囲で考慮される
7 一部滅失後の現在の建物を法定地上権の範囲の基準にする
1 法定地上権の成立する土地の範囲
一定の状況があるケースでは,不動産の競売の結果,新たに土地の利用権(法定地上権)が発生します。
詳しくはこちら|法定地上権の成立要件には物理的要件や所有者要件がある
一般的な住宅地では,隣地との土地の境界がはっきりしていて,建物と敷地がしっかり対応しています。その場合は敷地全体について法定地上権が成立します。
しかし,建物とその周辺の区分けが不明であるというケースもあります。
その場合,法定地上権がどの範囲で成立するかという解釈が問題となります。
本記事では,法定地上権が成立する土地の範囲について説明します。
2 法定地上権は建物の利用に必要な範囲で成立する
法定地上権が成立する範囲の基本的な基準は,多くの判例で建物の利用に必要な範囲とされています。
純粋な建物の敷地という概念とは異なります。
また公法上の筆という土地の区切り(単位)と同一とも限りません。
<法定地上権の成立範囲(基本)>
あ 基本的な判断基準
法定地上権は建物の利用に必要な範囲の土地の部分に成立する
※多くの判例
※柚木馨ほか編『新版注釈民法(9)物権(4)改訂版』有斐閣2015年p394
い 『敷地』との違い
抵当権設定者・抵当権者・買受人の間で
建物の利用として通常予想される限度で敷地以外にも及ぶ
建物の厳密な意味での敷地部分に限定されない
※大判大正9年5月5日
う 公法上の筆との違い
建物が存在する土地1筆全体に法定地上権が成立するとは限らない
=1筆の土地の一部分,複数の筆にまたがることもある
※大阪高裁昭和35年12月15日
※東京地裁民事執行実務研究会編『改訂不動産執行の理論と実務(上)』法曹会1999年p311
3 『建物の利用に必要な範囲』の抽象的な内容
『建物の利用に必要な範囲』の内容(解釈)のうち基本的な部分をまとめます。
<『建物の利用に必要な範囲』の内容>
あ 基本的な解釈
建物の利用に必要な土地の範囲とは
当該土地・建物を前提として,客観的にみて当該建物の利用に必要な土地の範囲ということである
い 個別的状況の排除
個々の利用者の個別具体的な意図を考慮すべきではない
※大分地裁昭和33年9月19日
※柚木馨ほか編『新版注釈民法(9)物権(4)改訂版』有斐閣2015年p394
4 庭や通路は法定地上権の範囲に含まれる
前記の基準は抽象的なので,具体的な事案においてはっきり判断できないこともあります。
そこで,典型的な土地の用途についての判断を紹介します。
要するに,庭園や通路は建物の用途の一環なので,法定地上権の範囲に含まれる傾向があるのです。
<土地の用途と法定地上権の範囲の判断>
あ 庭園
庭木・庭石を含む庭園について
建物の敷地には該当しないとしても
庭園が建物の景観を添えるために作られている場合
→庭園は法定地上権の範囲に含まれる
※東京地裁年月日不詳(新聞803p22)
※大分地裁昭和33年9月19日
※東京地裁昭和35年12月19日
※松山地裁昭和40年2月1日
い 通路・花壇
玄関から通路に出るための通路or花壇として利用されている空地
→建物の利用に必要な範囲に含む
=法定地上権の範囲に含まれる
※福井地裁昭和28年7月31日
う 実務的な判断基準
建物の周辺の空地・通路部分について
建物の利用以外の目的で特に使用されている事情がない限り
→実務上は法定地上権の範囲に含めることが多い
※東京地裁民事執行実務研究会編『改訂不動産執行の理論と実務(上)』法曹会1999年p312
5 駐車場や車庫の部分と法定地上権の範囲の判断
常識的に,建物への居住に際して自動車が使われることはよくあります。
そこで駐車場の位置付けが問題となります。
第三者に貸している駐車場は建物の用途とは関係がないので,建物の利用に必要とは認められません。
居住のための建物とは別に車庫を作ったケースで,車庫の敷地部分を建物の利用に必要ではないと判断した判例もあります。
<駐車場や車庫の部分と法定地上権の範囲の判断>
あ 区分けされた賃貸駐車場
土地の一部をフェンスで区画し,賃貸駐車場として使用していた場合
→駐車場部分の土地は『建物の利用に必要な範囲』に含まれない
※東京地裁平成5年9月7日
い 附属建物である車庫の敷地
(主たる)建物に抵当権を設定した
→附属建物である車庫の敷地部分は『建物の利用に必要な範囲』に含まれない
※最高裁平成11年4月23日
詳しくはこちら|建物と土地への抵当権設定と車庫建築時期が異なるケースの法定地上権
6 建築基準法の建ぺい率も法定地上権の範囲で考慮される
建物の利用に必要かどうか,という判断は,物理的に通行などができる,というだけでは現実的に不十分です。
建ぺい率などの建築基準法の規制をクリアする範囲が確保されていないと,増改築や再築が大きく制限されてしまうのです。
詳しくはこちら|建築確認|審査内容=建築基準法等の適合性|審査の流れ|建設主事・特定行政庁
そこで,法定地上権の範囲を判断する際に,建築基準法などの規制も考慮します。
ただし,今後建てる予定の建物を前提とする建ぺい率(規制)ではなく,実際に存在している建物を前提にして,適用される規制を考慮します。
<建築基準法の規制と法定地上権の範囲の関係>
あ 建ぺい率の考慮
『建物の利用に必要な範囲』の判断において
建築基準法の建ぺい率も考慮される
※東京地裁昭和50年12月19日
い 予定される再築建物に適用される規制の考慮
『建物の利用に必要な範囲』の判断において
現存建物が滅失して再築する場合における法規制は考慮しない
規制の例=建築基準法
現存建物の利用に必要な範囲に限る
※東京高裁昭和57年6月3日
7 一部滅失後の現在の建物を法定地上権の範囲の基準にする
抵当権を設定した後に建物の一部が滅失したり,移動(移築)が行われるケースもあります。
その後,抵当権が実行され法定地上権が成立する場合,成立する範囲が問題となります。
基本的に,最終的に現存している建物を前提にして法定地上権の範囲が判断されます。
<建物の一部滅失や再築と法定地上権の範囲>
あ 建物の一部滅失
抵当権設定後に建物の一部が滅失した
残存部分が競売により売却された
→残存部分の利用に必要な範囲で法定地上権が成立する
旧建物全体の利用に必要な範囲で法定地上権が成立するのではない
※柚木馨ほか編『新版注釈民法(9)物権(4)改訂版』有斐閣2015年p395
い 建物の解体と移築
建物の一部が同一敷地内で移築された
残りの部分は取り壊された
→残存部分の利用に必要な範囲で法定地上権が成立する
ただし,移築前の敷地部分が移築後の建物の使用上必要な場合
例=商店街に接し,店舗の出入口として利用する
→移築前の建物の敷地部分にも法定地上権が成立する
=結果的に,従来の建物の使用のために必要な範囲と同じ範囲となる
※東京地裁昭和35年12月19日