【土地工作物責任の全体像(条文規定・登記との関係・共同責任)】
1 土地工作物責任の全体像
土地や建物の一部に欠陥があると大きな被害につながりやすいです。
そこで、土地の工作物の占有者や所有者は、一般的な不法行為よりも広い責任を負っています。
本記事では、土地の工作物の責任の基本的内容や細かい解釈などの全体的なことを説明します。
2 土地工作物責任の条文規定
まず、土地の工作物責任を規定する条文の内容を整理します。
占有者と所有者の2段階に分かれています。
被害者の立場では、賠償の請求相手が特定しやすい者であって、かつ立証のハードルも低くなっています。
この規定の趣旨は、被害者の保護にあるのです。
土地工作物責任の条文規定
あ 要件
『ア〜ウ』のすべてに該当する場合
→『い』の責任が発生する
ア 土地の工作物の設置or保存に瑕疵があったイ 他人に損害が生じたウ 瑕疵と損害発生に相当因果関係がある
い 土地工作物責任の内容(効果)
ア 占有者の責任(中間責任)
原則として占有者が責任を負う
イ 所有者の責任(無過失責任)
占有者に過失がなかった場合
→所有者が責任を負う
※大判昭和3年6月7日
※民法717条1項
3 『土地の工作物』と『瑕疵』の解釈(概要)
実際のケースでは、『土地の工作物』や『瑕疵』といえるのかどうかという点で、意見の対立が生じることが多いです。
ここでは解釈論の大まかな内容をまとめておきます。
『土地の工作物』と『瑕疵』の解釈(概要)
あ 『土地の工作物』の解釈(概要)
土地に接着して築造した設備
※大判大正元年12月6日
い 『土地の工作物』の典型例
建物・天井・床・エレベーター・広告塔・水道設備
詳しくはこちら|土地工作物責任の『土地の工作物』の解釈と具体例
う 『瑕疵』の解釈(概要)
通常備えているべき性状、設備、安全性を欠いていること
詳しくはこちら|土地工作物責任の『設置・保存の瑕疵』の解釈と具体例
4 土地工作物責任を負う所有者と対抗要件
土地の工作物責任を負う者の1つは所有者です。
ここで、所有者として責任を負うのは登記上の所有者が含まれるかどうかという問題があります。
実際の所有者と登記上の所有者が異なる場合に、この解釈によって現実的な違いが出てきます。
判例によって統一されておらず、2つの見解に分かれています。
土地工作物責任を負う所有者と対抗要件
あ 見解の全体像
所有者の判断における対抗要件(登記)の扱いについて
『い・う』の2つの見解がある
い 対抗要件否定説
この所有者の責任(注・土地工作物責任)は取引法上の責任ではなく、実質上の所有者に負担させる不法行為上の責任であるから、民法177条の適用はなく、売買・贈与等がなされたときは、登記の移転がなくても、譲渡人は責めを負うことはない。
※五十嵐清稿/加藤一郎編『注釈民法(19)』有斐閣1978年p315
※大阪地判昭和30年4月26日
う 対抗要件肯定説
ア 見解の内容
責任追及の相手方の特定に要する被害者の手間・不利益を考慮する
→対抗要件(登記)を基準とする
※鈴木禄弥著『債権法講義 4訂版』創文社2001年p52
※幾代通ほか著『不法行為法』有斐閣1993年p171
※四宮和夫著『現代法律学全集10 事務管理・不当利得・不法行為(下)』青林書院1985年p747(近年の有力説であると指摘)
※吉村良一著『不法行為法 第3版』有斐閣2005年p216
イ 具体例
工作物の譲渡をしたが所有権移転登記をしていない場合
→例外的に、登記名義人=譲渡人も賠償責任を負う
※潮見佳男著『不法行為法2 第2版』信山社出版2011年p265
5 複数の占有者が負う共同責任
占有者が複数人いるというケースもよくあります。
この場合の土地工作物責任は、一般的に、占有者全員が負うと解釈されています。
つまり被害者はどの占有者に対しても損害の全額の賠償を請求できるということです。
被害者保護の趣旨があらわれているといえます。
複数の占有者が負う共同責任
あ 『占有者』の判断プロセス
複数人の対象者が存在する場合
→各人について『占有者』に該当するかどうかを判定する
い 責任共同の法理(『占有者』判断の独立性)
責任共同の法理により
各『占有者』に全部賠償責任を請求できる
う 責任共同の法理の内容
各『占有者』は同一の損害に対して単独で『占有者』責任を負う
この『占有者』責任は併存する
『関連共同』(民法719条)の要件は不要である
※近江幸治『占有者・所有者の責任と共同不法行為』/『判例タイムズ408号(1980年5月1日)』p35
6 複数の所有者(共有者)が負う共同責任
前記の複数の占有者が負う共同責任は被害者の救済が趣旨であるため、複数の所有者(共有者)にも該当するように思えます。
ただし、前記の見解(文献)では、複数の所有者が負う責任については明記していません。
一方、工作物責任の被害者救済の趣旨を無視して単純に考えると別の結論となります。
つまり、所有者全体(共有者全員)で工作物責任を負うことになるので、各共有者は賠償額のうち持分割合相当の部分をそれぞれ負担するという見解です。
判例がないために、このように見解が分かれているのです。
複数の所有者(共有者)が負う共同責任
あ 複数の占有者の責任の解釈の流用
複数の占有者が負う共同責任は被害者の救済が趣旨である
→複数の所有者(共有者)にも該当するように思える(私見)
い 単純な解釈
所有者全体(共有者全員)で工作物責任を負うことになる
→損害賠償債務は金銭債務であり可分である=分割債務となる
→共有持分割合に応じて共有者に帰属する
※松本克美稿『土地工作物責任』/『月報司法書士2017年11月』p36(遺産共有について)
本記事では、土地工作物責任の基本的事項を説明しました。
実際には、個別的な事情によって結論は違ってきます。
実際に建物などの土地工作物によって生じた事故の責任に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。