【土地工作物責任の『設置・保存の瑕疵』の解釈と具体例】
1 『土地の工作物』の解釈と具体例
2 設置・保存の『瑕疵』の解釈
3 『設置・保存の瑕疵』の解釈
4 設置・保存の瑕疵の判断基準
5 瑕疵の判断基準の詳細な内容
6 工作物自体の完全性の欠如による瑕疵の例
7 危険防止の措置や設備の欠如による瑕疵の例
1 『土地の工作物』の解釈と具体例
土地の工作物の管理に不備(瑕疵)があると占有者や所有者が責任を負います。
詳しくはこちら|土地工作物責任の全体像(条文規定・登記との関係・共同責任)
実際のケースでは,管理の不備が『瑕疵』に該当するかどうかがはっきりしないということがあります。
本記事では,土地工作物責任における『瑕疵』の解釈や多くの具体例について説明します。
2 設置・保存の『瑕疵』の解釈
民法上の『瑕疵』としては,売買や賃貸借などの取引(契約)での解釈がメジャーです。
詳しくはこちら|『瑕疵』の意味・品質や性状の基準・種類(物理・法律・心理的)
土地工作物責任の『瑕疵』も,取引における『瑕疵』と本質的には同じといえます。
<設置・保存の『瑕疵』の解釈>
あ 瑕疵の解釈(学説の表現)
土地工作物責任における『設置or保存の瑕疵』とは
『工作物が,その種類に応じて,通常予想される危険に対し,通常備えているべき安全性を欠いていること』である
※潮見佳男『基本講義 債権各論2 不法行為法 第2版』新世社2009年p135
い 瑕疵の解釈(裁判例)
土地の工作物が通常備えているべき性状,設備,すなわち安全性を欠いていること
※岐阜地裁昭和56年8月31日ほか多数
3 『設置・保存の瑕疵』の解釈
設置や保存に瑕疵があった,ということの意味をまとめます。
<『設置・保存の瑕疵』の解釈>
あ 設置の瑕疵の意味
瑕疵が設置の時から存在していること
い 保存の瑕疵の意味
維持・管理されている間に瑕疵が生じたこと
※能見善久ほか『論点体系判例民法8 不法行為2 第2版』第一法規出版2013年p397
なお,この2つのどちらに分類されても同じ法的効果が発生します。
つまり,実際のケースではこの分類についての意見が対立するようなことはありません。
4 設置・保存の瑕疵の判断基準
実際のケースでは瑕疵ありといえるかどうかの意見が対立しやすいです。
この判断の内容の大部分は評価です。
当然,意見の違いが生じやすいのです。
抽象的ではありますが,判断基準を整理します。
<設置・保存の瑕疵の判断基準>
あ 裁判例の基準
当該工作物の構造,用途,場所的環境及び利用状況などの事情を総合考慮したうえ,通常予想される危険の発生を防止するに足るものであるかを具体的,個別的に判断する
※東京地裁昭和57年12月27日ほか多数
い 営造物責任の判例の基準
営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況など諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべき
※最高裁昭和53年7月4日参照;営造物責任について
う まとめ
工作物の客観的性状から,通常予想される危険に対して安全性を備えているかどうかを判断する
※能見善久ほか『論点体系判例民法8 不法行為2 第2版』第一法規出版2013年p397
5 瑕疵の判断基準の詳細な内容
瑕疵の判断では,細かい解釈が問題となることもあります。
<瑕疵の判断基準の詳細な内容>
あ 機能的瑕疵
機能的な欠如も『瑕疵』に含む
※最高裁昭和46年4月23日;踏切の安全性の欠如
い 基準時点
『瑕疵』の判断について
事故の時点における科学技術の水準を基準とする
※最高裁平成25年7月12日;石綿の粉塵被害
6 工作物自体の完全性の欠如による瑕疵の例
瑕疵の判断基準はとても抽象的です(前記)。
そこで,具体的な事例についての判断を把握した方が分かりやすいです。
以下,具体的事例を紹介します。
とても多くの事例があるので,瑕疵の種類を分類して,順に紹介します。
まずは,工作物自体に不備があったというカテゴリです。
<工作物自体の完全性の欠如による瑕疵の例>
あ 遊動円木の老朽化
遊動円木の支柱の腐朽
※大判大正5年6月1日
い 送電線の破損
高圧架空送電線のゴム皮膜の破損
※最高裁昭和37年11月8日
う 手すりの老朽化
手すりの老朽化
※東京地裁昭和56年10月8日
7 危険防止の措置や設備の欠如による瑕疵の例
工作物が危険であることは当然として,危険防止措置が不足していた,というカテゴリです。
<危険防止の措置や設備の欠如による瑕疵の例>
あ 踏切の保安設備の欠如
踏切道の軌道施設における保安設備の欠如
※最高裁昭和46年4月23日
※前橋地裁平成16年5月14日
い 人工溜池の転落防止措置の欠如
農業用溜池の周囲に柵や金網を設置しなかったこと
※浦和地裁熊谷支部平成9年3月27日
う ゴルフコースの防護ネット設置の欠如
ゴルフコースにおいて
防護ネットを設置していなかったこと
=隣接するコースからの打球の飛来を防止する措置の欠如
※東京地裁平成6年11月15日
※横浜地裁平成4年8月21日
え レーシングコースの監視員設置欠如
レーシングコースの見通しの悪い場所において
監視員を設置しなかったこと
※大阪地裁平成元年3月10日
お 窓の外の柵の設置欠如
窓の外に竿受けが設置されていた
窓から身を乗り出して洗濯物を干すことが予定されている
転落防止のための手すりや柵などが設置されていなかったこと
※福岡高裁平成19年3月20日
か 昼間障害標識の設置欠如
高さ60メートルを超える送電線について
航空法上,昼間障害標識の設置が義務づけられている
これが設置されていなかったこと
※東京高裁平成22年4月27日