【住宅紛争処理審査会による紛争解決手続(あっせん・調停・仲裁)】

1 住宅紛争処理審査会による紛争解決手続
2 住宅紛争処理審査会の対象事案
3 住宅紛争処理審査会による紛争処理の全体像
4 指定住宅紛争処理機関と紛争処理委員
5 住宅紛争処理審査会の解決手続の内容
6 供託利用・住宅性能評価書なし取引と住宅紛争処理審査会
7 住宅紛争処理審査会と保険との連動性(解決の実効性)

1 住宅紛争処理審査会による紛争解決手続

住宅の売買や建築請負契約に関してトラブルが生じることはよくあります。
訴訟などの裁判所による解決手続はもちろんありますが,それ以外にも紛争解決手続があります。
代表的なものの1つに,住宅紛争処理審査会への申立があります。
本記事では,住宅紛争処理審査会による紛争解決の手続について説明します。

2 住宅紛争処理審査会の対象事案

住宅紛争処理審査会に申立ができる紛争には一定の限定があります。
住宅性能評価書付きの取引と住宅瑕疵担保責任保険付きの取引があって,これに関して紛争が生じたというものが対象となります。

<住宅紛争処理審査会の対象事案>

あ 対象住宅

ア 評価住宅 品確法による住宅性能評価書が交付された新築住宅
イ 保険付き住宅 住宅瑕疵担保履行法による住宅瑕疵担保責任保険が付された新築住宅

い 対象となる取引

ア 建設工事請負契約イ 売買契約

う 対象となる紛争の内容

建築工事の請負契約or売買契約に関する紛争

3 住宅紛争処理審査会による紛争処理の全体像

住宅紛争処理審査会による紛争処理の手続は,取引の当事者のいずれかが申請して始まります。
手続の種類としては,あっせん・調停・仲裁の3つがあります。
状況によって最も適した手続を選択する必要があります。

<住宅紛争処理審査会による紛争処理の全体像>

あ 申立

当事者は指定住宅紛争処理機関に解決手続を申請することができる
住宅の取得者・売主・請負人が申請できる
申請書を作成して住宅紛争処理機関に提出する
※品確法施行規則104条〜

い 手続の種類

ア あっせんイ 調停ウ 仲裁 ※履行確保法33条1項

う 申立手数料

1万円
※品確法67条,履行確保法33条

4 指定住宅紛争処理機関と紛争処理委員

住宅紛争処理審査会とは,正式には指定住宅紛争処理機関とよびます。
全国の弁護士会に設置され,弁護士や建築士などの専門家の紛争処理委員から構成されます。

<指定住宅紛争処理機関と紛争処理委員>

あ 法律上の規定

国土交通大臣の指定を受けた機関である
※品確法66条1項

い 実際の設置

全国の各弁護士会(52会)に設置されている
一般的に『住宅紛争処理審査会』とよばれている
※第二東京弁護士会消費者問題対策委員会ほか編『改訂 欠陥住宅紛争解決のための建築知識』ぎょうせい2011年p295

う 紛争処理委員

紛争処理委員は3名以内とする
少なくとも1名は弁護士でなければならない
通常,建築士も含まれる
※品確法68条

5 住宅紛争処理審査会の解決手続の内容

住宅紛争処理審査会では,まず,紛争処理委員が資料や現地を確認して事情を把握します。
これを前提として紛争処理委員が助言するとか,解決案を示すなどをして解決を促進します。
訴訟と異なり,手続は公開されません。

<住宅紛争処理審査会の解決手続の内容>

あ 解決の促進

紛争処理委員が事情の聴取,資料の確認,現地調査などを行う
紛争処理委員が助言や和解案の提示をする

い 非公開

手続は非公開である
※品確法72条

6 供託利用・住宅性能評価書なし取引と住宅紛争処理審査会

住宅紛争処理審査会の手続の対象となるのは,住宅性能評価書があるか,住宅瑕疵担保責任保険に加入している新築住宅の取引だけです。
これらは,取引の際に一定の検査が行われているので,その後のトラブルの解決のための手がかりが比較的しっかりしています。
このように解決の手がかりがあるものだけを住宅紛争処理審査会の手続の対象としているのです。
これらに該当しない取引は解決の手がかりが不足している傾向があるので,対象外とされているのです。

<供託利用・住宅性能評価書なし取引と住宅紛争処理審査会>

あ 供託利用・住宅性能評価書なしのケースでの資料不足傾向

新築住宅の取引において保険ではなく供託制度が利用された
→指定保険法人による検査が行われていない
さらに,住宅性能評価書が交付されていない場合
→建築に関する資料が揃っているとは限らない

い 住宅紛争処理審査会の利用(否定)

『あ』に該当する新築住宅の取引について
→住宅紛争処理審査会の手続を利用できない
※第二東京弁護士会消費者問題対策委員会ほか編『改訂 欠陥住宅紛争解決のための建築知識』ぎょうせい2011年p295

7 住宅紛争処理審査会と保険との連動性(解決の実効性)

住宅紛争処理審査会の解決手続の対象の1つは,住宅瑕疵担保責任保険付きの取引(に関する紛争)です(前記)。
ところで,住宅瑕疵担保責任保険は,住宅紛争処理審査会による解決結果に従って保険金を給付する傾向が強いです。
そのため,解決の実効性はとても高いのです。

<住宅紛争処理審査会と保険との連動性(解決の実効性)>

あ 保険法人認可の条件

保険法人の認可を受けるためには
住宅紛争処理審査会への誠実な対応やその和解案や調停案を原則として受諾することが条件とされている
※住宅瑕疵担保責任保険法人の認可基準13項参照(平成20年3月28日国住生378号)

い 和解・調停と保険金支払の連動性

住宅紛争処理審査会の調停(和解)は
保険金の支払にほぼ直結する

う 解決機能の実効性

住宅紛争処理審査会の手続は強力な紛争解決機能を持っている
他の一般的ADR(当事者だけを拘束する)とは大きく異なる
※第二東京弁護士会消費者問題対策委員会ほか編『改訂 欠陥住宅紛争解決のための建築知識』ぎょうせい2011年p296

本記事では,住宅紛争処理審査会の解決手続を説明しました。
実際には,個別的な状況によって適切な手続は異なってきます。
実際に建築に関するトラブルに直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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