【異常な売買代金の金額による暴利行為の裁判例(無効・有効)】

1 異常な売買代金の金額による暴利行為の裁判例(無効・有効)
2 実質的に時価の10%の対価での譲渡→無効
3 実質的に時価の13%の対価での譲渡→有効
4 時価の33%の代金額→有効性判断不明
5 時価の46%の代金額→有効
6 時価の60%の代金額→無効
7 競売後に5倍の代金で債務者に転売→売買と競売の無効

1 異常な売買代金の金額による暴利行為の裁判例(無効・有効)

売買代金の代金額が異常に高いとか低い場合,当事者のどちらかが暴利を得て,他方が大きな損失を受けます。そのため,暴利行為(公序良俗違反)として契約が無効となることがあります。
詳しくはこちら|売買の代金額や違約金が不当だと無効となる(暴利行為の判断基準)
本記事では,実際に異常な代金の金額が問題となり,裁判所が有効・無効を判断した事例を説明します。

2 実質的に時価の10%の対価での譲渡→無効

少し複雑な背景があり,その中で売買契約が締結されたケースです。
実質的に,数十万で350万円相当の土地を取り上げたといえる状況でした。本来であれば払うべき金額の10%程度しか払っていないのと同じことです。
そこで,暴利行為として無効となりました。

<実質的に時価の10%の対価での譲渡→無効>

あ 貸金の存在

YはAに対して数十万円の貸金をしていた

い 売買契約の経緯と内容

Aが服役することになった
Aの妻Xは相続により土地建物(の共有持分)を有していた
Xは覚醒剤によって精神の平静を失っていた
YはXに『このままでは多額の相続税がとられる』と言って説得した
YはXから代金350万円で土地建物を購入した
実質的な代物弁済の趣旨であった
しかし実際の貸金は数十万円であった

う 裁判所の判断

実質的に時価の10%程度の対価による譲渡である
Xの無知,困窮,精神的不安定に乗じた契約の締結である
→公序良俗違反である=売買は無効である
※東京高裁昭和58年9月5日

3 実質的に時価の13%の対価での譲渡→有効

本来の対価の13%程度の負担で建物を取得したケースです。
しかし,当事者の間では紛争が続いていて,その解決として,裁判所の調停で決めた内容であったようです。
そこで暴利行為にはならず,契約は有効となりました。
調停で定めた内容であるために所有者の窮状につけこんだとはいえないと評価されたと思われます。

<実質的に時価の13%の対価での譲渡→有効>

あ 代物弁済の内容

債務額=120万円
家屋の価値=900万円(債務額の7.5倍)
家屋を代物弁済とすることを合意した
調停条項として定めたようである

い 裁判所の判断

実質的に時価の13%程度の対価による譲渡である
公序良俗違反ではない=有効である
※東京高裁年月日不明(判例時報39号(昭和29年)p14)
※大村敦志『公序良俗と契約正義 契約法研究Ⅰ』有斐閣1995年p283,284

4 時価の33%の代金額→有効性判断不明

古い裁判例であり,肝心の結論部分が記録上はっきりしません。
売買の代金額を33%と設定した事例で,裁判所としては,他の状況によって有効にも無効にもなると指摘しています。

<時価の33%の代金額→有効性判断不明>

あ 売買契約の内容

不動産の時価=6000円
売買代金=2000円(時価の33%)

い 裁判所の判断(の一部)

当事者の主観により有効・無効の両方になる
(記録上,結論ははっきりしない)
※朝鮮高院判昭和3年11月17日
※大村敦志『公序良俗と契約正義 契約法研究Ⅰ』有斐閣1995年p283

5 時価の46%の代金額→有効

売買代金として評価額の約46%が設定されたケースです。
売主の判断能力が低かったという主張もありましたが,裁判所は暴利行為としては認めませんでした。つまり契約は有効となりました。

<時価の46%の代金額→有効>

あ 売買契約の内容

土地の時価=1万4000円以上
売買価格=6400円(時価の約46%)
売主は若年で事理に疎く,酒食に溺れていた

い 裁判所の判断

公序良俗違反ではない=有効である
※名古屋控判大正12年5月23日

う 背景(補足)

時期的に古いので,暴利行為を無効とする考え方をとっていないと思われる
※大村敦志『公序良俗と契約正義 契約法研究Ⅰ』有斐閣1995年p283

6 時価の60%の代金額→無効

売買代金として評価額の60%が設定されたケースです。
最終的に裁判所は,暴利行為として契約を無効としました。
金額はそれほど不当というわけではないのですが,高齢の売主が強引に契約を締結させられたという事情が重視されているようです。

<時価の60%の代金額→無効>

あ 売買契約の内容

土地の評価額の約60%の価格で売買がなされた

い 裁判所の判断

売主にとって売買をする必要性・合理性は全くなかった
むしろ売主にとって不利かつ有害な取引である
売買価格の点で,売主に一方的に不利なものであった
売買は,売主の判断能力の低い状態に乗じてなされた
→公序良俗違反である=無効である
※大阪高裁平成21年8月25日

7 競売後に5倍の代金で債務者に転売→売買と競売の無効

以上の事例は,安い金額で財産を取り上げるというタイプの暴利行為でした。
これとは逆に,高い値段で買わされるタイプの暴利行為もあります。
具体的事例として,競売で農地を安く買って,その農地を使う農業従事者(元所有者)にその5倍で売りつけたというものがあります。
裁判所は暴利行為として無効としました。当事者の属性も含めて,金額以外の事情(主観的要素)が大きく考慮されたようです。

<競売後に5倍の代金で債務者に転売→売買と競売の無効>

あ 農地の競売

農地の競売において,ブローカーYが落札した

い 元所有者への売却

Yは,債務者(元所有者・農民)Xに入札額の5倍で売却した

う 裁判所の判断(売買の有効性)

XY間の売買契約はYの窮状に乗じて締結されたものであり無効である

え 裁判所の判断(競売の有効性)

裁判所はさらに,競売自体をも無効とした
Yが自ら耕作する意思を持たないので入札適格を持たないということも理由とした
※青森地裁五所川原支部昭和38年12月23日

お 判断の内容(補足)

当事者(2者)の地位から,暴利行為(無効)が認めやすかった
特にYの悪性に著しいものがあり,この点が重視されたと思われる
※大村敦志『公序良俗と契約正義 契約法研究Ⅰ』有斐閣1995年p283

本記事では,売買の代金の金額が不当であるタイプの暴利行為の裁判例を説明しました。
実際には,個別的な細かい事情の主張・立証の仕方によって判断が違ってきます。
実際に暴利目的の不当な内容の契約の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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