【建物賃貸借の相当賃料算定における利回り法】
1 建物賃貸借の相当賃料算定における利回り法
2 利回り法の基本的な考え方(概要)
3 基礎価格の算定の枠組み
4 基礎価格の算定の具体例
5 借家権価格の位置づけや算定方法(概要)
6 期待利回りの内容
7 建物賃貸借の利回り法による試算賃料の算定式
1 建物賃貸借の相当賃料算定における利回り法
相当な賃料の算定手法の中に利回り法があります。主に借地についての利回り法については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|利回り法の基本(考え方と算定式)
本記事では,利回り法による算定の中で,建物の賃貸借に特有の算定方法について説明します。
2 利回り法の基本的な考え方(概要)
利回り法を大雑把にいうと,従前賃料を不動産価格の変動に合わせて変動させるというものです。これは借地と建物賃貸借で共通しています。
<利回り法の基本的な考え方(概要)>
従前賃料を不動産価格の変動によってスライド(連動・比例)させる
利回りを固定する
詳しくはこちら|利回り法の基本(考え方と算定式)
3 基礎価格の算定の枠組み
利回り法の中では,不動産の価値として基礎価格を用います。
民法上は建物賃貸借の目的物は,建物だけです。しかし,経済的な視点では,建物自体と敷地利用権ということになります。そこで,建物自体の価値に,敷地利用権の価値を加えたものを基礎価格とします。
<基礎価格の算定の枠組み>
あ 建物の経済価値の内訳
建物の経済価値は建物自体の物理的価値ほかに,当然に敷地利用価値を含む
い 建物所有と土地所有の関係(否定)
建物所有者が敷地所有者であるか,借地権者であるかは借家関係とは関係ない
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p767
4 基礎価格の算定の具体例
借地の相当賃料算定での基礎価格は,借地権価格を控除したものと用いるのが一般的です。
詳しくはこちら|利回り法における基礎価格(借地権価格を控除した底地価格)
建物賃貸借でも同様の考え方で,借家権価格を控除します。
結局,基礎価格は,建物価格と土地利用権の価値を足して,ここから借家権価格を控除することによって算出します。借家権価格の算定については後述します。
<基礎価格の算定の具体例>
あ 算定方法の例
基礎価格=建物価格+土地利用価格−借家権価格
『い・う』ともに(結果的に)この算定方法となっている
い 最後に借家権価格を控除する方法
建物価格と土地利用価格(地価の70%)の合計額をAとする
Aの50%を借家権価格とした
その残額(Aの50%)を基礎価格(投下資本額)とした
※東京高裁昭和46年9月10日
※東京地裁昭和41年5月13日参照
※東京地裁昭和46年10月30日参照
う 控除した後に合算する方法
借地上の借家のケースについて
建物価格の30%と借地権価格の30%の合計額を借家権価格とした
基礎価格(投下資本額)は,建物価格の70%と借地権価格の70%の合計額であるとした
※東京地裁昭和51年8月1日
5 借家権価格の位置づけや算定方法(概要)
前記の基礎価格の算定の中で借家権価格が使われます。
この借家権価格を算定する方法は,明確に決まったものはありません。実際には,借家権割合を使う方法(割合法)が用いられることが多いです。
借家権割合の位置づけや算定方法については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借家権価格の性質や位置づけと算定方法(借家権割合の相場)
6 期待利回りの内容
利回り法の算定の中で用いる利回りは,対象の賃貸借における利回り(直近合意時の利回り)です。期待利回りは使うとしても参考にとどまります。その期待利回りとして用いる割合は,土地(利用権)と建物のそれぞれについての一定の幅があります。地域によっても適切な割合は違ってきます。
<期待利回りの内容>
あ 期待利回りの種類
新規賃料の期待利回りではなく,継続賃料利回りの意味である
→直近合意時の利回りを用いる+期待利回りは参考にとどめる
詳しくはこちら|利回り法における期待利回りの位置付け(適正利潤率の不合理性)
い 期待利回りの目安
対象 | 一般 | 東京都の商業地域 |
土地 | 5〜6% | 5〜6% |
建物 | 8〜10% | 8%前後 |
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p769
う 土地8%,建物10%とした事例
土地の期待利回り年8%,建物の期待利回り年10%とした
※東京地裁昭和52年8月17日
え まとめて8%とした事例(やや少数派)
借家権価格を控除した土地建物価格に期待利回り年8%を乗じた
※東京高裁昭和46年9月10日
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p769
7 建物賃貸借の利回り法による試算賃料の算定式
以上で,利回り法による建物賃貸借の相当賃料の算定方法を説明しました。複雑ですので,最後に,全体の計算式をまとめておきます。
<建物賃貸借の利回り法による試算賃料の算定式>
あ 建物と土地の利回り算定
建物価格 × (1−借家権割合) × 建物の利回り = A
借地権価格 × (1−借家権割合) × 土地の利回り = B
い 試算賃料の算定
(A+B+必要諸経費(建物の償却費)) ÷ 12 = 試算賃料月額
※藤田耕三ほか編『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p769,770
本記事では,利回り法による建物賃貸借の相当賃料の算定について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に建物賃貸借の賃料の金額に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。