【建物の明渡料2億8000万円を定めた裁判例(有効利用目的・衣料品小売店舗)】
1 建物の明渡料2億8000万円を定めた裁判例
2 建物賃貸借契約の主な内容
3 建物の状況
4 裁判所が判断した明渡料
1 建物の明渡料2億8000万円を定めた裁判例
賃貸中の建物の明渡の際には,明渡料(立退料)が必要になることが多いです。
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)
賃貸人が明渡を希望する理由が,敷地の有効利用・高度利用の目的である場合,明渡料は高額になる傾向があります。
本記事では,賃貸人による有効利用の目的による建物明渡において,裁判所が明渡料を2億8000万円と定めた事例を紹介します。
2 建物賃貸借契約の主な内容
まず,建物の賃貸借契約の主な内容をまとめます。
<建物賃貸借契約の主な内容>
賃貸人 | 個人の土地所有者 |
賃借人 | 衣料品小売業 |
始期 | 昭和46年7月14日 |
当初の賃料 | 不明 |
現行賃料 | 40万円 |
更新拒絶・解約申入の時期 | 昭和60年11月25日 |
明渡請求の理由 | 再開発による中高層ビルの建築 |
賃貸人の地位の承継 | 昭和60年5月に地主が借地権を買い戻した |
※東京高裁平成2年5月14日
3 建物の状況
次に,建物の状況をまとめます。
<建物の状況>
あ 建物の種類・構造
木造2階建て貸席
1階167.14平方メートル,2階64.79平方メートル
い 建築時期
昭和4年頃
う 建物の現況
一部火災にあった
築後約60年を経過ている
木造板葺の建物なのでかなり老朽化している
え 建物の利用状況
賃借人の衣料品販売店として使用されている
お 地域
早稲田通りと明治通りの交差点に近い
建物の高層化が顕著な地域である
※東京高裁平成2年5月14日
4 裁判所が判断した明渡料
以上の事情からは,賃借人がこの建物の使用を継続する必要性は高く,また,賃借人に落度はないといえます。一方,賃貸人がこの建物を使用する必要性は特に高くありません。しかも,賃貸人は,明渡請求をすることを前提に土地(借地権)を購入しています。
そうすると,賃貸人による明渡の請求は,賃貸人の利益を獲得することが主な目的であることになります。
そこで裁判所は,賃貸人が申し出た金額に近い2億8000万円の明渡料によってようやく正当事由がある(明渡を認める)ことにしたのです。
<裁判所が判断した明渡料>
あ 明渡料の金額
2億8000万円
現行賃料の約58.3年分に相当する
い 明渡料の内容
新店舗,事務所の入居保証金,営業損,造作費,移転費,仲介手数料を参考にした
借家権価格の評価は(結果的に近い金額となっているが),判決では使われなかった
う 借家権価格の評価(参考)
評価時点 | 借家権価格 |
昭和60年4月時点 | 6300万円 |
昭和62年4月時点 | 2億6000万円 |
※東京高裁平成2年5月14日
本記事では,有効利用・高度利用を目的とした建物の明渡について,裁判所が明渡料を2億8000万円と定めた事例を紹介しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結果は違ってきます。
実際に建物の明渡の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。