【過去の官民境界査定処分の制度(種類・効力の存続・行政処分の性質)】
1 過去の官民境界査定処分の制度
2 国有地と民有地の境界を確定する過去の境界査定制度
3 官民境界査定手続への隣地所有者の関与と法的性質
4 行政処分の一般的な意味と効力
5 査定処分の結果(査定図)の法的効力と信頼性(概要)
6 現行の境界査定に類する手続
1 過去の官民境界査定処分の制度
昭和23年より前の時代に,国有地(官有地)と民有地の境界を決める手続として官民境界査定処分という制度がありました。
既に廃止されてから長年が経過していますが,現在の境界の問題の解決に関係することがあります。
本記事では,官民境界査定処分の制度の種類や法的性質について説明します。
2 国有地と民有地の境界を確定する過去の境界査定制度
官民の境界を確定する査定制度は,明治17年から昭和23年までの間に,4種類のものがありました。名称は境界確定や査定となっていますが,総称として査定(処分)と呼びます。
行政の判断で私人の財産の本質である所有権に直接的な影響が生じるので憲法上の財産権(私有財産制)に違反するという発想もありましたが,一般的には否定されています(合憲です)。
そして,制度自体は廃止されましたが,既に完了した査定処分の結果(成果)が消滅したわけではありません。査定処分の結果は現在でも生きています。
<国有地と民有地の境界を確定する過去の境界査定制度>
あ 境界査定制度の変遷
名称 | 根拠 | 公布or作成日 | 番号 |
境界確定 | 官林境界調査心得1条 | 明治17年10月14日 | 外340号農商務省達 |
境界確定 | 官林境界調査内規1,4条 | 明治23年10月 | 農商務省訓令丙林371号 |
境界査定 | 旧国有林野法4〜7条 | 明治32年3月23日 | 法律85号 |
境界査定 | 旧国有財産法10〜13条 | 大正10年4月8日 | 法律43号 |
い 合憲性
境界査定処分は憲法29条に違反するものではない
※山形地裁昭和33年10月13日
※前橋地裁昭和57年9月28日
う 境界査定制度の廃止
新国有財産法(平成23年7月施行)によって廃止された
現在は官民境界確定協議の制度となっている
詳しくはこちら|官民境界確定の手続(官民境界確定協議・非定型の協議手続・境界明示手続)
え 境界査定の結果の効力の存続
違憲だから廃止されたわけではない(い)
→既に行われた査定処分の効果は現在でも有効である
※前橋地裁昭和57年9月28日
※寳金敏明著『里道・水路・海浜−長狭物の所有と管理− 4訂版』ぎょうせい2009年p250,251
※秋保賢一ほか著『官民境界確定の実務 −Q&Aと事例解説− 新訂版』新日本法規出版2006年p18
3 官民境界査定手続への隣地所有者の関与と法的性質
官民境界の査定処分の手続の中で,隣接地所有者が立ち会うことが求められていました。しかし,隣接地所有者が境界の位置について承諾(合意)しなくても行政が一方的に判断(査定処分)をすることが可能でした。
隣接地所有者が査定結果に納得できない場合には行政訴訟を提起して裁判所に判断してもらうという構造になっていました。
法的性質としては行政処分ということになります。
<官民境界査定手続への隣地所有者の関与と法的性質>
あ 隣接地所有者の関与
すべての境界査定の手続について
隣接する土地の所有者の立会が要求されていた
隣接土地所有者の立会や承諾が要件とはなっていなかった
い 不服申立の手段
法律で定められた手続について
不服のある隣地所有者は行政裁判所に出訴できる規定があった
う 法的性質
行政処分である
※大判大正6年10月12日(官林境界調査心得)
※福岡高裁昭和34年1月31日(官林境界調査内規)
※福岡高裁平成5年9月7日(旧国有林野法)
※前橋地裁昭和57年9月28日(旧国有財産法)
4 行政処分の一般的な意味と効力
前記のように,査定処分は行政処分の1つです。
行政処分の一般的な性質のうち,特徴的なものは公定力があるというものです。
<行政処分の一般的な意味と効力>
あ 行政処分の意味(概要)
その行為によって,国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められている(場合)
※最高裁昭和30年2月24日
※最高裁昭和39年10月29日
詳しくはこちら|行政訴訟・取消訴訟|処分性|基本|処分の定義・給付請求との並立
い 行政処分の効力(公定力)
違法な行政行為も,当然無効の場合は別として,正当な権限を有する機関による取消(行政訴訟における裁判所の取消判決)のあるまでは一応,適法の推定を受ける
相手方はもちろん,第三者も,他の国家機関もその行政行為の効力を無視することができない
※田中二郎『新版行政法上巻 全訂第2版』p234
5 査定処分の結果(査定図)の法的効力と信頼性(概要)
官民境界の査定処分(の結果)には,所有権境と筆界(公法上の境界)の両方を特定(移動)する法的効力があります。
その上,前記のように,官民境界の査定処分は行政処分であるため公定力があります。
そこで,過去に行われた査定結果は強い影響力を持ちます。具体的には境界確定訴訟で査定図が重要な証拠となるということです。
詳しくはこちら|官民境界査定処分の法的効力と官民査定図の精度・信頼性
6 現行の境界査定に類する手続
前記のように,官民境界の査定処分の制度は既に廃止されています。官民境界を明確にする現在の手続は官民境界確定協議です。行政処分ではなく,協議や合意です。つまり一般的な私人間の関係という性質のものになっているのです。
ただし,行政処分として境界を確定する手続も,非常に限られた状況においては現在でも行われます。
<現行の境界査定に類する手続>
あ 現在の手続(概要)
現行の官民の境界を確定する手続は官民境界確定協議(手続)となっている
(査定処分と異なり)行政処分ではない
詳しくはこちら|官民境界確定の手続(官民境界確定協議・非定型の協議手続・境界明示手続)
い 例外的な手続
官有地と民有地の境界を行政処分として確定する制度について
現行法上では極めて例外的に採用されている
う 境界査定に類する手続の種類
境界査定に類する手続(規定)がいくつかある
※地方自治法9条〜
※道路法19条
本記事では,昭和23年までの官民境界査定処分の制度について説明しました。
過去の査定結果(査定図)は,現在の境界の問題の解決にも大きな影響があります。
実際に土地の境界に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。