【官民境界確定の手続(官民境界確定協議・非定型の協議手続・境界明示手続)】

1 官民境界確定の手続(官民境界確定協議・非定型の協議手続・境界明示手続)
2 官民境界確定協議の内容と特徴
3 現行の官民境界確定協議の法的性質
4 官民境界の非定型の協議手続の実情
5 官民境界の非定型の協議手続の法的性質
6 道路・水路などの境界明示手続
7 官民境界確定図の活用
8 境界確定訴訟による官民境界の確定(参考)
9 過去の官民境界査定処分の法的性質(参考)

1 官民境界確定の手続(官民境界確定協議・非定型の協議手続・境界明示手続)

公有地と民有地の境界が不明確である場合,協議して決めることがよく行われます。
一般的な(私人同士の)協議と似ていますが,法律上に規定された協議手続もあります。
なお,昭和23年までは官民境界査定処分という手続がありましたが,既に廃止されています。
詳しくはこちら|過去の官民境界査定処分の制度(種類・効力の存続・行政処分の性質)
本記事では,現在の官民境界を確定する協議手続について説明します。

2 官民境界確定協議の内容と特徴

国有財産法に,官民境界確定協議の手続に関する規定があります。法律に基づく手続なので,行政による強制的な手段があるのでは,と思いがちです。しかしあくまでも当事者(隣接地所有者)の同意によって成立するものです。

<官民境界確定協議の内容と特徴>

あ 境界確定協議の内容

国有財産である(旧)法定外公共物の財産管理を担当する者が,隣接地所有者と話し合って所有権境(界)を定める方法
※国有財産法31条の3〜5
(※国有林野の管理経営に関する法律)

い 隣接地所有者の関与

隣接地所有者の同意を必要とする

う 特徴

行政的な手続でありながら話し合いを基礎とするものである
※寳金敏明著『里道・水路・海浜−長狭物の所有と管理− 4訂版』ぎょうせい2009年p254

3 現行の官民境界確定協議の法的性質

国有財産法上の官民境界確定協議の制度の法的性質は行政処分ではなく,私法上の契約です。要するに,私人間の合意(民法上の合意)と同じ扱いなのです。
効果としても所有権の範囲(境)を特定するものにとどまります。筆界(公法上の境界)を確定する効果はありません。

<現行の官民境界確定協議の法的性質>

あ 行政処分該当性(否定)

官民境界確定協議による境界確定は行政処分ではない

い 法的性質

財産所有者としての国と隣接地所有者との間において土地の所有権の範囲を定める契約(私法上の契約)である
※東京地裁昭和56年3月30日
※佐賀地裁昭和58年7月8日
※京都地裁昭和59年6月28日
※大阪高裁昭和60年3月29日
※秋保賢一ほか著『官民境界確定の実務 −Q&Aと事例解説− 新訂版』新日本法規出版2006年p19,21,22

4 官民境界の非定型の協議手続の実情

国有財産法上の官民境界確定協議以外にも,公有地と民有地の境界を協議によって確定する手続は行われています。自治体の内部では規定が作られていますが,法律(法令)ではありません。


<官民境界の非定型の協議手続の実情(※1)

あ 自治体の規定による協議

官民の境界確定の協議について
都道府県や市町村が内部的な運用の規定を定めている
規定の例=公共用財産境界確定事務取扱要領
申請様式の例=官民境界査定願い,官民境界査定申請(※2)

い 公有財産についての協議

里道・水路(法定外公共物)で市町村が譲与を受けたものについて
公有財産(地方自治法238条)として,境界協議を行っている
※寳金敏明著『里道・水路・海浜−長狭物の所有と管理− 4訂版』ぎょうせい2009年p255
※秋保賢一ほか著『官民境界確定の実務 −Q&Aと事例解説− 新訂版』新日本法規出版2006年p20〜22

5 官民境界の非定型の協議手続の法的性質

前記のような法律の規定によらない官民境界の協議手続の法的性質は,私的契約です。つまり,国有財産法上の官民境界確定協議と同じです。
なお,自治体に協議を求める書面の様式として,『官民境界査定申請』のように『査定』の用語が使われていることもあります。査定と言うと,過去の査定処分(行政処分の性質)を思い出します。しかし,単に名残のある名称を流用しているだけで法的な査定処分とは違います。

<官民境界の非定型の協議手続の法的性質>

あ 行政処分該当性(否定)

官民境界についての非定型の協議手続(前記※1)は
行政処分ではない
名称として査定の文言が使われていることもある(前記※2
しかし過去の査定処分とは関係がない

い 法的性質

私法的手続(通常私人間で行われている境界確定の方法)による所有権境の確定である
所有権境についての私的契約(和解契約)として成立させるものである
国有財産法31条の3以下の規定が適用されるわけではない
※建設省財産管理研究会『公共用財産管理の手引 第2次改訂版』p122
※寳金敏明著『里道・水路・海浜−長狭物の所有と管理− 4訂版』ぎょうせい2009年p255
※秋保賢一ほか著『官民境界確定の実務 −Q&Aと事例解説− 新訂版』新日本法規出版2006年p20〜22

6 道路・水路などの境界明示手続

官民の境界を協議する手続と似ている手続として,境界明示手続があります。これは自治体による道路や水路の管理業務の一環として境界を分かりやすくするものです。
所有権境や筆界を確定する法的効力はありません。
ただし,この手続の中で,隣接地所有者が所有権境として同意したというプロセスが含まれていれば,この部分だけは純粋に(独立して)所有権境についての合意(法的には和解契約)として扱われる可能性はあります。

<道路・水路などの境界明示手続>

あ 境界明示手続の実情

市町村において民有地所有者からの申請に基づいて,道路・水路などと民有地との境界を明らかにすることが実務上広く行われている

い 要綱や要領による規定

いわゆる道路・水路等境界明示申請として要綱,要領を定めている市町村も多い
※秋保賢一ほか著『官民境界確定の実務 −Q&Aと事例解説− 新訂版』新日本法規出版2006年p22,23

う 行政処分該当性(否定)

行政処分ではない
※大阪地裁昭和53年10月12日
※横浜地裁昭和55年7月16日

え 境界明示手続の法的位置づけ

境界明示手続は,公物管理者による機能管理の方法の1つである
所有権境の管理とは別のものである
境界明示には何らの法的効果も伴わない
※寳金敏明『里道・水路・海浜 新訂版』p256

お 所有権境の合意の認定の可能性

実質的に官民境界について協議が行われ,当事者の互譲によって官民境界が確定したと認められる場合は,同時に所有権境についての和解契約が成立したものと認められる場合もある
※秋保賢一ほか著『官民境界確定の実務 −Q&Aと事例解説− 新訂版』新日本法規出版2006年p23

7 官民境界確定図の活用

国有財産法上の官民境界確定協議やそれ以外の非定型の協議手続で,行政庁と隣接地所有者が所有権境について合意に達した場合,官民境界確定図として調印します。
この官民境界確定図は,所有権境を合意したものにすぎません。しかし,筆界(公法上の境界)を特定する判断材料の1つにはなります。その後の同一箇所や付近の筆界を確定する際の資料(証拠)として活用されます。
詳しくはこちら|境界の位置を判断(特定)する事情ごとの判断基準と判断材料(立証方法)

8 境界確定訴訟による官民境界の確定(参考)

以上は,官民の境界を協議によって定める手続でした。実際には協議をしても合意に至らないケースも多いです。
その場合には,一般的な境界の特定と同じように,境界確定訴訟を提起して,最終的に裁判所に境界を判断(確定)してもらうことになります。

9 過去の官民境界査定処分の法的性質(参考)

以上のように,現在の官民の境界を確定する原則的(初期的)な手段は官民境界確定協議です。つまり,協議によって合意に至るというものです。
この点,昭和23年までは,官民境界査定処分という手続がありました。性質としては,行政庁の判断で境界(所有権境と筆界の両方)を確定(移動)するというものでした。現行の官民境界確定協議とは大きく異なるのです。
詳しくはこちら|過去の官民境界査定処分の制度(種類・効力の存続・行政処分の性質)
詳しくはこちら|官民境界査定処分の法的効力と官民査定図の精度・信頼性

本記事では,(現在の)官民境界確定協議の制度について説明しました。
実際の境界の確定では,個別的な事情や細かい資料の使い方(立証のやり方)次第で結論が違ってきます。
実際に土地の境界に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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