【建物所有目的の土地の使用貸借における相当期間を判断した裁判例】
1 建物所有目的の土地の使用貸借における相当期間を判断した裁判例
建物所有目的の土地の使用貸借において目的に従った使用収益に足りる期間(相当期間)の判断が問題となることが多いです。つまり、明渡請求が認められるかどうかという判断です。
詳しくはこちら|一般的な使用貸借契約の終了事由(期限・目的・使用収益終了・相当期間・解約申入)
本記事では、土地の使用貸借の相当期間が経過したかどうかを判断した実例(裁判例)を紹介します。
2 相当期間の経過(終了)を認めた裁判例
(1)相当期間の経過(終了)を認めた裁判例の集約
相当期間の経過を認めた、つまり使用貸借契約が終了したので明渡請求を認める、と判断した裁判例をまとめました。だいたい、契約開始から10年前後で相当期間が経過したと認められるという大きな傾向がよみとれます。ただ、事案内容によって大きく違うこともあります。
相当期間の経過(終了)を認めた裁判例の集約
(2)昭和41年東京地判・短期に限る意図→4年半で相当期間経過肯定
4年半という比較的短い期間で相当期間の経過が認められた裁判例です。土地を貸す経緯として、貸主と借主が短期間に限るという認識を持っていたというケースです。このような経緯が重視されて相当期間が経過したと認められました。
昭和41年東京地判・短期に限る意図→4年半で相当期間経過肯定(※1)
あ 土地の使用貸借の目的や経緯
当事者には、借主が転居先を探すまで土地を貸借するという意図があった
=短期間に限って貸す(借りる)という認識
い 相当期間の判断
契約開始後4年半の時点で相当期間が経過したと判断した
※東京地判昭和41年4月19日
(3)昭和57年東京地判・30年→目的を達成した
約30年で使用貸借の終了を認めた裁判例です。もともと、建物の貸し借りで、被告が借主だったのですが、被告(建物の借主)が増築を繰り返して、最終的に建物が被告の所有となったようです。
なお、原告所有の建物に被告が加工をしても被告の所有とは認めない見解が一般的です。
詳しくはこちら|民法の添付(付合・混和・加工)の規定(民法242〜248条)
なぜ建物が被告所有となったのかは判決内容からは読み取れません。
いずれにしても、土地の使用貸借となったということを前提として、その解約(解除)が有効かどうかが問題となりました。ところで被告はこの建物を、画塾のアトリエとして使っていました。このような事情から、裁判所は使用貸借の目的を達成したと判断しました。これを前提として解約(解除)を認めているので、要するに相当期間が経過したという判断だと思います。
昭和57年東京地判・30年→目的を達成した(※2)
あ 最初は建物を借りた
(要旨)
・・・郷里に残つた被告は、画家として身を立てるべく、昭和二五年上京し、本件土地上の建物中約四坪を原告より借り受け居住するに至つた。
い 建物の増築
・・・被告が前記建物を昭和二五年に一階11.75坪、二階7.75坪に増築し、更に昭和四三年73.55平方メートルに増築してアトリエを設け、「原宿絵画教室」と称する生徒数一〇名を収容できる画塾を経営するようになつてから、・・・
う 「賃料」の支払(供託・送金)
・・・被告は、昭和四三年五月二七日、昭和三四年一〇月から昭和四三年五月分まで月額坪三〇円の割合により、昭和四三年六月二九日同年六月分として月額坪一〇〇円の割合により、昭和四三年八月二日同年七、八月分として月額坪一〇〇円の割合によりそれぞれ賃料の弁済と称して供託をし、同年九月分以降原告の離婚した先妻園子に対し月額一万円、昭和四六年八月以降は月額五〇〇〇円の割合により本件土地使用の謝礼ということで和田貞明を通じて送金したこと、その後、昭和五四年九月以降再び月額一万円の割合で供託していることが窺われる。
え 裁判所の判断
ア 使用貸借の「目的を達成」→肯定
・・・原被告間の本件土地の使用貸借は、建物所有を目的とするものではあつたが、約三〇年余りを経過しており、その間被告は画家として成長し、画塾を経営するまでに至り、使用貸借としては既にその目的を達成したものということができる。
イ 解除(解約)の権利濫用→否定
もつとも、原告の被告に対する立退き要求は、常軌を逸し、むしろ、逆上気味のところが認められるが、それも老境に至り焦燥感に駆られ、欲求不満が昂じての結果であるともいうことができ、そのために本件土地の使用貸借の解除を信義則違背又は権利濫用に当るものとすることは困難である。
※東京地判昭和57年3月26日
3 相当期間の経過(終了)を認めなかった裁判例
(1)相当期間の経過(終了)を認めなかった裁判例(集約)
建物所有目的の土地の使用貸借について、相当期間は経過していないと判断した裁判例も多くあります。最初に複数の裁判例をまとめておきます。
契約開始後2年間は短いので相当期間の経過が否定されたのは分かりやすいです。一方、契約開始後10年や20年でも相当期間の経過が否定されています。
経過期間以外の個別事案の細かい事情も大きく影響することがあるのです。
相当期間の経過(終了)を認めなかった裁判例(集約)
(2)昭和56年東京地判・居住者の窮状により31年でも相当期間否定
個別的な事情が大きく影響して相当期間の経過が否定された裁判例です。
契約開始から31年が経過していたので、平均的な想定期間(相当期間)は経過していると思えます。
しかし、実際に居住している者は、病気により監護が必要な高齢の者と、手助けをしている家族でした。このような事情が、まだこの土地を使うことを認める方向に働いたと思われます。
昭和56年東京地判・居住者の窮状により31年でも相当期間否定(※3)
あ 契約開始からの期間
居住用の建物所有の目的で土地の使用貸借が行われた
期間は定めていなかった
契約開始から31年が経過していた
建物の新築から29年が経過していた
い 使用借権の承継(前提)
元の借主Aが亡くなり、相続人が使用借権(借主の地位)を承継した
詳しくはこちら|借主の死亡による使用貸借の終了と土地の使用貸借の特別扱い
う 居住者
Aの妻・子供(3女)B
Bの夫と子供(Aの孫)2人
え 生活状況
Aの妻が病気であり、家族が面倒をみる必要があった
お 相当期間の判断(否定)
使用貸借の土地上の建物の使用収益の必要がある状態である
相当期間は経過していない
=使用貸借は終了していない
→明渡請求を認めなかった
※東京地判昭和56年3月12日
4 関連テーマ
(1)建物朽廃を使用収益終了時期とした裁判例(参考)
以上の説明は相当期間の判断についてのものでした。この点、相当期間ではなく、使用収益の終了時期を建物が朽廃するまでと判断した裁判例もあります(東京地裁昭和31年10月22日)。
要するに、個別的な事情によっては一定の年数で終了するわけではないことになることもあるのです。
詳しくはこちら|使用貸借における目的に従った使用収益の終了の判断の実例(裁判例)
本記事では、建物所有目的の土地の使用貸借における相当期間の経過の判断をした裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に使用貸借の終了(明渡)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。