【中間省略登記代替的手法(新中間省略登記)の内容や認める公的見解と誤解】
1 中間省略登記代替的手法の内容や認める公的見解と誤解
2 中間省略登記代替的手法を認める公的見解
3 買主たる地位の譲渡方式の内容
4 第三者のためにする契約方式の内容
5 法改正による変更があったという誤解
6 誤解が生じた構造的な根本要因
7 信託受益権化した売買によるコスト削減(参考)
8 中間省略登記代替的手法による税金削減効果(概要)
1 中間省略登記代替的手法の内容や認める公的見解と誤解
従来型の中間省略登記は,実際の物権変動と異なる登記申請をするものであり,違法です。
詳しくはこちら|従来方式の中間省略登記の内容と違法性(裁判例の歴史)
やり方によっては,これととても似ているけれど適法となります。中間省略登記代替的手法とか新中間省略登記と呼ばれています。一方,誤解も広まっています。
本記事では,中間省略登記代替的手法について説明します。
2 中間省略登記代替的手法を認める公的見解
中間省略登記代替的手法は,公的見解として認められています。実際に裁判所もこの方式を適法として認めています。
<中間省略登記代替的手法を認める公的見解>
あ 日本司法書士連合会による公表
第三者のためにする契約,または,買主の地位の譲渡により,実体上,所有権が『甲→丙』と直接移転し,中間者乙を経由しないときには『甲→丙』と直接移転登記をすることが可能である
※司法書士会会長宛平成19年12月12日付日司連発第1339号『直接移転取引における実務上の留意点について(お知らせ)』
※藤縄雅啓稿『副本・保証書から登記原因証明情報・本人確認情報へ』/『月報司法書士561号』日本司法書士会連合会2018年11月p26
い 法務省による公表
民事局長通知により
第三者のためにする契約方式と買主の地位譲渡契約方式の2種類の登記原因証明情報のひな型が提示された
直接移転取引による登記申請が受理されるという内容が示された
※平成19年1月12日民2第52号
このように,適法な登記申請の手法は,2つに分けられます。以下,具体的な内容を説明します。
3 買主たる地位の譲渡方式の内容
中間省略登記代替的手法の1つ目は,通常の売買契約と買主たる地位の売買という2つの契約(取引)を組み合わせるというものです。
結果的に,中間者が所有権を得ることはありません。そこで,登記としても中間者への移転(登記)が必要なくなるのです。
<買主たる地位の譲渡方式の内容>
あ 通常の売買(第1取引)
AがBに不動産を売却する
い 買主たる地位の売買(第2取引)
BがCに買主たる地位を売却する
契約上の地位の移転と呼ばれるものである
う 登記の内容
所有権がAからCへと直接移転した
→AからCへの所有権移転登記
え 特徴
書類はそこまで多くならない
Cは第1取引の当事者である(になる)
→CがAB間の売買の代金を分かってしまうことになる
4 第三者のためにする契約方式の内容
中間省略登記代替的手法のもう1つは,第1取引では,買主には所有権を移転しないという特約を付けておくというものです。第2取引の買主が所有権を得るということを第1取引の時点で約束(特約)しておく,ということです。
この特約どおりに,中間者が所有権を得ることはありません。そこで,登記としても中間者への移転(登記)が必要なくなるのです。
<第三者のためにする契約方式の内容>
あ 特約付き売買
AがBに不動産を売却する
所有権がAからCに移転するという特約を付ける
い 特約に基づく売買
BはCに不動産を売却する
う 登記の内容
所有権がAからCへと直接移転した
→AからCへの所有権移転登記
え 特徴
AB間の売買,BC間の売買は別個の契約である
→CがAB間の売買の代金額を知ることを回避できる
2つの売買契約なので,必要な書類は多くなる
5 法改正による変更があったという誤解
以上のように,中間省略登記のような方法で適法なものが公表されたことで誤解が生まれてしまいました。もともと従来型の中間省略登記が適法であったのに,平成16年の不動産登記法改正によって違法に変わったという誤解です。
従来型の中間省略登記ができなくなった(違法になった)から代わりに新たな中間省略登記が公表されたというような誤解の構造です。
実体と登記とで権利変動が一致していないといけないという根本的ルールに変動は生じていないのです。
そのような視点でいうと,中間省略登記代替的手法は,実体と登記は合致しています。権利変動の一部を省略した内容の登記申請ではありません。その意味では(新)中間省略登記そのものではありません。(新)中間省略登記と呼ぶこと自体が誤解を生むかもしれません。そのような意識から,中間省略登記代替的手法などのような工夫した呼び方もあるのです。
<法改正による変更があったという誤解>
あ 誤解の発生
(平成16年不動産登記法改正に関して)
『旧法下では中間省略登記が認められていたが,新不動産登記法施行により中間省略登記を認めないとする制度変更があった』というのは誤解である
※司法書士会会長宛平成19年12月12日付日司連発第1339号『直接移転取引における実務上の留意点について(お知らせ)』
※平成19年6月22日閣議決定の文言参照
※藤縄雅啓稿『副本・保証書から登記原因証明情報・本人確認情報へ』/『月報司法書士561号』日本司法書士会連合会2018年11月p26
い 真実(正解)
実体上の権利変動と異なる内容の登記申請は違法である
このことは不動産登記法改正とは関係なく常にいえる
以前は違法な登記申請が蔓延していたが適法だったわけではない
6 誤解が生じた構造的な根本要因
前記のような中間省略登記に関する誤解から読み取れることがあります。それは,司法書士や不動産取引の業界全体の不動産登記制度に対する考え方や姿勢です。
法務局や司法書士業界からは,司法書士が率先して登記制度の趣旨を拡めるという理想が掲げられています。
<誤解が生じた構造的な根本要因>
あ 司法書士業界の思考停止
(中間省略登記についての誤解に関して)
司法書士・金融・不動産業界など不動産登記制度を担う多くの関係者が,旧態依然たる執務様式を好み,一部の司法書士は幾代モデルの安易な共同申請構造に依拠しつつ嘱託の誘致と責任回避に腐心して,登記の真正,制度への信頼,国民の取引の安全などには無関心であるかのようである
幾代モデル=登記官の面前での共同申請構造が真正を担保する
詳しくはこちら|登記制度の真正担保モデル・司法書士の使命と平成16年不動産登記法改正による影響
※藤縄雅啓稿『副本・保証書から登記原因証明情報・本人確認情報へ』/『月報司法書士561号』日本司法書士会連合会2018年11月p22,23
い 新たな登記制度の趣旨の広報の必要性
改正直後に一部の者の間にいわゆる中間省略登記に関する騒動があったこと(略)
などの現状を見ると,登記の正確性の向上という観点からは,その制度の趣旨をさらに浸透させるための努力を要すると思われる。
※小宮山秀史稿『月報司法書士2013年2月』日本司法書士会連合会p9
なお,司法書士の社会的な使命や役割については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|登記制度の真正担保モデル・司法書士の使命と平成16年不動産登記法改正による影響
7 信託受益権化した売買によるコスト削減(参考)
もともと中間省略登記(や代替的手法)は,登記手続の手間を簡略化して,コストを削減するという発想が元になっています。
登記に関するコスト削減の方法としては,他の方法もあります。不動産を信託受益権に変えて,信託受益権を売買するというものです。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産を信託受益権化した売買によるコスト削減
8 中間省略登記代替的手法による税金削減効果(概要)
中間省略登記代替的手法であれば,普通の2回の売買よりもコストを大幅に削減できます。コストの中でも大きな税金の削減(節税)効果について,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|中間省略登記代替的手法による税金(コスト)削減効果
本記事では,中間省略登記代替的手法の内容や公的見解と,これに関する誤解について説明しました。
実際には取引の具体的な内容によって,行うべき登記申請の内容は違ってきます。
実際に不動産の登記申請に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。