【占有改定による引渡(占有移転)の基本】
1 占有改定による引渡(占有移転)の基本
2 占有改定の条文(民法183条)
3 占有改定の意味と具体例
4 占有改定と『引渡』との関係(特殊性)
5 占有改定の規定の本質と『占有(権)』の多義性
1 占有改定による引渡(占有移転)の基本
民法上,占有権の取得の種類の1つとして,占有改定が規定されています。
要するに占有移転,つまり引渡の方法の1つといえます。しかし,一般的な占有移転(引渡)とは異なる特殊な性質があります。実務ではいろいろな場面で法的扱い(解釈)がはっきりしないために見解が対立する要因となります。
本記事では,占有改定の基本的事項を説明します。
2 占有改定の条文(民法183条)
まず,占有改定を規定する民法183条の条文を押さえておきます。『占有権の取得』と記載してあります。『引渡』や『占有移転』という表記ではないのです。解釈の中で重要になってきます(後述)。
<占有改定の条文(民法183条)>
(占有改定)
第百八十三条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
※民法183条
3 占有改定の意味と具体例
占有改定の実質的な意義は,意思表示だけで占有が移転することを認めることです。
つまり,一般的な語法としての『引渡』にはあたらないことについて,積極的に引渡と同じ扱いを認めるということです。ただし,一般的な語法としての『引渡』とまったく同じように扱う,というわけではありません(後述)。
<占有改定の意味と具体例>
あ 条文の意味
民法183条は,占有改定の意思表示による占有の移転(引渡)を承認する規定である
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p36
い 占有の変動
占有改定とは,自己の占有物につき,他人の自主・間接占有を承認し,自己占有を他主・直接占有に改めることをいう
う 占有改定の具体例(※1)
売買において,売主が売買の目的物を買主に引き渡さず,賃借人,使用借主,受寄者などとして引き続き所持する
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p37
4 占有改定と『引渡』との関係(特殊性)
民法183条は,意思表示を引渡と同じように扱うというものです(前述)。ただし,引渡とみなすわけではありません。つまり一般的な語法としての『引渡』と占有改定とで異なる法的扱いもあるのです。
<占有改定と『引渡』との関係(特殊性)>
あ 『引渡』としての特殊性
占有改定による引渡は,観念的な引渡にすぎない(※2)
一般的な『引渡』(占有の移転)による効力とは異なる扱いもある
い 特殊性が現れる問題(概要)
動産物権変動の対抗要件としての『引渡』の扱い
即時取得の適用の有無
詳しくはこちら|占有改定の特殊性(対抗要件としての引渡・即時取得との関係)
う 一般的用語としての『引渡』との違い
占有改定の状況について
『(売買の目的物を)引き渡していない』と表現するのが一般的である(前記※1)
5 占有改定の規定の本質と『占有(権)』の多義性
占有改定は誤解が生じやすい概念です。典型的な誤解は,一般的な『占有移転』,『引渡』と完全に同じものであると考えてしまうというものです。
占有改定の規定の本質的な趣旨を理解すると,このような誤解を避けられます。
占有改定の規定(民法183条)は,占有訴権の要件としての『占有権の取得』の類型の1つを定めているのです。
この点,『占有』という概念自体が,複数の意味を持つものです。例えば占有訴権の要件としての『占有』と,取得時効の要件としての『占有』には違いがあります。
<占有改定の規定の本質と『占有(権)』の多義性>
あ 民法183条の本質
民法183条は占有改定による占有権の取得を明文で認めている
本質的な趣旨は,占有権を取得した者に占有訴権(民法197条〜)を認めることにある
制限なく『占有移転(引渡)』とみなす(同じ法的効果を与える)わけではない
適用する規定によって『占有(権)・引渡』の意味(解釈)は異なる
い 『占有』の多義性の具体例(概要)
占有訴権の要件としての『占有(権)』と取得時効の要件としての『占有』は判断基準が異なる
詳しくはこちら|『占有』概念の基本(判断基準や対象物のバラエティ)
本記事では,占有改定の基本的事項を説明しました。
実際には,占有の問題は他の規定との組み合わさって,適用関係が複雑になりがちです。
実際に占有に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。