【売買の瑕疵担保責任の期間制限についての宅建業法の規定(『引渡し』の意味)】
1 売買の瑕疵担保責任の期間制限についての宅建業法の規定
2 瑕疵担保責任の期間に関する民法の規定(前提)
3 瑕疵担保責任の期間に関する宅建業法の規定
4 『目的物の引渡しの日』の解釈
1 売買の瑕疵担保責任の期間制限についての宅建業法の規定
売買や請負契約において瑕疵があった場合には,瑕疵担保責任が発生することがあります。瑕疵担保責任には比較的短い期間制限があります。
詳しくはこちら|瑕疵担保責任の期間制限の規定と特約の制限(まとめ)
瑕疵担保責任のうち,売買に関するものについては,宅建業法に期間制限に関する規定があります。
本記事では,売買の瑕疵担保責任の期間制限についての宅建業法の規定を説明します。
2 瑕疵担保責任の期間に関する民法の規定(前提)
宅建業法の瑕疵担保責任の期間についての規定は,その前提である民法の規定の内容を修正するものです。そこで,最初に,民法上の瑕疵担保責任の期間制限の規定を押さえておきます。
民法570条で566条を準用しています。
結局,買主が瑕疵があることを知った時から1年以内(に賠償請求をする)という期間制限が設定されているのです。
そして,この規定は任意規定です。特約で違う期間制限を設定(合意)することができます。
<瑕疵担保責任の期間に関する民法の規定(前提)>
あ 準用する規定
第五百七十条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
※民法570条
い 準用される規定
第五百六十六条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
※民法566条
3 瑕疵担保責任の期間に関する宅建業法の規定
民法の規定では,瑕疵担保責任の期間制限に関する特約(合意)は自由にできることになっています(前記)。
しかし,不動産(正確には宅地と建物)の売買契約で,売主が宅建業者である場合には,民法の規定が修正されます。特約で瑕疵担保責任の追及ができる期間を短縮する限界は『引渡から2年』となります。
『引渡から1年』という特約は最短期間を下回るので無効となります。『引渡から3年』という特約は最短期間を上回るので有効です。
実際に特約(売買契約書の条項)の中で,瑕疵担保責任の期間を『引渡から2年』に制限しているものがとても多いです。
<瑕疵担保責任の期間に関する宅建業法の規定>
第四十条 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物の瑕疵かしを担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百七十条において準用する同法第五百六十六条第三項に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2 前項の規定に反する特約は、無効とする。
※宅建業法40条
4 『目的物の引渡しの日』の解釈
実務では,不動産の売買契約で,瑕疵担保責任の期間が,引渡から2年に制限されていることが多いです(前記)。
実際には,引渡とはいつの時点を指すかがはっきりせず,見解が対立するケースもよくあります。
趣旨としては,責任追及の起算点,つまり,買主が瑕疵を発見できる(賠償請求できる)ことになる時点というものです。
そこで,一般的に,建物の鍵を渡すというように,現実に引き渡した時点であると解釈されています。
<『目的物の引渡しの日』の解釈>
あ 占有の多義性(前提)
『占有』は,規定(制度)によって意味(判断基準)が異なる
詳しくはこちら|『占有』概念の基本(判断基準や対象物のバラエティ)
占有の移転としての『引渡』の意味も規定によって異なる
い 宅建業法の『引渡し』の解釈
『目的物の引渡しの日』とは
買主が売主(業者)に対して瑕疵担保責任を行使できる期間の起算点となることから,
売主が買主に対して鍵を渡すなどして目的物(宅地建物)を現実に引渡し,瑕疵の存在を知り得る状態に置いたことが必要である
※岡本正治ほか著『逐条解説 宅地建物取引業法 改訂版』大成出版社2012年p592,593
本記事では,不動産の売買の瑕疵担保責任の期間制限に関する宅建業法の規定について説明しました。
実際には,瑕疵に関する責任には複数の種類がありますし,期間制限に関する規定や解釈にはいろいろなものがあります。主張や立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に売買契約における瑕疵(欠陥)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。