【換価分割判決による形式的競売の申立の権利濫用】
1 換価分割判決による形式的競売の申立の権利濫用
2 形式的競売申立の権利濫用の発想
3 訴訟と競売申立の2つの権利濫用の関係(失権効)
4 オーバーローンと権利濫用・訴えの利益(参考・概要)
1 換価分割判決による形式的競売の申立の権利濫用
共有物分割訴訟が,権利の濫用や信義則違反として請求棄却となることがあります。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における権利濫用・信義則違反・訴えの利益なし(基本・理論)
これとは別に,換価分割の判決の後の形式的競売の申立が権利の濫用となる可能性を指摘する見解があります。本記事ではこのことについて説明します。
2 形式的競売申立の権利濫用の発想
共有物分割訴訟の分割類型のうち換価分割(=金銭代価分割方式)については,判決確定後に,次のステップとして,形式的競売の申立があります。この第2ステップの競売申立が権利の濫用となる,という発想があります。
<形式的競売申立の権利濫用の発想>
あ 発想
なお,共有物分割の申立自体の権利濫用の成否の問題と,共有物分割訴訟における代価分割方式の実現のための競売申立自体の権利濫用の成否の間題とは,理論的には分けることの必要性のある場合もあるかも知れない。
したがって,共有物分割訴訟の判決において,現物分割が認められず,金銭代価分割方式によることが命ぜられても(仮に,当該共有物分割訴訟において,金銭代価分割方式による分割申立が権利濫用であるとの主張が排斥されても),なお,理論的には,事実関係において権利濫用と考えられる事情があるときには,競売申立自体については,独自に権利濫用を防御方法として主張することも許される場合もないではないであろう。
い 実際の判断の傾向
もっとも,実際上,特に新たな重要な事実関係の主張・立証がなされないと,右主張は排斥されることが多いであろうか。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p13
3 訴訟と競売申立の2つの権利濫用の関係(失権効)
形式的競売の権利濫用があり得るとすると,第1ステップである共有物分割訴訟の権利濫用と重複することになります。実質的に重複する主張は失権効によって禁止されるという指摘があります。
<訴訟と競売申立の2つの権利濫用の関係(失権効)>
あ 無剰余見込みの申立の排斥
この種の考えられる多くの事例は,いわゆる競売手続段階での無剰余による申立の排斥であるが,例えば,代価分割方式による共有物分割の申立の権利濫用性を主張することができるかどうかが問題点として,検討することができようか。
い 2つの権利濫用の重複の問題点
もちろん,この種の申立というか防御方法は,主に,共有物分割訴訟自体において争われるべきことであろうが,その後の段階,すなわち,競売申立段階においても,この種の主張をすることができるかどうかが一つの問題であろう。
う 失権効の適用
共有物分割訴訟自体において,この種の防御方法が主張され,争われた場合はどうかとなると,先行する判決手続の段階で同一当事者間で争われている以上,特段の事情の主張・立証がない限り,訴訟における判決による判断の確定と訴訟当事者の信義則の重視からみても,この種の防御方法の申出は許されず,不適法の主張として,排にされるべきであると説明すべきであろうか。
次に,共有物分割訴訟自体において,この種の防御方法が主張されず,争われなかった場合には,どう解すべきか。
恐らくは,競売申立段階での争点として,適法に,新たに提出することはできよう。
少なくとも,共有物分割訴訟上の信義則を強調してみても,従前になんら争われていなかったことだから,訴訟上の信義則がこのことに及ぶ合理性は乏しく,また,本来,一般的には,前共有物分割訴訟の裁判所の判断を重視すべきものとしても,この想定事例では,裁判所による直接の判断はなされていなかったのだから,裁判所の判断を重視すべき旨の前提を欠くし,またいわゆる失権効が及ぶべき実質的根拠もなさそうである。
したがって,競売申立自体の当否という基本的なことだから前述したようなことから,詐容されるというべきであろう。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p14
4 オーバーローンと権利濫用・訴えの利益(参考・概要)
オーバーローンの不動産について形式的競売の申立をすると,例外もありますが,原則として無剰余取消となります。ここでオーバーローンであることを理由に,無剰余取消ではなく権利の濫用を適用する,というのは特別法よりも一般法を優先していることになり,ふさわしくありません。
次に,その前のステップの共有物分割訴訟について,オーバーローンの不動産を対象としていて,かつ,換価分割となる見込みである場合には,訴えの利益がないため訴え却下とする,という発想も出てきます。しかし,これについては否定される傾向があります。
詳しくはこちら|オーバーローン不動産の換価分割の現実的意義
本記事では,(換価分割判決による)形式的競売の申立が権利の濫用となるという発想について説明しました。
実際には,個別的事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。