【複合的な事情により現物分割の可否を判断した裁判例の集約】

1 複合的な事情により現物分割の可否を判断した裁判例の集約

共有物分割訴訟で裁判所が現物分割を選択するには一定の要件があります。正確には、(現物分割が)「不可能」や「著しい価格減少のおそれ」(消極的要件)にあたる場合には現物分割を選択できない、ということになっています。
詳しくはこちら|現物分割の要件(消極的要件の基本的解釈・著しい価格減少の減少率基準)
実際にはこれらの消極的要件にあたるかどうかについて熾烈に対立することがよくあります。本記事では、多くの事情を元にして、現物分割の可否を判断したいろいろな実例(裁判例)を紹介します。

2 狭小土地+共有建物→現物分割を否定した裁判例

最初に、現物分割をすると土地が狭小になることと、建物が1個であるため現物分割できないという判断を示した裁判例です。

狭小土地+共有建物→現物分割を否定した裁判例

あ 権利関係

本件土地、建物につき、原告らおよび被告らが各4分の1の持分権を有する
土地・建物について共有物分割請求がなされた

い 建物の現物分割

本件建物を現物をもって分割することは法律上不能である

う 土地の現物分割

本件土地は、法律上分割することは不能ではないが、これを4分割するときは、原告らおよび被告らの取得する部分はそれぞれ6坪余りの狭小なものとなる
しかも地上にある本件建物の分割が法律上不能なのであるから、本件土地の分割は著しく価格を損する以外の何物でもなく、したがって本件土地の現物分割は不相当である
→現物分割を否定した(=換価分割とした)
※東京地判昭和44年9月16日

3 19〜35%価格減少+共有建物→現物分割を否定・肯定した裁判例

現物分割をすると土地の価格が19〜35%程度減少するということについて、原審と控訴審で現物分割の可否の判断が分かれたケースです。

19〜35%価格減少+共有建物→現物分割を否定・肯定した裁判例

あ 事案

X、Yが共有する土地について、共有物分割請求がなされた
当該土地上にはX、Yが共有する建物が存在する

い 原審=現物分割否定

現物分割をすると81%〜65%に土地の価値が下がる、また、対象土地上の建物と土地の権利者が違う状態になる
→現物分割を否定した
※横浜地判昭和57年4月21日

う 控訴審=現物分割肯定

分割対象の土地を一団として処分した場合の価格とこれを現物分割してそれぞれを処分した場合の価格の合計とを比較すると、前者の方が高価であろうことは容易に予想されるが、それは土地の分割処分には通常伴なうところであって、その故に現物分割が価格を損なうとか現物分割の方法によるのが相当ではないとすることはできない
分割対象の土地の地上にはX及びYの共有の建物があって、右地を現物分割しても直ちにそれぞれがこれを更地として利用することができる状況にはないけれども、やがては右建物を取り壊して中高層建物に建て替えるなどのことが予想されるものであるうえ、その敷地である分割対象の土地を現物分割しても、それによって当分の間のその利用関係や権利関係が現状以上に複雑になる訳のものでもないのであるから、右のような事情も右土地の現物分割を妨げるものではなく・・・
→原審を取り消して現物分割を採用した
※東京高判昭和59年8月30日

4 約11%価格減少+共有建物老朽化→現物分割を肯定した裁判例

現物分割による土地の価格減少率が約11%であったことと、建物が老朽化していたことにより、現物分割を認めた裁判例です。

約11%価格減少+共有建物老朽化→現物分割を肯定した裁判例

あ 事案

3筆の土地、当該土地上の3個の建物について共有物分割請求がなされた

い 建物の老朽化

本件各建物は建築後21年ないし32年を経過した老朽建物であり、使用資材の品等、施工とも劣り、当面の使用価値は認められるものの、市場交換価値は全くないものと認められる

う 土地の現物分割

本件各土地を2個に分割しても十分に建物を建築して利用しうる面積及び形状にある
本件各土地を2分してそれぞれ独立した所有権とした場合、本件建物の一部を取り壊すことになる可能性も否定できないが、本件各建物は市場交換価値は全くないものと認められるから、関係者に対し土地の利用上特段の不利益を与えることはない

え 価格減少率

(当事者提出の査定報告書によると)
全体を一括して売却した場合には約1億1007万円の価格であるのに対し、分割して売却した場合の価格の合計は9750万円から9792万円程度に低下する(旨の記載がある)
その低下の割合はせいぜい10パーセント強程度に過ぎない(11.0〜11.4%)
現物分割によって本件各土地の価格が著しく損するとまでは到底認められない

お 結論

裁判所は現物分割を採用した
(3個の建物については、それぞれの建物をいずれかの者の単独所有とした)
※東京地判平成9月1月30日

本記事では、現物分割の可否を判断した裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、共有不動産や共有物分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【現物分割の不合理性を全面的価格賠償の相当性の1事情とした裁判例の集約】
【「土地だけ」の現物分割の可否の判断(類型別)】

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