【全面的価格賠償の相当性が認められる典型的な事情】

1 全面的価格賠償の相当性が認められる典型的な事情

共有物分割訴訟で全面的価格賠償が採用されるには、相当性が認められる必要があります。
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)
実際の案件では、ある共有者が当該不動産の全体を取得することの相当性があるかないかについて熾烈な対立が生じることが多いです。
本記事では、全面的価格賠償の相当性が認められるのはどのような事情がある場合なのか、ということを説明します。

2 全面的価格賠償の「相当性」の考慮要素(概要)

相当性とは要するに、ある共有者に共有不動産全体を取得させることが妥当である、というような意味です。これだけだと判断の枠組みとして曖昧です。この点、全面的価格賠償を認めた平成8年判例が、全面的価格賠償の相当性の内容として5項目を示しています。

<全面的価格賠償の「相当性」の考慮要素(概要)>

『ア〜オ』の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であるかどうかを判断する
ア 当該共有物の性質及び形状イ 共有関係の発生原因ウ 共有者の数及び持分の割合エ 共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値オ 分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無 ※最高裁平成8年10月31日・1380号
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)

3 「相当性」を認める方向に働く典型的事情(まとめ)

前記の、「相当性」の内容の5項目だけで、具体的な事案で「相当性」が認められるかどうかをはっきり判定できるわけではありません。
実際には、「相当性」が認められる事情として典型的なものがいくつかあります。最初に、「相当性」が認められる事情のうち典型的なものをまとめます。

<「相当性」を認める方向に働く典型的事情(まとめ)>

従前より居住や営業で使用している共有者が全体の取得を希望している
相続(遺産分割・遺留分減殺請求)によって共有となった
共有持分割合が大きい共有者が全体の取得を希望している
全体の取得を希望する共有者以外の共有者が換価分割を希望している
現物分割が不可能または不合理である
土地の境界に未確定の部分がある
全面的価格賠償を選択した結果、土地と建物の所有者が一致する
他の分割類型を選択した場合に、建物の収去が必要になる

以下、「相当性」が認められる事情を、類型ごとに分けて説明します。

4 利用状況と全面的価格賠償の相当性の関係

共有不動産の利用状況は、全面的価格賠償の相当性の判断で特に重視されます。具体的には、以前から共有不動産に居住していた、あるいは共有不動産で事業を行っていた共有者が取得して、居住や事業を継続できる方向に強く働くということです。

利用状況と全面的価格賠償の相当性の関係

あ 全面的価格賠償の相当性の分類

共有物の利用状況(エ)に該当する

い 利用状況の相当性判断への影響の程度(概要)

利用状況相当性の判断において特に重視される
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)

う 判例

ア 共有者自身による使用 共有者Aが当該共有不動産で居住または事業の遂行をしている
→(Aが取得する)全面的価格賠償の相当性肯定方向
※最判平成8年10月31日・1380号
詳しくはこちら|最判平成8年10月31日1380号(全面的価格賠償創設)の事案内容
※広島高判平成15年6月4日
詳しくはこちら|共有持分の担保権を全面的価格賠償の賠償金に反映しなかった裁判例(平成15年広島高判)
イ 共有者による建物敷地としての使用(概要) AB共有の土地の分割において、当該土地上にA所有の建物がある場合、Aが取得する全面的価格賠償の相当性が認められやすい(後記※3
ウ 隣接地の所有(借地権) AB共有の土地の分割において、Aが隣接地の借地権とその土地上の建物を有することにより、Aが取得する全面的価格賠償の相当性を認めた
※東京地判平成30年2月14日

このように、利用状況を重視する(相当性を認める理由とする)ことについては、批判もあります。このことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の相当性判断における利用状況重視への批判

5 相続による共有関係発生と全面的価格賠償の相当性の関係

相続では、遺産分割で最終的な承継者を決めますが、遺産分割では、相続人のうち1人が特定の相続財産を承継する(個別分割)ということが原則となっています。
詳しくはこちら|遺産分割の分割方法の基本(分割類型と優先順序)
そこで、相続によって共有関係が発生した、というケースで、共有者(元相続人)の1人が当該財産を取得することは、遺産分割の原則的方法と同じことといえます。そこで、この場合は、全面的価格賠償の相当性が認められやすいです。

相続による共有関係発生と全面的価格賠償の相当性の関係

あ 全面的価格賠償の相当性の分類

共有関係の発生原因(イ)に該当する

い 裁判例・学説(概要)

ア 遺留分減殺による共有関係の発生 遺留分減殺請求権の行使により共有関係(物権共有)が発生した
この場合、価額弁償の抗弁により遺留分侵害をした相続人Aの単独所有となることもありえた
これは、共有者Aが取得する全面的価格賠償と同じ状態である
→(Aが取得する)全面的価格賠償の相当性肯定方向
詳しくはこちら|遺留分減殺請求・価額弁償と全面的価格賠償(共有物分割)の関係
イ 遺産分割による共有関係の発生(遺産流れ) 遺産分割の結果(相続によって)(物権)共有が発生した
全面的価格賠償の相当性肯定方向
詳しくはこちら|遺産流れと全面的価格賠償の相当性(最判平成10年2月27日)
ウ 遺産流れと権利の濫用(参考) 遺産流れの後の共有物分割請求自体が権利の濫用となることもある
例=共有者(相続人)の居住が維持できないケース
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における権利濫用・信義則違反・訴えの利益なし(基本・理論)

6 共有持分割合と全面的価格賠償の相当性の関係

共有持分割合が大きい共有者が共有物全体を取得する場合は、逆に、共有持分を失う共有者の持分割合は小さいので、ダメージは小さいといえます。そこでこのような全面的価格賠償の相当性は認められやすいです。

共有持分割合と全面的価格賠償の相当性の関係

あ 全面的価格賠償の相当性の分類

持分の割合(ウ)に該当する

い 判例

持分割合が大きい共有者が取得する
全面的価格賠償の相当性肯定方向
※最判平成8年10月31日・1962号
※最判平成8年10月31日・677号
※山口地判昭和45年7月13日
詳しくはこちら|持分割合の極端な差と全面的価格賠償の相当性(昭和45年山口地判)

う 学説

(最判平成8年10月31日・1962号について)
このように共有者間の持分比率に極端な差がある事案は、特定の共有者の利用を保護する必要のある事案と並んで、全面的価格賠償の方法による共有物分割に親しむ類型の一つといえるであろう。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p870

7 共有持分割合が小さい共有者による取得

前述のように、共有持分割合が大きいことは、相当性を認める方向に働く事情といえます。だからといって、全体を取得するには50%以上の持分を持っていないといけない、というわけはありません。50%未満の共有者が50%を超える割合を取得することが認められる実例もあります。実際の傾向としては、長期間当該不動産を使用(居住)していた者であれば、持分割合が小さくても相当性が認められるということが多いです。

共有持分割合が小さい共有者による取得

あ 3分の1→肯定の実例

ア 要点 取得希望者の持分割合が3分の1であったケースについて、相当性を認めた上、支払能力の審理を尽くさせるため、原審に差し戻した
※最判平成8年10月31日1380号
詳しくはこちら|最判平成8年10月31日1380号(全面的価格賠償創設)の事案内容
イ 奈良氏指摘 本件での問題点は、現物分割不能等の理由から、三分の一という少数持分権者に、多数持分権者の三分の二の持分権が取得されるということの可能性が大きいということは、若干早くから、関係者に分かっていたことのようである。
いわば小の虫が大の虫を吸い取るということであり、通常であれば形式的な法的論理では、恐らく従来では考えられなかった結論で、本件不動産等の現実の利用関係を非常に重視した結論である。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟と全面的価格賠償について』/『判例タイムズ953号』1997年12月p54

い 10分の3→肯定の実例

取得希望者の持分割合が10分の3であっても、全面的価格賠償の選択を妨げることにならない
※非公開裁判例(当事務所扱い事例)

う 10分の1→否定的見解

一般論として、10分の1の共有者が取得する全面的価格賠償は問題である
※並木茂稿『土地およびその上の建物双方の共有者の一人の土地の持分のみが強制競売の売却により第三者の取得に帰した場合における法定地上権の成否(消極)』/『金融法務事情1337号』1992年11月p17
詳しくはこちら|建物収去を回避するための土地の全面的価格賠償の選択

8 共有土地上の建物の所有者と全面的価格賠償の相当性

共有の土地の共有者Aが、その土地上にある建物を所有している場合、土地(の全体)をAが取得すれば、結果的に、土地と建物の所有者が同一となります。その後の建物の維持が万全となります。
このような状況では、全面的価格賠償の相当性が認められやすいです。
特殊な事情が重なった場合には例外的に、土地と建物の所有者が別となる(建物については収去を前提とする)結果を生じる全面的価格賠償の相当性が認められることもあります。

共有土地上の建物の所有者と全面的価格賠償の相当性(※3)

あ 全面的価格賠償の相当性の分類

共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値(エ)に該当する

い 裁判例

ア 平成26年東京地判 (共有の土地の共有物分割において)
原告は、I土地の単独所有を望んでおり、I土地上に原告所有建物が存在することから、I土地を原告の単独所有とすることは相当であると認められる。
※東京地判平成26年10月6日
イ 令和3年非公開裁判例 当該共有土地上に、共有者Aが所有する建物が建っている、Aは建物を賃貸している(建物の賃借人が居住している)
→(Aが取得する)全面的価格賠償には合理性がある
※非公開裁判例(当事務所扱い事例)
ウ 平成31年東京地判(例外) (準共有の借地権の共有物分割において)
当該共有土地(X・Y1・Y2の共有)上に、Y1・Y2が所有する建物が建っている
建物にはX・Y1・Y2が居住している+第三者に賃貸している
建物が老朽化している
Xだけが取得を希望している
Xが取得する全面的価格賠償には相当性がある(最終的にこの分割方法を選択した)
(XからY1・Y2に対する建物収去土地明渡請求も認容した)
※東京地判平成31年3月20日

う 分割結果の状態

全面的価格賠償を選択した結果、土地と建物の所有者が同一となっている

9 共有建物の敷地の利用権と全面的価格賠償の相当性

借地上に共有の建物があるケースもよくあります。この場合、共有建物と準共有の借地権が共有物分割の対象ということになります。ここで、借地契約が終了して土地利用権が消滅したとしたら、建物は収去せざるを得ない、つまり活用しようがないことになります。そこで、建物共有者のうち、土地所有者以外の者が建物と借地権の全体を取得する、という全面的価格賠償の相当性は否定される方向となります。
全面的価格賠償を選択した結果として、土地と建物の所有者が別人になるという結果に着目すると、前述の類型の逆になっています。

共有建物の敷地の利用権と全面的価格賠償の相当性

あ 全面的価格賠償の相当性の分類

次のいずれかに該当する
・当該共有物の性質(ア)
・分割された場合の経済的価値(エ)

い 学説

(建物+借地権の共有物分割において)借地契約終了の可能性がある
→建物共有者のうち、土地所有者以外の者が取得する全面的価格賠償の相当性否定方向
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p875(最判平成9年4月25日の評釈)
詳しくはこちら|最判平成9年4月25日(全面的価格賠償の判断のための差戻)の内容

う 分割結果の状態

全面的価格賠償を選択した結果、土地と建物の所有者が別の者になっている

10 共有者の希望と全面的価格賠償の相当性の関係

前記の「相当性」の内容の項目のうち最後のものは、「分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無」です。
この点、裁判所が分割方法を決める際には、「分割方法についての共有者の希望」を重視することになっています。
たとえば、共有者Bが換価分割を希望している場合、Bは共有不動産自体を欲しいわけではなく、金銭を取得することを希望していることになります。そこで、共有者Aが取得する全面的価格賠償で、Bの希望する結果は実現します。このような全面的価格賠償の相当性が認められやすくなります。
共有者Bが現物分割を希望していて、共有者Aは自身が全体を取得する(全面的価格賠償)を希望している場合はどうでしょう。共有不動産自体(の一部)をAとBの両方が欲しがっていることになります。この場合、現物分割ができるかどうか、ということが「相当性」の判断の1材料となります。

共有者の希望と全面的価格賠償の相当性の関係

あ 全面的価格賠償の相当性の分類

分割方法についての共有者の希望(オ)に該当する

い 共有者の「希望」の法的な位置づけ(前提・概要)

(一般的に)共有者の分割方法の「希望」は裁判所を拘束しない
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における当事者の希望の位置づけ(希望なしの分割方法の選択の可否)

う 現物取得者の希望(概要)

現物取得者が、賠償金を支払って現物を取得することを希望していることは必要的要件である
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における当事者の希望の位置づけ(希望なしの分割方法の選択の可否)

え 他の共有者(対価取得者)の希望

ア 換価分割の希望 他の共有者Aが換価分割を希望している→Aは金銭を得ることを希望している→A以外の共有者が取得する全面的価格賠償でも同じ結果となる
全面的価格賠償の相当性肯定方向
※最判平成8年10月31日・1380号
詳しくはこちら|最判平成8年10月31日1380号(全面的価格賠償創設)の事案内容
※広島高判平成15年6月4日
詳しくはこちら|共有持分の担保権を全面的価格賠償の賠償金に反映しなかった裁判例(平成15年広島高判)
※非公開裁判例(当事務所扱い事例)
イ 現物分割の希望(概要) 他の共有者が現物分割を希望している場合
現物分割の相当性(可否)が、全面的価格賠償の相当性に影響する(後記※1

11 共有者の図面提出拒否と全面的価格賠償の相当性(概要)

共有物分割訴訟における共有者の対応が、全面的価格賠償の相当性を否定することにつながった事例があります(東京地判平成20年5月27日)。原告が区分所有建物にすることを伴う現物分割を希望していたのですが、その図面を持つ被告が提出を拒否し続けました。そこで、やむを得ず原告はその希望を撤回し、換価分割に変更しました。一方被告は全面的価格賠償を希望していました。裁判所は、被告が図面提出を拒否したことを、全面的価格賠償の相当性を否定する1つの事情として指摘しました。この裁判例については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|区分所有とすることを伴う現物分割

12 現物分割の不合理性と全面的価格賠償の相当性の関係

前述のように、共有者の間で、現物分割の希望全面的価格賠償の希望が対立することがあります。
ここで、現物分割が不可能である場合や、可能ではあってもいろいろな支障、問題が生じてしまうような場合は、消去法的に、全面的価格賠償の方が選択されやすくなります。つまり全面的価格賠償の「相当性」が認められる方向に働くということです。

現物分割の不合理性と全面的価格賠償の相当性の関係(※1)

あ 分割類型の優先順序との関係(概要)

全面的価格賠償を選択するには現物分割が不可能までは要求されない
しかし、現物分割が不合理であることを要求する傾向がある
詳しくはこちら|全面的価格賠償と現物分割の優先順序(令和3年改正前)

い 全面的価格賠償の相当性の分類

次の項目に該当すると思われる
・当該共有物の性質及び形状(ア)
・(他の)分割方法についての合理性の有無(オ)
・分割された場合の経済的価値(エ)

う 裁判例・学説(概要)

ア 建物 共有物分割の対象が、区分所有にできない建物である→現物分割ができない
全面的価格賠償の相当性肯定方向
※最判平成8年10月31日・1380号
詳しくはこちら|最判平成8年10月31日1380号(全面的価格賠償創設)の事案内容
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p875
イ 土地面積狭小 現物分割を希望する共有者の持分割合に相当する面積が狭小→現物分割の否定
全面的価格賠償の相当性肯定方向
※最判平成8年10月31日・1962号(後記※2
ウ 接道の支障 現物分割とすると接道に支障が生じる→現物分割の合理性否定
全面的価格賠償の相当性肯定方向
※東京地判平成27年6月25日(後記※2
エ 境界確定の困難性 土地の境界確定が困難である→現物分割の合理性否定
全面的価格賠償の相当性肯定方向
※東京地判平成24年7月11日(後記※2
オ 地域の利益の毀損 現物分割をすると地域の医療に支障が生じる→現物分割の合理性は低い
(+他の共有者が換価分割を希望しているが、その合理性が低い)
全面的価格賠償の相当性肯定方向
※最判平成8年10月31日・677号(後記※2
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p873
カ 他の共有者の裁判期日欠席 被告は期日に欠席した→現物分割・換価分割の希望の合理性が低い
全面的価格賠償の相当性肯定方向
※山口地判昭和45年7月13日(被告は期日に欠席した)
詳しくはこちら|持分割合の極端な差と全面的価格賠償の相当性(昭和45年山口地判)

え 裁判例の集約(参考)(※2)

現物分割の不合理性を全面的価格賠償の相当性の判断で考慮した裁判例は別の記事で紹介、説明している
詳しくはこちら|現物分割の不合理性を全面的価格賠償の相当性の1事情とした裁判例の集約

13 土地境界未確定と全面的価格賠償の相当性

これは、典型的ではなく、少し特殊な事情ですが、共有の土地の境界が未確定であったという事情が「相当性」を認める方向に働くこともあります。具体的には、共有土地の取得を希望する共有者が実質的に支配する会社が隣地を所有しているようなケースです。当該共有者が共有土地を取得すれば、境界が不明確であっても支障が生じないで済みます。そこで、全面的価格賠償を認める方向に働くのです。

土地境界未確定と全面的価格賠償の相当性

あ 全面的価格賠償の相当性の分類

次のいずれかに該当する
・当該共有物の性質及び形状(ア)
・分割された場合の経済的価値(エ)

い 裁判例

(共有物分割の対象の土地について)隣地との境界未確定
→(隣地所有者と近い関係の共有者が取得する)全面的価格賠償の相当性肯定方向
※東京地判平成21年11月26日(結論は全面的価格賠償否定)
詳しくはこちら|境界未確定により全面的価格賠償を否定した裁判例(平成21年東京地判)

14 建物収去を避けるための全面的価格賠償(参考)

共有物分割では、分割類型の選択によっては、その結果、建物の収去をせざるを得ないことになるという状況が生まれます。そのような場合は、建物の収去という結論を避けるために、全面的価格賠償を選択する(要件を緩和する)という方向に働きます。建物収去が必要かどうかは、換価分割を採用した場合に、その後の形式的競売で法定地上権が成立するかどうかという解釈論と密接に関連します。この考え方については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物収去を回避するための土地の全面的価格賠償の選択

15 持分取得経緯と転売目的による相当性否定(参考)

以上は、相当性を認める方向に働く事情でしたが、逆に、相当性を否定した裁判例で、参考になるものがありますので紹介します。
この事案は、共有者が金銭を借りるつもりで、形式的には売買契約を使った(売却した)という特殊事情がありました。このような経緯から、「代金」として決められた金額(2000万円)は、単に共有者が必要としていた金額であり、共有持分の価値を示すものではなかったのです。
「貸した」側の立場では、共有物分割によって不動産の所有権を取得すれば、高い金額で売れるので、「貸した金銭」を回収できる、という構造です。つまり、自分自身で不動産を使う目的・予定はなく、所有権を取得した後に売却(転売)する予定であったのです。
裁判所は、相当性を否定して、消去法的に換価分割を選択しました。
なお、転売目的で共有持分を買ってから、共有物分割訴訟を申し立てて、その者が取得する全面的価格賠償が認められる実例は数多くあります。つまり、この裁判例が相当性(全面的価格賠償)を否定したのは、転売目的の方はおまけとして記載しただけで、譲渡担保の趣旨の売買だったという特殊性が主要な理由であった、と思います。

持分取得経緯と転売目的による相当性否定(参考)

あ 特殊事情=実質的な譲渡担保

・・・当事者が契約書等において一貫して売買という文言を用いている一方で、契約代金2200万円のうち手付金2000万円の占める割合が高いこと、被告Y2は手付金の倍額の支払を要することなく、手付金に200万円を付加して支払うことにより、残代金決済日の前日まで契約を解除することができるとされていること、被告Y2が、平成24年6月6日に残代金の支払及び本件持分移転登記手続がされるのと同時に、サンコーポレーションによる買取りを希望し、原告も本件第2契約の締結に応じていること、本件第2契約が解除された後も本件賃貸借契約を締結するなど、被告Y2が本件建物に継続して居住することに強くこだわっているものと窺えることからすると、実質的には、譲渡担保であった可能性があるといえる。

い 相当性判断→否定

・・・原告は、本件土地建物を原告が取得する全面的価額賠償の方法による分割を希望しており、他方、被告Y1は、必ずしも本件土地建物の取得を希望しているわけではないことが認められる。
しかし、前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は不動産会社として取引価値に着目して本件Y2持分を取得したものと見られ、本件土地建物を自らが使用することに強い利害関係を有するものとは認められない
また、被告Y2は当座の資金を調達する目的に迫られて本件第1契約を締結したことが窺われ、原告による代金額の査定も不動産鑑定士の鑑定等に基づいて行われたものではないから、本件第1契約で定められた代金額が適正な取引価格を反映したものであると直ちに断定することはできない
そうすると、本件土地建物を原告に取得させて全面的価額賠償をさせる方法による分割が相当であるといえる特段の事情を認めるには足りないというべきである。
したがって、現物分割になじまない本件土地建物については、競売の方法による分割が相当と認められる。
※東京地判平成27年3月5日

なお、共有持分を買い取った後に共有物分割を請求するケースでは、権利の濫用であるという主張がなされることがよくありますが、通常はそれだけで権利の濫用にあたることはありません。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における権利濫用・信義則違反・訴えの利益なし(基本・理論)

本記事では、全面的価格賠償の「相当性」が認められる事情の典型例を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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【全面的価格賠償に対する否定的な見解(要件の厳格な適用)】
【最判平成9年4月25日(全面的価格賠償の判断のための差戻)の内容】

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