【「建付地」の鑑定評価と「建付減価」の意味】
1 「建付地」の鑑定評価と「建付減価」の意味
2 「建付地」の定義
3 「建付地」のネーミングの由来
4 不動産鑑定評価基準上の「建付地の鑑定評価」の規定
5 建付地の鑑定評価の意味(敷地の鑑定評価との違い)
6 建付地と敷地の価格の関係(建付減価)
7 建付減価と更地信仰(参考)
8 建付増価(建付地増価)
9 建付地の鑑定評価における建付減価の方法
10 建付地以外の鑑定評価におけるいわゆる建付減価
11 「建付減価」のまとめ
12 解体費用を意味する建付減価の鑑定書の例
1 「建付地」の鑑定評価と「建付減価」の意味
不動産鑑定評価基準には「建付地」の鑑定評価の規定があり,その鑑定評価では「建付減価」が行われます。一方,不動産鑑定評価基準における「建付地」や建付減価とは別の意味でこれらの用語が使われることもあります。しっかり理解しておかないといろいろな場面での計算を誤ってしまうことにつながります。
本記事では,「建付地」の鑑定評価やいろいろな意味での「建付減価」について説明します。
2 「建付地」の定義
最初に「建付地」の定義を押さえておきます。
大雑把にいうと,自分の建物の敷地となっている土地,のことです。「自分の」というのは要するに土地と建物の所有者が同一であるという意味です。ここで,建物を所有者自身が使っていても,第三者に賃貸していても構いません。
ちなみに,建物が建っていない土地は更地です。また,第三者(借地人)に貸していて,借地人所有の建物が存在する土地は借地(貸地)です。これらは建付地と対照となる概念です。
<「建付地」の定義>
あ 不動産鑑定評価基準上の建付地の定義
建付地とは,建物等の用に供されている敷地で建物等及びその敷地が同一の所有者に属している宅地をいう。
※不動産鑑定評価基準「総論・第2章・第2節・Ⅰ」
い 地上建物の状況(補足)
「自用の建物及びその敷地」の敷地部分であると,「貸家及びその敷地」の敷地部分であるとを問わない
※黒沢泰著『逐条詳解 不動産鑑定評価基準 新版』プログレス2015年p411
う 不動産鑑定評価基準上の更地の定義(参考)
更地とは,建物等の定着物がなく,かつ,使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。
※不動産鑑定評価基準「総論・第2章・第2節・Ⅰ」
3 「建付地」のネーミングの由来
ところで「建付地」というネーミングは「建物付宅地」がもとになっているという説があります。このように単純に決められたネーミングであることが原因となって,いろいろな誤解(後述)が生まれることになったともいえるでしょう。
<「建付地」のネーミングの由来>
「建付地」という用語は「建物付宅地」という用語をもとに規定されたという話しもある
※黒沢泰著『逐条詳解 不動産鑑定評価基準 新版』プログレス2015年p412
4 不動産鑑定評価基準上の「建付地の鑑定評価」の規定
不動産鑑定評価基準には「建付地の鑑定評価」の規定があります。まずは規定そのものを紹介します。
<不動産鑑定評価基準上の「建付地の鑑定評価」の規定>
建付地は,建物等と結合して有機的にその効用を発揮しているため,建物等と密接な関連を持つものであり,したがって,建付地の鑑定評価は,建物等と一体として継続使用することが合理的である場合において,その敷地(建物等に係る敷地利用権原のほか,地役権等の使用収益を制約する権利が付着している場合にはその状態を所与とする。)について部分鑑定評価をするものである。
建付地の鑑定評価額は,更地の価格をもとに当該建付地の更地としての最有効使用との格差,更地化の難易の程度等敷地と建物等との関連性を考慮して求めた価格を標準とし,配分法に基づく比準価格及び土地残余法による収益価格を比較考量して決定するものとする。
ただし,建物及びその敷地としての価格(以下「複合不動産価格」という。)をもとに敷地に帰属する額を配分して求めた価格を標準として決定することもできる。
※不動産鑑定評価基準「各論・第1章・第1節・2」
5 建付地の鑑定評価の意味(敷地の鑑定評価との違い)
「建付地の鑑定評価」というと,建物が建っている土地(敷地)の評価額と思ってしまいますが,これだと不正確です。正しくは,建物が今後も建っている前提での,土地(敷地)の評価額ということになります。
不動産鑑定評価基準の規定の中の,建物と敷地を一体として使用することが合理的である,という部分がこのことを示しています。
現在建っている建物が,最有効活用である必要はないですが,解体した方が有効活用になるというものではない,という状況が前提となっているのです。
逆に,建物を解体した方が土地の有効活用になるという場合には「建付地」としての鑑定評価はできません。この場合の土地の評価を出すのは,「敷地」(土地)の鑑定評価ということになります。
<建付地の鑑定評価の意味(敷地の鑑定評価との違い)>
あ 「建付地」の鑑定評価の意味
建物等と敷地を一体として継続使用することが合理的である場合に,はじめて建付地としての鑑定評価を行う
具体的には,その敷地について部分鑑定評価をするものである
※黒沢泰著『逐条詳解 不動産鑑定評価基準 新版』プログレス2015年p412
※宮ケ原光正著『新・不動産鑑定評価概説 7訂版』税務経理協会2006年p196
い 「敷地」の鑑定評価
最有効使用の観点から建物等を取り壊すことが妥当と認められる場合は,これを建付地の鑑定評価と呼ばない
(建物と)敷地の鑑定評価ということになる(後記※1)
※黒沢泰著『逐条詳解 不動産鑑定評価基準 新版』プログレス2015年p412
※宮ケ原光正著『新・不動産鑑定評価概説 7訂版』税務経理協会2006年p196
6 建付地と敷地の価格の関係(建付減価)
「建付地」の鑑定評価の内容の説明に入ります。要するに建物が建っている状態で,その土地(敷地)部分の評価額を出す,ということになります。
現状,つまり存在する建物が,土地の最有効活用であるとすれば,建付地は更地と同じ評価額(価格)になります。
最有効活用ではない場合には,建物の存在により土地の活用が妨害されていることになりますので,更地よりは評価額が下がります。この減額部分のことを建付減価といいます。最有効活用をしていない典型例は,商業エリアなのに住居が建っているケースや,容積率をめいっぱい使っていない建物が建っているケースです。
<建付地と敷地の価格の関係(建付減価)>
あ 最有効活用の場合
建付地の価格は,その敷地が更地としての最有効使用の状態で利用されている場合には更地価格と一致する
い 最有効活用ではない場合
ア 建付地と更地の価格の関係
建物が最有効使用の状態にない場合には,敷地の価格は更地価格を下回る(建付減価が発生する)
イ 建付減価の要因の典型例
用途の不適合
容積率の未活用
※黒沢泰著『逐条詳解 不動産鑑定評価基準 新版』プログレス2015年p413
※宮ケ原光正著『新・不動産鑑定評価概説 7訂版』税務経理協会2006年p196
7 建付減価と更地信仰(参考)
たとえば,老朽化した建物は,ナマの土地(更地)の最有効活用を妨害している,といえるので価値が下がります(建付減価)。実際には,周辺の状況に合致する建物で,しかも新しい建物でないと,土地にとってマイナス効果(建付減価)になる,という傾向があります。
建付減価を嫌う考えは,更地を嗜好する考えにつながます。時期によっては更地を嗜好する傾向が非常に強くなり,判例にも影響を与えるほどになっています。更地信仰とよばれるものです。
詳しくはこちら|更地信仰が全体価値考慮説に及ぼした影響とその批判・反論
8 建付増価(建付地増価)
ところで建物が存在することにより,土地の価値が上がるということも,少ないですが生じることがあります。不動産鑑定評価基準における「最有効活用」よりも有効な活用ということになります。この時点で「最有効活用」という用語も誤解しやすいことになっています。
更地よりも建物が存在する状態の土地(建付地)の方が価値が上がっていることを,建付増価が生じている,といいます。
建付増価が生じる要因の典型例は,既存不適格により,合法的に,現行法の上限を超える容積率の建物が建っているというケースです。
更地信仰の信者も驚くような(合法的な)既得権を持った敷地といえます。
<建付増価(建付地増価)>
あ 建付増価の発生
建物が存在することにより,敷地の価格が更地の価格を上回ることもある
建物・敷地の経済的価値の増分のうち敷地に配分される部分を建付増価(建付地増価)という
い 建付増価の要因の典型例
ア 既存不適格建築物の存在
敷地上に既存不適格建築物(建築基準法3条2項)が存在するケース
典型例=現行法規における容積率の許容限度を超える建物
(参考)既存不適格建物については別の記事で説明している
詳しくはこちら|既存不適格建物の適用除外(建築基準法3条2項)
イ 良好な賃貸運用
最有効使用の状態にある賃貸用不動産が賃貸に供されているケース
※黒沢泰著『逐条詳解 不動産鑑定評価基準 新版』プログレス2015年p413
※宮ケ原光正著『新・不動産鑑定評価概説 7訂版』税務経理協会2006年p197
9 建付地の鑑定評価における建付減価の方法
建付地としての鑑定評価では,建物が存在することによる影響を計算の中で反映させることになります。前記の不動産鑑定評価基準の規定の言葉だと「建付地の更地としての最有効使用との格差」を反映させるということです。
具体的な計算方法としては,まず最初に建物と土地(敷地)の全体の価値を算出します。その上で,敷地の割合を掛ける方法か,建物の価値を控除する方法のどちらかを使います。
<建付地の鑑定評価における建付減価の方法>
(2)建付地について
複合不動産価格をもとに敷地に帰属する額を配分する方法には主として次の二つ
の方法があり,対象不動産の特性に応じて適切に適用しなければならない。
①割合法
割合法とは,複合不動産価格に占める敷地の構成割合を求めることができる場
合において,複合不動産価格に当該構成割合を乗じて求める方法である。
②控除法
控除法とは,複合不動産価格を前提とした建物等の価格を直接的に求めること
ができる場合において,複合不動産価格から建物等の価格を控除して求める方法である。
※国土交通省『不動産鑑定評価基準運用上の留意事項』「Ⅷ・1・(2)」
10 建付地以外の鑑定評価におけるいわゆる建付減価
以上は,「建付地」の鑑定評価の説明です。
ところで「建付減価」という用語は,「建付地」以外の評価の中でも登場します。不動産鑑定評価基準上の「建付減価」とは別の意味になりますが,実務では広く使われています。
典型例は,老朽化した建物が建っている土地(敷地)の評価の中で,建物の解体費用相当額を控除するというものです。これは「建付地」としての評価ではなく,「建物がない土地」を想定した評価です。ただ,あくまでも「建物が存在する土地」としての評価なので「敷地の評価」というのが正確です。
<建付地以外の鑑定評価におけるいわゆる建付減価(※1)>
あ 建付地以外の評価における「建付減価」
実務上,「建付地」の鑑定評価以外のケースで,「建付減価」という用語が使用されることがある
い いわゆる「建付減価」の典型例
ア 建物解体費用を意味する用法
最有効使用の観点から建物等を取り壊すことが妥当と認められる場合に,「敷地」の鑑定評価をする過程において
建物の撤去費相当額を更地価格から減額することを建付減価と呼ぶことがある
イ 環境的不適合による減価を意味する用法
自用の建物及びその敷地の鑑定評価で,土地建物一体の価格から環境面での不適合等による減価を行う場合,結果として敷地価格からも減価の一部が発生することとなる
これを建付減価と呼ぶことがある
※黒沢泰著『逐条詳解 不動産鑑定評価基準 新版』プログレス2015年p413
※門脇博『不動産鑑定評価要説 8訂版』p82〜85(同趣旨)
11 「建付減価」のまとめ
以上のように「建付減価」という用語(概念)は誤解しやすいところがあるので,最後にまとめておきます。
建物が建っている土地を評価することを前提として,それが最有効活用なのか,最有効活用ではないが継続使用が合理的なのか,建物を解体することが有用な状態か,という3つに分けて,それぞれ評価額の簡単な計算式としてまとめました。
<「建付減価」のまとめ>
あ 最有効活用の状態
最有効活用をしている場合
建付地の鑑定評価をすることができる
「建付地」評価額=更地評価額
い 継続使用の合理性あり
建物と敷地を継続使用することが合理的である場合
建付地の鑑定評価をすることができる
「建付地」評価額=建物と敷地全体の価値×敷地部分の割合(または)
「建付地」評価額=建物と敷地全体の価値−建物の価値
う 建物解体の妥当性あり
最有効活用の観点から建物を解体することが妥当である場合
建付地の鑑定評価をすることはできない
「敷地」評価額=更地評価額−(いわゆる)建付減価
この「建付減価」とは建物の解体費用である
12 解体費用を意味する建付減価の鑑定書の例
さらに,理解しやすいように,「建付地」ではなく「敷地」の評価における(いわゆる)「建付減価」が登場する鑑定評価書の具体例を紹介します。
項目名として「建付地」という用語がありますが,不動産鑑定評価基準上の「建付地」ではありません。また「建付減価」とは,建物の解体費用相当額の減価のことであることが明記されています。
<解体費用を意味する建付減価の鑑定書の例>
I.対象不動産の表示(略)
Ⅱ.一般的要因および地域要因の分析(略)
Ⅲ.個別的要因の分析
1.個別的要因(略)
2.個別分析
(1)最有効使用の判定
近隣地域の地域分析の結果を踏まえて,対象不動産の最有効使用を次のとおり判定した。
①用途:小売店舗,飲食店その他サービス業の店舗,事務所
②形態:3階建の建築物
(2)建付減価について
対象不動産は,土地及び建物一体としての利用が最有効使用の状態になく,土地について減価が発生しているものと判定する。
3.建付地としての減価額
対象地に存する建物は,経済的耐用年数は残っていないものと判断した。
さらに,住宅を改築して店舗に用途変更するには相当の費用がかかり,経済的に採算がとれないものと思われる。
建物取壊しについては,次の費用が必要になる。
10,000円/㎥×140.40㎡=1,404,000円
Ⅳ.鑑定評価額の決定
1.標準画地の更地価格(略)
2.対象不動産の価額
上記の単価に地積を乗じたものから,建物取壊しに要する費用を控除した額をもって,鑑定評価額を決定した。
300,000円/㎥×234.00m-1,404,000円=68,796,000円
鑑定評価額68,796,000円(単価:294,000円/㎡)
※吉野伸ほか著『不動産鑑定評価基本実例集』プログレス2009年p60,61
本記事では,「建付地」の鑑定評価と「建付減価」の意味について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,評価(計算)方法や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の評価を含む問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。