【弁済供託における供託通知書(届かない場合・供託の有無の確認)】

1 弁済供託における供託通知書(届かない場合・供託の有無の確認)

賃料に関するトラブルの場面では、弁済供託を利用することがよくあります。通常であれば、供託通知書供託された者(被供託者)に届きますが、届かない場合もあります。
本記事では、供託通知書に関する扱いや、届かない場合の対応方法を説明します。

2 供託通知に関する条文

最初に、供託通知(書)に関する条文の規定を押さえておきます。民法では、供託した者が相手に対して供託の通知をする(供託通知書を送付する)ことになっています。
一方、供託規則では、供託の通知書の送付供託官(法務局)に頼むこともできると規定されています。
つまり、供託者は、義務付けられている供託通知書の送付を自身で行うか、法務局に代行してもらう、という選択肢がある、ということです。

供託通知に関する条文

あ 民法495条3項

債務者が供託した場合には、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない
※民法495条3項

い 供託規則16条

供託者が被供託者・・・に供託の通知をしなければならない場合には、供託者は、供託官に対し、被供託者に供託通知書を発送することを請求することができる。この場合においては、その旨を供託書に記載しなければならない。
※供託規則16条

3 平成17年供託規則改正前の扱い(参考)

ところで、平成17年の供託規則の改正によって、前述のようなルールになりました。平成17年改正の前は、供託申請の全件について法務局が送達通知書の送付を行うというルールでした。
民法495条の、供託通知書を発送する義務の規定は平成17年前後で変更はありません。
つまり、平成17年改正以前は、全件について法務局が供託通知書送付を代行する(強制代行)であったところ、改正後は、供託者が代行を要求した時だけ法務局が供託通知書送付を代行する(任意代行)に変わった、ということです。

平成17年供託規則改正前の扱い(参考)

あ 供託通知書添付義務

もっとも、供託者は、供託書に所定の様式に従った供託通知書を被供託者の数に応じて添付しなければならない
※供託規則16条、供託事務取扱手続準則33条

い 供託通知の確保

供託所が供託通知書を発送することで供託通知手続が確保されている
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法5 債権総論Ⅱ 第3版』第一法規2019年p236

4 供託通知書の位置づけ

現在では、供託をした者が法務局に供託通知書の発送を請求せず、かつ、自分自身でも発送しないということが起きる仕組みになっています。
債権者の立場からすると、供託されたことを知らされない状態が起きるということです。
では、そのような場合には供託は無効なのか、というとそうではありません。法務局が供託を受け付けて金銭を預かった以上は、供託としては有効です。ただし、供託通知書が届かないことで債権者に損害が生じた場合は損害賠償責任が発生します。

供託通知書の位置づけ

あ 供託の有効性との関係

供託通知は供託の有効要件ではない
※大判昭和7年1月26日
※大判大正13年4月21日

い 供託通知を欠くことによる影響

供託通知がないため、被供託者に損害が生じた場合、供託者に損害賠償責任が生じる
※東京地裁昭和48年7月20日(供託書に記載した住所が間違っていた事例)

5 供託書の写しによる代用(否定)

以上のように、供託をした者は、債権者に供託通知書を発送する必要があります。ここで、供託書の写しで済ませると楽ですが、これは否定されています。

供託書の写しによる代用(否定)

「供託通知書」は「供託書正本の写し」で代用することはできない
→供託は違法となり、却下となる
※東京高判昭和58年5月27日(却下処分取消を認めなかった)

6 被供託者が確認する手段

たとえば、賃料の供託がされても賃貸人が知らされないということが起きます。賃貸人は債務不履行で解除できると思ってしまいますが、供託されているので解除はできないことになります。
では、賃貸人(などの債権者)としては、どのようにして供託されているかどうかを確認すればよいでしょうか。これについては、法務局に行って閲覧することで確認できます。

被供託者が確認する手段

被供託者(と思われる者)は、供託所(法務局)で閲覧申請をすれば供託の有無、内容が分かる
供託通知書がないと(供託番号)が分からない
その場合でも、おおよその供託の時期と供託者の氏名を閲覧申請書に記載すれば、供託の有無を確認できる
閲覧は利害関係人でなければできないが、閲覧者が被供託者であれば認められる
供託通知書がなくても問題ない
供託の有無を電話で回答することはしていない
※2021年10月長野地方法務局ヒアリング

7 弁済供託の管轄

供託されたかもしれない者(賃貸人など)が法務局で供託されているかどうかを確認する場合、どの法務局に行ったらよいのでしょうか。この点、弁済供託の管轄は、債務の履行地(を管轄する法務局)となっています。賃料債務であれば、原則は持参債務なので、結論としては、賃貸人(債権者)の住所地ということになります。

弁済供託の管轄

前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。
※民法495条1項

本記事では、弁済供託における供託通知書について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に賃料のトラブルなど、供託に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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