【サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴】
1 サブリースにおける賃料増減額請求の可否と判断の特徴
サブリースのシステムはいろいろなメリットがあり、実際に使われるケースが多くあります。
詳しくはこちら|サブリースの基本(仕組み・法的性格・対抗要件・利ざや相場)
ところで、家賃相場が下がる、あるいは空室が増えるといった要因で、逆ざやになる、つまりサブリース事業者の支出が収入よりも多くなってしまうこともあります。原賃料の減額をすれば、逆ざやは解消できます。
本記事では、サブリースの場合にも賃料減額請求が認められるか、また認める場合の改定賃料の計算の特徴について説明します。なお、増額も理論的には減額と同じ枠組みですが、実際には減額請求の方が多いです。
2 サブリースにおける賃料減額に関する対立構造
サブリースの特徴、目的は、オーナー(原賃貸人)が得る賃料を確保、保証する、というものです。実際に原賃貸人は、決められた原賃料の金額を前提として、ローン返済を含む出費をまかなう前提で事業を始めていることが多いです。そう簡単に決められた原賃料を下げられると困ります。
一方、サブリース事業者は、収入(転貸料)と支出(原賃料)の差額が、いわゆる利ざやであり、ここからその他の経費をまかなうという構造になっています。逆ざやになると、継続的に自腹で支出を続ける状態になってしまいます。
現実的に(経済的に)両者にとって負けられない対立となるのです。
サブリースにおける賃料減額に関する対立構造
あ サブリースシステムの根幹
サブリースシステムを利用する主要な目的は賃料収入が保証されることである
い オーナーの立場
賃料減額が認められると、オーナー(原賃貸人)にとっては、根本的な約束を破られたことになる
マンションの建築代金を借入金によって賄っている場合
→保証された賃料収入は返済金の原資となっている
→賃料減額により、借入金の返済にも支障が生じる
う サブリース会社の立場
契約当初は想定できなかった社会情勢の変動が生じた場合
→利益を確保できない状態となる(損失を受けることもある)
→これを解消する手段は賃料減額しかない
3 サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)
解釈論としては、サブリースは、建物の賃貸借にあたるかどうか、という問題になります。建物の賃貸借であれば、借地借家法が適用されるので、賃料増減額請求が認められることになります。
サブリースの構造は、形式的には借りたものをさらに別の人に貸すというものなので、賃貸借(がふたつある)ということになります。しかし、オーナーによる収益事業の管理を外注するというような構造ともいえます。
以前は統一的な解釈がありませんでしたが、平成15年判例が建物の賃貸借にあたると判断し、見解は統一されました。
結論として、原賃料について、賃料減額請求は可能ということになっています。
サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)
→賃料減額請求(借地借家法32条)が適用される
賃料自動改定(増額)特約があっても賃料減額請求は可能である
※最高裁平成15年10月21日(後記※1)
※最高裁平成16年11月8日(同趣旨)
なお、平成15年判例を前提としつつ、個別的なサブリース契約の内容の特殊性により賃貸借ではないと主張したけれど否定された(賃貸借であると判断された)裁判例もあります。
詳しくはこちら|サブリースの賃貸借該当性・暴利性(7倍の賃料)を判断した裁判例(イクスピアリ事件)
平成15年判例では借地借家法の規定のうち、賃料減額請求の規定の適用が認められたのですが、これ以外の規定も適用されます。具体例として、更新(拒絶)の適用も認めた裁判例もあります。
詳しくはこちら|サブリースの終了(更新拒絶)における正当事由の判断と明渡(占有移転)の方式
4 賃料増減額請求の当否・相当賃料額の判断の特徴(判断要素)
前述のように、サブリースでも賃料増減額請求は可能ということになります。しかし、サブリースは一般的な賃貸借とは違う特徴があります。そこで、賃料増減額請求がなされた場合に、これを認めるかどうか、認める場合の新たな賃料額をどのように計算するのか、という判断の際には、サブリースの特徴を反映させます。
大雑把にいうと、どのような経緯で賃料額が決められたのかということです。通常は、オーナー(原賃貸人)が原賃料で経費を支出でき、かつ、サブリース事業者が経費と適正な利益を得られるように賃料額が決められます。そこで、このような検討や交渉での当事者の認識が裏切られることがないようにする、という配慮が働くのです。
賃料増減額請求の当否・相当賃料額の判断の特徴(判断要素)
あ 基本的な判断要素
サブリースにおける賃料増減額請求の当否、相当賃料額を判断する際は、「賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合的に考慮する
い 判断要素の典型例
ア 賃料改定特約の経緯
(賃料改定特約がある場合)賃料改定特約が付されるに至った事情
イ 近隣相場との乖離
約定した賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係(賃料相場とのかい離の有無、程度)
ウ サブリース事業者の立場
サブリース事業者の転貸事業における収支予測にかかわる事情(賃料の転貸収入に占める割合の推移の見通しについての当事者の認識)
エ 原賃貸人の立場
原賃貸人の敷金及び銀行借入金の返済の予定にかかわる事情
※最高裁平成15年10月21日(後記※1)
5 平成15年判例の引用
平成15年判例は重要なので、主要部分を引用しておきます。サブリースの特徴も含めて細かい検討の結果として、前述の結論を出していることが分かります。
平成15年判例の引用(※1)
あ 賃貸借該当性・賃料減額請求の可否
前記確定事実によれば、本件契約における合意の内容は、第一審原告が第一審被告に対して本件賃貸部分を使用収益させ、第一審被告が第一審原告に対してその対価として賃料を支払うというものであり、本件契約は、建物の賃貸借契約であることが明らかであるから、本件契約には、借地借家法が適用され、同法三二条の規定も適用されるものというべきである。
い 賃料自動増額特約と賃料減額請求の関係
本件契約には本件賃料自動増額特約が存するが、借地借家法三二条一項の規定は、強行法規であって、本件賃料自動増額特約によってもその適用を排除することができないものであるから(最高裁昭和二八年(オ)第八六一号同三一年五月一五日第三小法廷判決・民集一〇巻五号四九六頁、最高裁昭和五四年(オ)第五九三号同五六年四月二〇日第二小法廷判決・民集三五巻三号六五六頁参照)、本件契約の当事者は、本件賃料自動増額特約が存するとしても、そのことにより直ちに上記規定に基づく賃料増減額請求権の行使が妨げられるものではない。
う サブリースの特徴と賃貸借該当性の関係
なお、前記の事実関係によれば、本件契約は、不動産賃貸等を目的とする会社である第一審被告が、第一審原告の建築した建物で転貸事業を行うために締結したものであり、あらかじめ、第一審被告と第一審原告との間において賃貸期間、当初賃料及び賃料の改定等についての協議を調え、第一審原告が、その協議の結果を前提とした収支予測の下に、建築資金として第一審被告から約五〇億円の敷金の預託を受けるとともに、金融機関から約一八〇億円の融資を受けて、第一審原告の所有する土地上に本件建物を建築することを内容とするものであり、いわゆるサブリース契約と称されるものの一つであると認められる。
そして、本件契約は、第一審被告の転貸事業の一部を構成するものであり、本件契約における賃料額及び本件賃料自動増額特約等に係る約定は、第一審原告が第一審被告の転貸事業のために多額の資本を投下する前提となったものであって、本件契約における重要な要素であったということができる。
これらの事情は、本件契約の当事者が、前記の当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから、衡平の見地に照らし、借地借家法三二条一項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する場合に、重要な事情として十分に考慮されるべきである。
以上により、第一審被告は、借地借家法三二条一項の規定により、本件賃貸部分の賃料の減額を求めることができる。
え 判断要素
そして、上記のとおり、この減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、本件契約において賃料額が決定されるに至った経緯や賃料自動増額特約が付されるに至った事情、とりわけ、当該約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係(賃料相場とのかい離の有無、程度等)、第一審被告の転貸事業における収支予測にかかわる事情(賃料の転貸収入に占める割合の推移の見通しについての当事者の認識等)、第一審原告の敷金及び銀行借入金の返済の予定にかかわる事情等をも十分に考慮すべきである。
※最高裁平成15年10月21日
6 賃料改定特約の有効性(概要)
前述のように、平成15年判例で、サブリースでも賃料(増)減額請求が認められることに決まりました。そうすると、オーナー、サブリース事業者の両方にとって、将来、収支予測が外れる可能性があることになります。
そこで、将来の賃料について最初からルールを決めておき、不確定要素を減らしておくという対策が有用です。具体的には、賃料改定特約です。たとえば賃料が一定割合で自動的に増額する特約です。ただし、賃料改定特約があっても、賃料増減額請求は排除できません。つまり、賃料改定特約どおりの賃料額に確実になる、とは言い切れないのです。
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料改定特約(賃料自動増額特約)の有効性
7 賃料減額請求に関する裁判例の要点(集約)
前述のように、サブリースの場合でも賃料減額請求をすることが可能です。ただし、減額を請求すれば確実に減額されるわけではありません。最終的には裁判所が減額を認めるかどうか(認める場合には新たな賃料の金額)を決めることになります。
実際に、いろいろな事案で、サブリースの原賃料の減額について裁判所が判断しています。賃料の減額を認めた裁判例もあれば、否定した、つまり逆ざやを救済しなかった裁判例もあります。
賃料減額請求に関する裁判例の要点(集約)
あ 原賃貸人の収益確保の保護(概要)
逆ざやの状態であることは賃料減額請求を認める方向に働く
しかし、原賃貸借契約によって約束された原賃貸人の収益確保が過度に脅かされるものであってはならない
結論として一定の範囲で減額を認めた
※東京高判平成23年3月16日(坂戸専門店プラザ訴訟)
詳しくはこちら|サブリースの逆ざやによる賃料減額を認めた裁判例(坂戸専門店プラザ事件)
い 空室保証特約の重視(リスク転嫁の否定)(概要)
原賃借人の負担(逆ざや)を、安易に原賃貸人に転嫁させることはできない
結論として減額を認めなかった
※千葉地判平成20年5月26日
詳しくはこちら|サブリースの逆ざやによる賃料減額を否定した裁判例(平成20年千葉地判)
※最高裁平成16年11月8日(同趣旨)
う 過大利ざやの反映否定
ア 原賃貸人の主張
転貸賃料が相場より高額となっていた
原賃貸人は、「原賃貸借の相当賃料について、転貸料をそのまま基準とすべきである」と主張した
イ 裁判所の判断
転貸料はあくまで転貸人と転借人の合意で定まるものであり、転貸人が転貸料によって自らの利益を上げることが賃貸人に対する関係で許されないものと解することはできないから、(原賃貸借の)適正賃料額を算定する上で、転貸料がそのまま賃料額算定の基準となると認めることはできない
※東京地判平成20年7月30日
※渡辺晋著『建物賃貸借 改訂版』大成出版社2019年p323
8 サブリースの対象建物の鑑定評価
ところで、サブリースの対象建物全体の収益は、サブリース契約で定められた原賃料ということになります。そこで、建物の価値の評価では、この原賃料額を直接的に反映させることになります。
この点、前述のように、サブリース事業者が賃料減額請求をすることが可能です。とはいっても、賃料減額請求が認められる可能性や減額幅を予想するには、契約締結に至る経緯、当時の社会情勢などを把握する必要があります。
実際の鑑定評価において、どの範囲で事情を調査、考慮に反映させるのか、これ自体が不動産鑑定評価理論として確立していません。今後の課題と言えましょう。
サブリースの対象建物の鑑定評価
あ 原則
サブリースの対象となっている収益建物の評価額算定について
賃料収入をベースとして評価することが多い(収益還元法)
ただし、賃料が改定される可能性がある
賃料が変更される一定のリスクを考慮に入れることになる
い 賃料改定特約の影響
賃料保証特約や賃料自動増額特約がある場合
これらの特約を評価額算定に反映させる
ただし、賃料増減額請求が認められる可能性がある
→社会経済の変化や周辺相場との乖離も考慮する必要がある
(参考)サブリースにおける賃料改定特約の有効性
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料改定特約(賃料自動増額特約)の有効性
本記事では、サブリースにおいて賃料増減額請求を認める解釈(判例)や、逆ざやが発生したケースで、サブリースの賃料減額を認めなかった裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際にサブリース方式における賃料の金額(増減額)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。