【民法上の組合に関する訴訟の当事者適格・共同訴訟形態】
1 民法上の組合に関する訴訟の当事者適格・共同訴訟形態
民法上の組合の財産は、組合自体が所有するわけではなく、組合員が所有(共有)するというものです。この共有については、各組合員(共有者)が共有持分を持つところまでは通常の「共有」と同じですが、共有物分割請求や持分の処分が禁止されるという特殊なものです。「合有」と呼ばれています。
詳しくはこちら|民法上の組合の財産の扱い(所有形態・管理・意思決定・共有の規定との優劣)
このような特殊性が、民法上の組合に関する訴訟では誰が当事者になるか(当事者適格)、また、複数の組合員が当事者になる場合の扱い(共同訴訟形態)に影響を与えます。本記事ではこのことを説明します。
2 合有権(共有権)確認訴訟(固有必要的共同訴訟)
合有という関係の確認(合有権)を求める訴訟は、固有必要的共同訴訟です。つまり共有者(組合員)全員が訴訟の当事者となる必要があるのです。
この結論は、通常の共有の場合(共有権)の確認を求める訴訟と同じです。
ところで、実際には組合員の人数がとても多いケースもよくあります。組合員の1人でも、訴訟提起に協力しない(連絡とれないことも含む)人がいると、提訴できなくなるのはとても不便です。
この点、組合自体を原告にすることでこの問題(不便)を解消できるという考えもあります。この場合は、組合の代表者が訴訟を遂行することになります。
合有権(共有権)確認訴訟(固有必要的共同訴訟)
あ 合有権確認訴訟の共同訴訟形態
組合員が第三者に対してある財産が組合財産に属すること、すなわち合有関係そのものの確認を求めようとするときには、管理処分権の帰属形態を前提とすれば、固有必要的共同訴訟の成立が認められる。
い 「共有権」確認訴訟の共同訴訟形態(参考)
(通常の共有の)共有権(所有権)確認訴訟は固有必要的共同訴訟である
※最判昭和46年10月7日
詳しくはこちら|共有物に関する確認訴訟の当事者適格・共同訴訟形態
う 組合の当事者適格(肯定方向)
・・・組合に当事者能力が認められるときには、・・・、組合自身が訴訟担当者として合有関係確認の当事者適格を認められる可能性がある。
※伊藤眞著『民事訴訟法 第7版』有斐閣2020年p674
え 入会団体の当事者適格(参考)
入会団体の総有権(入会権・共有権)確認訴訟について、入会団体は原告適格を有する
※最判平成6年5月31日
詳しくはこちら|入会権・入会財産に関する訴訟の共同訴訟形態(原告適格)
3 組合財産の妨害排除請求訴訟(単独提訴可能)
組合財産が侵害を受けている場合、妨害排除請求をすることになります。これは保存行為にあたるので、各組合員(共有者)が単独で請求(提訴)することができます。
この結論は、通常の共有の場合と同じです。ただし、通常の共有の場合の妨害排除請求は、保存行為という理由は使わず、(各共有者が持っている)共有持分権を根拠する、という考えが主流になってきています。
組合財産の妨害排除請求訴訟(単独提訴可能)
あ 抹消登記請求→単独提訴可能
組合財産上の第三者の登記抹消を求めることは、合有にも適用される民法252条但書の規定によれば、各組合員単独の保存行為に属するから、当事者適格も各組合員に認められ、固有必要的共同訴訟の成立は否定される。
※最判昭和33年7月22日
※伊藤眞著『民事訴訟法 第7版』有斐閣2020年p674、675
い 第三者異議訴訟→単独提訴可能
(要旨)
組合員は他の組合員の債権者が組合財産に対してした差押えにつき、民事執行法第三八条の訴えを提起することができる。
※大判昭和10年6月26日
う 「共有」物の妨害排除請求の原告適格(参考)
(通常の共有)の妨害排除請求訴訟は、各共有者が単独で原告となることができる
複数の共有者が原告となった場合は合一確定が要求される(類似必要的共同訴訟である)
詳しくはこちら|共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求)
4 組合財産である債権の行使の規定(参考)
ところで、組合財産として債権がある場合は、この債権の行使については、民法上のルールがあります。それは、各組合員が単独で行使できないというものです。債権の行使は組合の業務として位置づけられています。つまり、組合員自身から切り離されているのです。
組合財産である債権の行使の規定(参考)
※民法676条2項
5 組合債務の履行請求(被告1人可能)
次に、組合の財産のうち、マイナス財産について説明します。つまり、組合が負担する債務のことです。訴訟以前に(実体法上)、組合債務については、各組合員が弁済することになっています。そこで債権者は個々の組合員に対して請求できます。債権者は1人の組合員を被告にしてもよいし、数人や全員を被告にしてもよい、ということになります。
組合債務の履行請求(被告1人可能)
組合の常務に属する債務については、各組合員が弁済の権限をもつとされているので、固有必要的共同訴訟の成立は否定される。
※伊藤眞著『民事訴訟法 第7版』有斐閣2020年p675
6 組合員の分割責任の履行請求(被告1人可能)
前述の組合債務は、文字どおり組合として負担する債務でした。これとは別に、組合員も債務の一定割合の責任を負っています。この組合員として負う債務について請求する場合には、当然ですが、個々の組合員が被告となります。
組合員の分割責任の履行請求(被告1人可能)
あ 組合員の分割責任の規定
組合の債権者は、その選択に従い、各組合員に対して損失分担の割合又は等しい割合でその権利を行使することができる。ただし、組合の債権者がその債権の発生の時に各組合員の損失分担の割合を知っていたときは、その割合による。
※民法675条2項
い 分割責任の履行請求の当事者適格
(組合債務自体ではなく)民法675条2項にもとづく組合員の分割責任については、各組合員が当事者適格をもつことは当然である。
※伊藤眞著『民事訴訟法 第7版』有斐閣2020年p675
本記事では、民法上の組合に関する訴訟の当事者適格や共同訴訟形態を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に民法上の組合(共同事業や共有の財産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。