【共有物分割訴訟における当事者の希望の位置づけ(希望なしの分割方法の選択の可否)】
1 共有物分割訴訟における当事者の希望の位置づけ(希望なしの分割方法の選択の可否)
共有物分割訴訟では、当事者(共有者)の間でどのように分割するか(分割類型・分割方法)について意見が激しく対立するのが通常です。これについては、条文や判例で一定の判断基準(優先順序)が作られています。ただし、個々の案件についてはっきりと判断できるわけではありません。
詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の選択基準(優先順序)の全体像
これに関して、当事者(共有者)の分割方法の希望をどのように位置づけるか、具体的な問題として、誰も希望していない分割方法を裁判所が判決として採用できるのか、というものがあります。本記事では、これについて説明します。
2 当事者の希望の非拘束性
共有物分割訴訟における分割方法の選択について、昭和57年判例は、裁判所に大きな裁量を認めています。当事者の分割方法についての希望は裁判所を拘束しないと明言しています。さらに、平成8年判例は、全面的価格賠償という分割類型を(最高裁として)創設した判例ですが、当事者の希望の拘束力を認めてはないように読めます。
このように拘束力を否定したとしても、「当事者の希望を無視する」というわけではありません。最大限尊重するのは当然です。
当事者の希望の非拘束性
あ 非拘束性
ア 昭和57年判例(一般論)
当事者は、抽象的に分割を請求しうるのみで、具体的な分割の方法・割付についての申立ては裁判所を拘束しない
※最判昭和57年3月9日
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の性質(形式的形成訴訟・処分権主義・弁論主義)
イ 当事者の希望の処分権(拘束性)の範囲の振り分け
(ア)裁判所の裁量問題から当事者の権利主張へ?
はじめに全体の見通しを示しておこう。
共有物分割は、
①共有関係の解消
にとどまらず、
②どのように分割を実施するかの問題
から構成される。
かねてから、①②を区別して、①については処分権主義が妥当すべきとの提案がある
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p597
ウ 平成8年判例の読み取り(全面的価格賠償)
共有物分割訴訟において当事者の意思を考慮に入れる方法としては、
(1)訴訟法的アプローチとして、処分権主義的制約を加える方法と、
(2)実体法的アプローチとして、全面的価格賠償を認める「特段の事情」の一つとして当事者意思を考慮に入れる方法がある。
本判決(最判平成8年10月31日・1380号)は、(1)のアプローチを採るものではなく、当事者の意思を「分割方法についての共有者の希望」として、かつ、これが「合理性」を有する限りにおいて、実体要件の一つとして考慮するものであろう。
共有物分割訴訟においては、分割方法についても当事者の意思(希望)が対立するのが普通である。
そして、その対立はしばしば感情的なものであり、例えば、「共有物を自分が取得できないのであれば、相手にも取得させたくない」として競売による分割を求め、あるいは、「建物の一部でもよいから欲しい」、「五坪の土地でもよいから欲しい」として現物分割を求める場合がある。
したがって、基本的に、このような対立する意思に裁判所に対する拘束力を認めるのは相当ではないと思われる。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p889、890
い 尊重
しかし、第一に、―それが合理性を有する限りにおいてではあるが―分割方法についての当事者の意思(希望)はできる限り尊重すべきであろう。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p890
3 債権者代位における被代位者(共有者)の希望の扱い
共有物分割訴訟の原告が、共有者自身ではないというレアケースもあります。それは、共有者Aの債権者Bが、債権者代位として分割請求をする(原告として提訴する)というものです。この場合、代位されるAは原告ではないですが、共有者です。訴訟の当事者はBですが、共有者はAです。
仮にAとBで、分割方法の希望が割れたらどうなるか、という問題があります。これに近い実例はありましたが、A(共有者)が分割方法についての希望を出していなかったのでこの問題はスルーされました。
債権者代位における被代位者(共有者)の希望の扱い
あ 実例
(原告の主張)
・・・
他方、被告Rは本件建物の(全面的価格賠償の方法による)分割に反対しているが、原告による共有物分割請求権の代位行使が適法である以上、被告Rの希望を考慮する合理的理由はないし、前記(1)オで主張したとおり、その希望は全面的価格賠償の方法による分割を拒絶する理由として合理性を有しない。
※東京地判平成25年2月8日
い 補足説明
「あ」の裁判例では、被代位者(被告R)は具体的な分割方法を希望(主張)していたわけではなく、権利の濫用として分割請求自体を否定する主張をしていた
判決では「あ」の主張に対応する判断(コメント)はしていない
4 換価分割希望なし→現物分割選択可能
前述のように、一般論として、分割方法についての当事者の希望は裁判所を拘束しません。この基本構造から導かれる具体例をいくつか説明します。
たとえば、当事者が換価分割を希望していて、誰も現物分割を希望していないとしても、裁判所が現物分割を選択することが可能、ということになります。
換価分割希望なし→現物分割選択可能
あ 換価分割希望→現物分割選択可能
また、当事者が、現物分割の不能等を理由にして、当初から、金銭代価分割の申立のみを申し立てていても、(理論的には)裁判所が、審理の結果、共有物件が現物分割の可能性があると判断したときは、いわゆる現物分割による共有物分割の判決をすることも許容されており、適法に裁判することができると解されていた
そして、この現物分割には、一部分割内容を補充ないし是正するような意味での金銭的調整も含まれていたと解されていたのである。
いわゆる共有物分割の方式の弾力化・多様化といわれ、人によっては、自由化ともいわれていたものである。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p15、16
い 現物分割希望なし→現物分割選択可能
もちろん、現物分割を命じることができることはいうまでもない。
当事者の申立通りの分割内容でないことも命ずることができる。
のみならず、逆に、当事者が共有物分割の対象物件の現物分割が不能ないし著しい価格を損ずる虞があるとして、金銭代価分割のみの申立をしていた場合でも、裁判所は、この金銭代価分割の申立に拘束されることなく、したがって、仮に何れの当事者から、現物分割の申立がなされていない場合であっても、現物分割が不能ないし著しい価格を損ずる虞がないと判断したときは、現物分割を命じることができるし、事案が適切であれば、そのように命ずるのが本来なさるべき裁判であると一般的に解されている。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p19
5 牧歌的審理と主張の非拘束性の関係
以上のように、昭和57年判例の理論からは、当事者が希望していない分割方法を裁判所が選択できますが、その背景は現在とは大きく異なります。
昭和57年判例の当時は、現物分割と換価分割だけ(分割類型は2つ)という今から考えるとまったく別世界のような状況だったのです。具体的には、裁判所の審理(判断)は、現物分割と換価分割のどちらを採用するか、現物分割採用の際には、分割線をどの位置に置くか、という(今と比べると)非常に単純なもので、牧歌的審理といえるものでした。
しかし、現在の審理はまったく異なっています。分割方法がものすごく多様化しているのです。
詳しくはこちら|共有物分割における一部分割(脱退・除名方式)(分割方法の多様化)
一部の共有関係を維持する、ということも可能になっていますし、また、一部の共有者が対価を支払って単独所有とする、という方法の可能となっています。誰と誰を共有者として残すか、対価(賠償金)の金額をいくらにするか、ということも審理の対象となるのです。
現在では、昭和57年判例の理論の前提となっていた状況が変わってしまったのです。これをそのまま適用すると無理がある、という考え(後述)につながります。
牧歌的審理と主張の非拘束性の関係
あ 分割方法の多様化との関係
いや、形式的形成訴訟として、よくいわれるところの、申立の非拘束性、事実主張の不要等は、いわゆる現物分割・金銭代価分割方式の二者しか認められていなかった時代のいわば牧歌的審理を前提とする議論であったのかも知れないという気もしないわけではない。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p25
い 審理内容の変化
(東京地判平成5年6月30日について)
また、従来の土地等の共有物の現物分割においては、両当事者の土地利用形態を基本的に尊重した上で、境界線に該当する範囲をどうするかという観点から、分割の具体的内容に拘束性を認めず、いわばお互いに境界線に相当する部分をどのラインに定めるかということに関心が置かれ、いわばそのような点からの裁量性が強く強調されていたのであり、本件のように基本となる土地自体を何れの当事者が占めることが許容されるかというような根本的な問題となることは少なかったものといえよう。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p47
(参考)平成5年東京地判は別の記事で説明している
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における共有関係維持に関する当事者の処分権(拘束性)
6 希望なしの分割方法否定・形式的形成訴訟再検討を指摘する見解
昭和57年判例の理論では、当事者の分割方法の希望は、裁判所を拘束せず、裁判所が尊重・配慮するにとどまります。この点、現在の実務では、分割方法が非常に多様化しているため、当事者の希望は、とても細かく特定した内容になっています。当事者の判断を裁判所が配慮するにとどまるというのでは不十分であるという考えも提唱されています。つまり、裁判所が選択(決定)できるのは、当事者が主張(申立)した分割方法の範囲に限定される、という考えです。
希望なしの分割方法否定・形式的形成訴訟再検討を指摘する見解
あ 「配慮」「恩恵」という位置づけへの批判
(エ)小括
現在の共有物分割訴訟においても裁判所は、共有者の意向―①どの範囲の目的物についてどの範囲での共有関係の解消を望むのか、②特定の分割方法だけを望むのか、いかなる分割方法でもかまわないのか、その先どのように割り付けたいのか一に配慮していると推測されるけれども、そうした配慮は、当事者に対する恩恵にすぎないと解すべきではないように思われる。
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p601、602
い 形式的形成訴訟という扱いの再検討
ア 新注釈民法
(昭和57年最判の理論について)
しかし、形式的形成訴訟であることを根拠とする上記の図式的理解を維持することは困難になりつつあるように思われる。
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p596
すなわち、実体法上は、一裁判所の裁量に委ねられる部分が残ることはたしかであるにせよ―共有物分割請求権の内容が―単に分割を請求するという以上により細分化具体化されて主張されていることの反映である可能性があり、手続法上は、裁判所が当事者の申立てに拘束されつつある可能性があり、こうした見地からは、そもそも共有物分割訴訟が形式的形成訴訟であることについて再検討が迫られることになる。
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p601、602
イ 奈良次郎氏見解
あるいは形式的形成訴訟である境界確定訴訟等の理論説明が、類似の形式的形成訴訟とされる共有物分割訴訟に不当に、というよりは論証がされないままに、拡大・主張されたものなのかも知れない。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p68
う 希望なしの分割方法の選択の否定
裁判所は、複数の当事者から互いに異なる分割方法割付の意向が示されたら、自ら妥当と信ずる第三案による分割一共有者のいずれもが望まない形の分割一を命ずるよりは、いずれか一方の提案に沿った分割を命ずるべきであるように思われる。
いずれの提案を採用すべきかについては、経済的価値が公平に割り当てられるべきこと以上に明確な基準を見出しがたく、裁判所の裁量に委ねられざるをえない。
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p604、605
実際の共有物分割訴訟で裁判所がこの見解そのまま採用するということは、まだ一般的になっているとはいえません。では、この見解は実務では無駄かというとそうではありません。訴訟の中の主張として使うことで裁判所の判断(判決や和解勧告)に影響を及ぼすことがあります。
7 全面的価格賠償の「希望」の特殊性
以上で説明したことは、「分割方法についての当事者の希望」の一般論です。この点、全面的価格賠償の希望については扱いが違います。
全面的価格賠償として賠償金を支払って現物を取得するという希望は、裁判所この分割方法を選択するために必須となっているのです。平成8年最判の文言からはストレートにそのように読み取れるわけではありません。しかし、共有物とは別の財源から賠償金を支出する、という構造からこのような解釈が一般的となっているのです。
そこで、共有物分割訴訟の訴状では、原告が自身が取得することを希望するのが通常ですが、状況によっては、被告が取得する(自身は対価を取得する)ことを希望するというパターン(押し付け型)もあります。これは訴訟前の交渉で被告が取得を希望していることがはっきりしているケースです。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の訴状の請求の趣旨・判決主文の実例
さらに、現物取得希望者が提示する賠償金の金額ですが、同じように、共有物とは別の財産を支出するという構造からは、裁判所は提示された金額を上限とする(提示額が適正評価額を下回ったら全面的価格賠償を選択しない)という発想が自然ですが、一切超えてはいけない、ということはありません。
この点、実務でも多くの実績が蓄積されている正当事由による明渡請求の判決では、地主(原告)が提示する明渡料をある程度超える金額を裁判所が明渡料として定めることが許容されています。この扱いが、全面的価格賠償の賠償金にもあてはまると考えられます。
全面的価格賠償の「希望」の特殊性
あ 「希望」を必要的要件とする扱い
ア 平成8年判例の判例解説
第二に、全面的価格賠償による分割を希望しない者に、共有物を取得させ、持分の価格を賠償させるのは相当ではない。
このような場合には、賠償金の履行確保の上でも問題が生じよう。
もっとも、全面的価格賠償についての希望は、明示のものであることを要しない。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p890
イ 直井義典氏見解
全面的価格賠償が現物の取得者に金銭債務を負わせるものであることを考慮すると現物を取得することになる者の希望は全面的価格賠償を命じるに当たって必要的要件となるものというべきである。
※直井義典稿『いわゆる全面的価格賠償の方法による共有物分割の許否』/『法学協会雑誌115巻10号』1998年p1588
ウ 秦氏見解
筆者は全面的価格賠償の方法による分割を命じるためには、現物取得者の取得の申立てが必要であると考えている。
最判平成八年は、全面的価格賠償の方法による分割が認められる特段の事情の判断基準として、現物を取得する意思の存在を必要不可欠な要件としていない。
当事者の意思なしに現物取得を命じられることは考えにくいが、理論上は、当事者の意向にかかわらず現物を押し付けられる可能性がある。
※秦公正稿『共有物分割の訴えに関する近時の裁判例の動向』/『法学新報123巻3・4号』中央大学法学会2016年8月p127
エ 新注釈民法
最判平成8年は、全面的価格賠償を命ずる際に考慮すべき事情の1つとして「分割方法についての共有者の希望」を掲げた。
実体法学からは、当事者が望まないにもかかわらず裁判所が全面的価格賠償による分割を命ずることは相当でないとの主張aがある(山野目章夫[判批]NBL641号1998]54頁)。
訴訟法学からも、全面的価格賠償は、当人の申立てなしに行われるべきでないとの主張bがある(秦・前掲新報120巻334号39頁)。
主張aおよび主張bは、互いにニュアンスは異なるが、いずれも、従来、具体的な分割方法についての主張(②)が法的主張に当たらない(裁判所を拘束しない)とされてきたところを、実体法上の分割請求権の内容ないし法的主張に含まれると考える方向を示唆する(秦公正「共有物分割の訴えの審理に関する一考察」高橋宏志古稀・民事訴訟法の理論(2018)703頁は、全面的価格賠償請求と現物分割・代金分割請求とは審判対象が異なると主張する。・・・
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p599、600
い 「希望」を必要的要件としないと読める見解
最高裁は全面的価格賠償の方法による共有物分割を認めた判決で、全面的価格賠償の方法による共有物分割をすることができる特段の事由の判断要素として当事者の希望を挙げているが、共有物分割訴訟はいわゆる形式的形成訴訟であり、実質は非訟事件であるため、裁判所は当事者の主張に拘束されない。
その結果当事者が予期しない全面的価格賠償の方法による共有物分割がおこなわれ、上述のような請求がなしえないという場合も例外的であろうが存在しうる。
(一方が現物分割を主張し、他方が競売を主張しているが、競売を主張している側の持分が少なく経済的に現物での分割が無意味であるような場合などが考えうるであろうか。)
※上田誠一郎稿『全面的価格賠償の方法による共有物の分割と対価の確保の問題について』/『同志社法学296号(55巻6号)』同志社法学会2004年p1446
う 現物取得希望者の提示する金額の扱い
ただ、共有物価格の算定が困難であることを考慮すると、裁判所が命じる価格賠償金の額は立退料に関する判決同様、全面的価格賠償を求める者の提示する額よりも高額となってもよいであろう。
※直井義典稿『いわゆる全面的価格賠償の方法による共有物分割の許否』/『法学協会雑誌115巻10号』1998年p1588
え 特殊な実例
原告は、被告による現物取得を希望した(申し立てた)
被告は期日に欠席した
裁判所は、被告は取得する意思があると判断した上で被告が取得する全面的価格賠償を選択した
※東京地判平成23年12月27日
8 裁判所の影響による当事者の希望提出という関係
共有物分割訴訟の実務の実情としては、突然裁判所が判断を判決として示すわけではなく、段階的な心証開示が行われ、当事者がこれに応じて、分割方法の希望を変更、あるいは具体化する、というプロセスがあります。うまく裁判所と当事者のコミュニケーションが噛み合えば、裁判所と当事者の希望(主張)が食い違うということは避けられます。つまり、判決が当事者の希望外の分割方法を選択するということは具体化・表面化しない傾向があります。
裁判所の影響による当事者の希望提出という関係
あ 実務の審理の状況
本条(民法258条)の注釈は、裁判所は、丁寧に審理を行うことによって一一あたかも裁判上の和解を目指すかのように一一分割方法のみならず割付の内容を含めた各共有者の意向を探り、その齟齬をできるだけなくし、それでも残る食い違いについてのみーどちらかといえば一方の提案を採用すべきだが、裁判所独自の分割案を示すべきこともある一裁量権を行使すべきことにならざるをえない趣旨を述べたことになる。
い 裁量に関する基準(指針)
分割における裁判所の裁量について、実体法上の指針としては最判平成8年以上のものを見出しておらず、当事者の意向を尊重すべきことを述べたにとどまる。
う 当事者の希望提出への影響
とはいえ当事者には、裁判所の裁量的な現物分割・代金分割命令の影の下で、歩み寄り、合理的な選択肢を提出するインセンティブがあるように思われる。
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p606
え 令和3年改正と判断基準(参考)
令和3年改正により、価格賠償よりも換価分割が劣後することなどが条文として定められた
しかし、明文化されたものは非常に限定的である
詳しくはこちら|全面的価格賠償と換価分割の優先順序(令和3年改正・従前の学説)
9 共有関係の維持(分割方法の多様化)と処分権の関係(概要)
ところで、分割方法は多様化しており、現在では、一部の共有関係を維持するという分割方法を採用することもできます。
詳しくはこちら|共有物分割における一部分割(脱退・除名方式)(分割方法の多様化)
この方式を採用する場合には、離脱を希望している当事者は離脱させる必要がある(共有者として存続する当事者だけを存続させることができる)ということなどが指摘されています。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における共有関係維持に関する当事者の処分権(拘束性)
10 当事者の希望の訴訟上の位置づけ(参考)
以上のように、当事者の分割方法の希望は、請求未満であるけれど尊重する、という特殊な位置づけでした。では、訴訟手続としてはどのような扱い(位置づけ)になるか、という問題もあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における当事者の希望の扱い(反訴・訴え変更)
本記事では、共有物分割訴訟における当事者の希望の位置づけ、特に当事者が希望していない分割方法を裁判所が選択することができるか、という問題について説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。