【区画整理の際の建物移動における建物の権利の扱い】
1 区画整理の際の建物移動における建物の権利の扱い
土地の区画整理では、仮換地や換地処分がなされます。つまり、従前地(従前の土地)を取り上げられ、代わりに新たな土地(換地)を与えられる、ということになります。そこで、従前地に建っていた建物を換地に移動する必要が出てきます。建物を移動する方法には、移築や曳行移転などがありますが、その方法によって、建物の権利の扱いが違ってきます。
本記事では、これらの問題について説明します。
2 仮換地指定・換地処分の効果(要点)
最初に、区画整理によって、土地の権利がどうなるか、という基本的なルールを押さえておきます。
まず、仮換地の段階では、従前地を使用・収益する権利は、仮換地を使用・収益する権利”になります。
換地処分の段階では、従前地の権利は換地の権利として残ることになります。正確には、換地計画でそのように定められることが前提ですが、通常そのように定められています。
仮換地指定・換地処分の効果(要点)
あ 仮換地指定の効果の条文
前条第一項の規定により仮換地が指定された場合においては、従前の宅地について権原に基づき使用し、又は収益することができる者は、仮換地の指定の効力発生の日から第百三条第四項の公告がある日まで、仮換地又は仮換地について仮に使用し、若しくは収益することができる権利の目的となるべき宅地若しくはその部分について、従前の宅地について有する権利の内容である使用又は収益と同じ使用又は収益をすることができるものとし、従前の宅地については、使用し、又は収益することができないものとする。
※土地区画整理法99条1項
い 換地処分の効果の条文
ア 換地を従前地とみなす規定
前条第四項の公告があつた場合においては、換地計画において定められた換地は、その公告があつた日の翌日から従前の宅地とみなされるものとし、換地計画において換地を定めなかつた従前の宅地について存する権利は、その公告があつた日が終了した時において消滅するものとする。
※土地区画整理法104条1項
イ 権利の目的である土地の変更
前条第四項の公告があつた場合においては、従前の宅地について存した所有権及び地役権以外の権利又は処分の制限について、換地計画において換地について定められたこれらの権利又は処分の制限の目的となるべき宅地又はその部分は、その公告があつた日の翌日から従前の宅地について存したこれらの権利又は処分の制限の目的である宅地又はその部分とみなされるものとし、換地計画において換地について目的となるべき宅地の部分を定められなかつたこれらの権利は、その公告があつた日が終了した時において消滅するものとする。
※土地区画整理法104条2項
3 曳行移転における建物の権利の扱い
前述のように、土地の区画整理で、土地を使用する権利(所有権や賃借権など)は、(仮)換地を使用する権利になります。そこで、従前地の上に建物を所有していた人は、その建物を(仮)換地に移動する必要があります。
建物を移動する方法にはいくつかありますが、移動方法によって建物の権利がどうなるか、が違ってきます。
まず最初に、建物の曳行移転(解体せずに物理的に移動する方法)は、権利としては単純です。建物の同一性は維持されているので、権利関係も維持されます。
曳行移転における建物の権利の扱い
あ 建物の同一性(前提・概要)
登記手続上も実体法上も建物の同一性は認められる
詳しくはこちら|建物の移動(移築・再築・曳行)における建物の同一性・「滅失」該当性
い 建物の権利の扱い
旧建物に設定されていた権利は新建物でも維持される
登記(対抗力)も維持される
4 移設(解体移転)における建物の権利の扱い
次に、旧建物を解体した上で、換地まで材料として運搬して、再び同じ材料で建物を再現(復元)する、という方法があります。移設(解体移転)といいます。
移設の場合、権利関係の判断としては、建物の同一性が維持されるという方向性です。そこで、移動前の建物の権利が移動後の建物でも維持されるはずです。
ただし、登記上は旧建物とは別の新建物として扱われます。そこで、登記をやり直すことになります。ここで、登記のやり直しより前に別の登記がされてしまうと、別の登記(先にされた登記)の権利の方が優先となってしまいます。
移設(解体移転)における建物の権利の扱い
あ 建物の同一性(前提・概要)
登記手続上は建物の同一性はない
実体法上は建物の同一性は認められる方向性である
詳しくはこちら|建物の移動(移築・再築・曳行)における建物の同一性・「滅失」該当性
い 建物の権利の扱い
(実体法上は建物の同一性が認められることを前提とする)
旧建物に設定されていた権利は新建物でも維持される
ただし、新建物に登記がなされないと対抗力は維持されない(先に登記された権利に劣後することになる)
5 (純粋な)新築における建物の権利の扱い
最後に、旧建物は解体し廃棄して、まったく別の新しい材料で新しい建物を建築する、という方法もあります。
この場合は、説明するまでもなく、旧建物と新建物は別の建物であり、旧建物に設定されていた権利が新建物に引き継がれるということはありません。もちろん、改めて権利を設定する契約を締結すれば別です。
(純粋な)新築における建物の権利の扱い
あ 建物の同一性(前提)
登記手続上も実体法上も建物の同一性はない
い 建物の権利の扱い
旧建物に設定されていた権利は新建物で維持されることはない
旧建物の滅失(解体)によって、旧建物に設定されていた権利は消滅する
6 建物の再築(移築・新築)と権利侵害
以上のように、建物を移築や新築する場合、もともと建物に設定してあった権利が引き継がれない、または、引き継がれても他の権利よりも劣後になる、ということが起こります。
具体的には、権利が設定されている建物を解体した時点で、その権利は対象物がなくなったことで消滅します。すぐ後に同一の建物が復元すれば、権利も復元しますが、登記の順序で元の権利よりも弱くなることがあるのです。
このように、権利の侵害があった場合、損害賠償責任が発生します。また、建造物等損壊罪が成立することもあります。
建物の再築(移築・新築)と権利侵害
あ 建物の再築による権利侵害
建物の移築や新築の際、旧建物に設定された権利の登記を(登記上の)新建物に設定する登記をすれば権利は保全される
しかし、新建物に登記がなされないと権利は消滅するか、存在はするけれど実現しないことになる(=権利が侵害される)
い 民事責任
建物に設定された権利が侵害された場合、建物所有者には損害賠償責任が発生する
う 刑事責任
他人の権利が設定された建物を損壊することは、建造物等損壊罪に該当する
※刑法260条、262条
7 区画整理の際の借地上の建物の移動と地主の承諾(概要)
借地となっている土地が、区画整理により、別の場所に移動する(換地処分)ことがあります。この場合、借地上の建物を、新たな場所(換地)に移動することになります。ここで、借地借家法上の再築(滅失や増改築)に該当するかどうか、つまり、地主の承諾や承諾料の支払が必要かどうか、という問題が出てきます。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|区画整理による借地上の建物の移動の影響(地主の承諾の要否)
本記事では、区画整理の際に、建物を移動したケースで、建物に設定されていた権利がどうなるか、ということを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、区画整理に伴う建物の移動に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。