【共有物の「貸借契約」の解除を管理行為とした判例(昭和39年最判)】

1 共有物の「貸借契約」の解除を管理行為とした判例(昭和39年最判)

共有不動産を第三者に賃貸して、賃料収入を共有者で分配する、というケースがよくあります。この点、このような賃貸借契約を解除することが、共有物の管理行為として、持分の過半数の賛成で決定することができる、と判断した判例(昭和39年最判)があります。この判例では、いろいろな解釈に役立つ内容が含まれます。
本記事では、昭和39年最判について説明します。

2 昭和39年最判の判決文(引用)

最初に、判例のメインの部分を押さえておきます。「貸借契約」を解除することは共有物の管理行為(狭義)である、という判断です。
さらに、民法544条1項(解除権不可分の原則)の適用は排除される、ということも示されています。
なお、解除権の不可分性の基本的事項は、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|解除の不可分性の基本(具体例・任意法規性・適用範囲)

昭和39年最判の判決文(引用)

ところで、共有者が共有物を目的とする貸借契約解除することは民法二五二条にいう「共有物ノ管理ニ関スル事項」に該当し、右貸借契約の解除については民法五四四条一項の規定の適用が排除されると解すべきことは所論のとおりであるから、原審が、上告人および訴外益子の共有物である本件土地を目的とする貸借契約の解除についても同項の規定が適用されること前提として、上告人だけで右契約を解除することはできないとしたのは、法律の解釈を誤つたものというべきである。
※最判昭和39年2月25日

3 判例解説(判例の読み取り)

判決文は前記のようにシンプルで、管理行為にあたる理由がはっきりとは示されていません。理由としては、本質的な変更を加えることにはならないので変更行為ではなく、かつ、利用方法自体は変わるので保存行為ではない、そこで消去法的に管理行為にあたる、と判断したものと読み取れます。

判例解説(判例の読み取り)

共有者による共有物を目的とする貸借契約解除は、共有物を処分する行為でも、共有物に本質的変更を加える行為でもないから、管理行為に属するというべきであろう。
とすれば、右解除については民法二五二条が適用されることになるから、同法五四四条一項は適用されないと解すべきであろう。
そして、保存行為とは共有物の現状を維持する行為をいうのであるが・・・、右解除は、共有物の利用方法を変更するのであるから、保存行為ではなく、共有物についての貸借契約の締結と同様、右に述べた利用行為に属するものと解すべきである(注)。
・・・
本判決は以上述べたような見解に基づくものと思われる。
※枡田文郎稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和39年度』法曹会1965年p37

4 「貸借契約」の意味

ところで、判例が管理行為であると判断したのは、「貸借契約」の解除です。
実は、事案としては、賃貸借契約・使用貸借契約のどちらかはっきり判断できない状況だったのです。裁判所としては、どちらの契約であったとしても、その解除は管理行為である、と判断したのです。
一般論としても、「貸借契約」という用語は、賃貸借と使用貸借の両方を指すものとして使われています。

「貸借契約」の意味

あ 判例の事案(当事者の主張)

Xは上告し、Xの解除を無効とした点について、つぎのように主張した。
・・・
共有物を目的とする使用貸借または賃貸借契約を解除することは民法二五二条にいう共有物の管理に関する事項に該当し、この解除については同法五四四条一項は適用されないから、X単独の解除の意思表示を無効とした原判決は法律の解釈を誤っている。
※枡田文郎稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和39年度』法曹会1965年p36

い 宅建業法の「貸借」の意味(参考)

(宅建業法2条4号の「貸借」について)
宅建業法にいう貸借には、賃料を支払って宅地建物を使用収益する賃貸借(民法601条)と、これを支払わない無償による使用貸借(同法593条)が含まれる。
※岡本正治ほか著『詳解 不動産仲介契約 全訂版』大成出版社2012年p43

う 実務家見解

この判例は、「貸借契約」という用語を使用していますが、これは賃貸借契約・使用貸借契約のいずれも含む用語と解されます・・・。
※村松聡一郎稿/鈴木一洋ほか編『共有の法律相談』青林書院2019年p66

5 判例解説→共有者全員の名による意思表示不要

昭和39年最判は、解除権不可分の原則は適用しない、と判断しています。ストレートにこれを受け取ると、解除の意思表示も、一部の共有者(過半数であれば全員でなくてもよい)が行うことで足りる、と読めます。

判例解説→共有者全員の名による意思表示不要

したがって、右契約の解除は、必ずしも共有者全員からすることを要せず、価格に従い過半数の持分を有する共有者からすることができるということになるであろうが、共有者の一人が他の共有者から共有物の管理を委任されているような場合を除き、二分の一の持分権しか有しない共有者は単独でこれをすることができないものというべきであろう。
本判決は以上述べたような見解に基づくものと思われる。
※枡田文郎稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和39年度』法曹会1965年p37

6 平野裕之氏見解→意思決定と意思表示の混同(全員の名は必須)

(1)判例民法

これに対して、民法544条1項(解除権不可分の原則)は適用されないという部分は誤った判断である、という指摘もあり、こちらが合理的であると思います。
具体的な状況を想定すると分かりやすいです。
最初に第1ステップとして、解除する、という意思決定は管理行為として持分の過半数で決定します。その次に、第2ステップとして、賃貸人(共有者)から賃借人に対して解除の意思表示をします。第2ステップは、意思決定(第1ステップ)の執行(実行)という位置づけです。
執行(意思表示・第2ステップ)は、第1ステップの意思決定で賛成しなかった共有者を含めた共有者全員の名で意思表示を行います。この部分で、解除権不可分の原則が適用されています。
結局、最初から、解除権不可分の原則は意思決定(第1ステップ)には適用されないのだから、「適用を排除する」必要はなかった、といえるのです。

判例民法

あ 判断の対象(意思決定)

(昭和39年最判について)
・・・解除の意思決定と解除の意思表示とが混同されている
本事例で問題とされたのは解除の意思決定であり、本判決は、原審判決が解除に全員の同意を要求したのを否定したものであり、本条本文により解除の意思決定は持分の過半数により決定できることを確認したにすぎないのである。
これは全く問題がなく、原審が不合理であることは疑いない。

あ 解除権不可分の原則の適用(排除不可)

ところが、解除では、共有物という物権関係を離れて、賃貸借契約という債権関係を問題にしなければならないので、解除の効果は賃貸人たる共有者全員に帰属しなければならず、ここでは解除権不可分の原則は回避できないはずである。

う 「意思表示」の具体的方法

そして、解除の意思決定においては、解除の意思表示についての代理権授与の決定も併せて可能であり、それにより全員の名で解除をする権限が認められるので、いわば全員を代表して1つの契約全部の解除の意思表示ができるというべきである。

え まとめ

要するに、解除の意思決定持分の過半数ででき、他方で、解除の意思表示全員がしなければならない―全員に解除の効果が帰属しなければならず全員の意思表示が必要である―が、解除をする共有者は反対の共有者も含めて全員の名で実行として解除ができるので、何も不都合はないのである。
この点も、「決定」と「執行」とが明確に分けられていないがゆえに陥った誤解である。
※平野裕之稿/能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 第3版』第一法規2019年p354、355

(2)物権法

平野氏は、別の著書でも、整理しつつ同じ見解を示しています。

物権法

あ 解除の分類→管理分類(前提)

賃貸借契約の解除や更新拒絶は、管理事項として持分の過半数で決せられる。
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p364

い 解除の意思表示→全員の名が必須

賃貸借の解除も同様であり、解除の内部的意思決定持分の多数で決められるが、解除は全員の名でしなければならない。

う 授権みなし

したがって、解除権不可分の原則(544条)とは抵触することはなく、持分の過半数で解除が決まったら、全員の名で解除の意思表示ができるのである。

え 昭和39年最判の評価→批判

判例は、「民法544条1項の規定の適用が排除される」と説明するが(最判昭39.2.25民集18巻2号329頁)、適切ではない。
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p366

7 広中俊雄氏見解→意思決定と意思表示の直結批判

広中氏は、昭和39年最判について、意思決定実行の2つを直結させているきらいがある、と指摘しています。そして、過半数持分で決定した上で、共有者全員の名で解除を通知するという流れを指摘しています。解除の意思表示を誰の名で行うか、ということは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)
結局、広中氏の指摘は、昭和39年最判は意思決定と実行を混同しているという見解であると読めます。

広中俊雄氏見解→意思決定と意思表示の直結批判

あ 授権を認める方向性(前提)

「各共有者ノ持分ノ価格ニ従ヒ其過半数ヲ以テ」決定された事項については、「過半数」を制した共有者がその実行について管理権を取得するものと解することが妥当である。

い 昭和39年最判の評価→意思決定と実行の直結を批判

「共有者が共有物を目的とする貸借契約を解除することは民法二五二条にいう〔同条本文の適用を受ける〕『共有物ノ管理ニ関スル事項』に該当し、右貸借契約の解除〔の意思表示〕については民法五四四条一項の規定の適用が排除される」とする判例(共同相続の場合に関するが、最判昭三九・二・二五民集三三一頁)は、意思決定の問題を決定の実行の問題に直結させているきらいがあるけれども、右のような理解を基礎にすえることによって正当と評価されうる。
※広中俊雄著『現代法律学全集6 物権法 第2版増補』青林書院1992年p428

8 解除権の「処分」と共有物の「管理」の関係

ところで貸借契約の解除権という権利(形成権)に着目してみましょう。解除権を複数の者で準共有していることになります。そして解除する行為は、解除権を処分するといえます。つまり、解除権を基準とすると処分行為なのです。
しかし、昭和39年最判は、共有物の貸借契約を解除することを、共有物管理行為に分類しました。
結局、処分、管理行為の分類は、形成権基準ではなく、共有物基準で判定する、ということになります。

解除権の「処分」と共有物の「管理」の関係

・・・解除権が共有者に準共有され(264条)、その行使は処分になるが、共有物管理という中心的問題が優先し、持分の可半数で決定できる。
この点では、共有物管理が優先することになる。
※平野裕之稿/能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 第3版』第一法規2019年p355

本記事では、共有物の「貸借契約」の解除を共有物の管理行為であると判断した昭和39年最判について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、共有物(共有不動産)の賃貸借や使用貸借に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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