【「共有持分の対価」の算定(評価)における共有減価の有無(各種手続横断)】

1 「共有持分の対価」の算定(評価)における共有減価の有無(各種手続横断)

共有不動産(共有物)に関するいろいろな手続で共有持分の対価が登場します。共有持分の評価(価値・価格)のことですが、実際には当事者の間で主張が食い違う(対立する)ことがとても多いです。対立する内容の1つとして共有減価の有無があります。
本記事では、共有持分の評価をするいろいろな手続について、共有減価をするかどうか、ということを横断的に説明します。

2 「共有減価」の意味(前提・概要)

最初に、共有減価の意味を説明します。
共有持分は理論的には所有権と同じですが、通常の所有権とは違って、別の所有者(共有者)もいるという特徴があります。その結果、実際に共有物を使用(たとえば居住)しようとしても、他の共有者と話し合ったり、場合によっては使用対価(家賃)を支払う必要がある、ということになります。また、共有者の誰かが共有物分割を請求すると、最終的に第三者に売却することになるなど、共有関係が解消されます。つまり、共有物を使用できる状態が打ち切られる可能性がずっとあるわけです。
このように、通常の所有権よりも、制限がとても多いのです。この制限分を評価額に反映させる、つまり金額を差し引くことになります。このように減額することを共有減価といいます。
詳しくはこちら|共有減価の意味(理由)と減価割合の判断要素・相場

3 持分買取権(民法253条2項)→統一的見解なし

たとえば、共有不動産の固定資産税を共有者Aが納付した場合、他の共有者Bに対して(Bの持分割合相当額)を請求(求償)することになります。Bが請求を受けても支払わない場合に、AがBの持分を取得できる(強制的に買い取れる)制度があります。この持分買取権では、AがBに対価として相当の償金を支払うことになります。この計算で共有減価をするかしないか、といことについては統一的見解は見当たりません。
後述の持分取得裁判と同じように、結果的に単独所有が実現するかどうかで異なる、という扱いが合理的だろうと思います。

持分買取権(民法253条2項)→統一的見解なし

あ 条文規定→「相当の償金」

共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
※民法253条2項

い 解釈

「相当の償金」の算定において、共有減価の適用の有無については統一的見解は見当たらない
詳しくはこちら|共有持分買取権の『相当の償金』の金額の算定・求償権との相殺

4 全面的価格賠償(共有物分割)(民法258条)→共有減価なし

共有物分割の方法(分割類型)の1つとして、全面的価格賠償があります。要するに、共有者Aが共有者Bの持分を買い取るというものです。支払う対価として、Bの持分の価値を評価する必要がありますが、これについては共有減価をしないのが一般的です。結果的に単独所有となるので、共有であることによる制限がなくなる、という理由です。
なお、これと同じ方法は、遺産分割(の中の代償分割)、財産分与(の1方法としての債務負担方式)でも採用することがあります。
詳しくはこちら|遺産分割における代償分割の基本(規定と要件)
詳しくはこちら|清算的財産分与の具体的分与方法のバリエーション(現物分与の対象・債務負担など)
これらの手続でも、全面的価格賠償(共有物分割)と同じように、共有減価をしないのが一般的です。

全面的価格賠償(共有物分割)(民法258条)→共有減価なし

あ 条文規定→「債務(を負担)」

共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
※民法258条2項2号

い 平成8年最判→「持分の価格」

そうすると、共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができる(最高裁昭和五九年(オ)第八〇五号同六二年四月二二日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)のみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、
共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである。
※最判平成8年10月31日・677号、1380号、1962号

う 解釈

(平成8年最判の解釈として)
賠償金の算定において共有減価は行わない
詳しくはこちら|全面的価格賠償における価格の適正評価と共有減価・競売減価

5 相続財産が共有持分である場合の代償分割→単独所有実現の有無により判定(概要)

遺産分割における代償分割でも遺産が100%所有権である場合は前述のように、共有物分割(全面的価格賠償)と同じで、共有減価は行いません。ただし、相続財産自体が共有持分である、という場合には、共有物分割と同じとはいえなくなります。
代償分割の結果、単独所有となる場合には共有減価なし、単独所有とならない場合には共有減価あり、という扱いが一般的です。
詳しくはこちら|遺産分割における代償分割の基本(規定と要件)

6 持分取得裁判→単独所有実現の有無で判定

令和3年の民法改正で新たに作られた制度の1つとして、所在等不明共有者の持分取得裁判があります。所在が分からない共有者の持分を他の共有者が取得できる制度です。取得した共有者は、取得した持分の時価相当額の支払義務を負います。持分の時価の算定(評価)では、結果的に単独所有となる場合には共有減価をしない、一方、結果的に(持分の取得をしても)単独所有にはならない(さらに別の共有者がいる)場合には共有減価をするという解釈が示されています。

持分取得裁判→単独所有実現の有無で判定

あ 条文規定

第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
※民法262条の2第4項

い 「時価」の解釈

持分取得により単独所有が実現する場合には共有減価をしない、単独所有が実現しない(他に共有者がまだいる)場合には共有減価をする、という見解が提唱されている
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分取得手続(令和3年改正)

7 持分譲渡権限付与裁判→共有減価なし

令和3年の民法改正で新たに作られた別の制度として、所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡(売却)する権限を裁判所に付与してもらうというものがあります。強制的に共同売却をする(100%所有権として第三者に売却する)ことができる制度です。
ここでも、譲渡権限の付与を受けた共有者は、実際の売却が実現した時に、対価の支払義務を負います。その金額は、不動産全体(100%所有権)の価値に持分割合をかけたものです。つまり、共有減価はしません(条文上そのように読めるように規定されました)。

持分譲渡権限付与裁判→共有減価なし

あ 条文規定

第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
※民法262条の3第3項

い 解釈

「不動産の時価」は(持分ではなく)所有権全体のことである
共有減価はもともと関係してこない
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分譲渡権限付与手続(令和3年改正)

8 破産法の持分取得権→統一的見解なし

共有者の1人が破産した場合には、分割禁止特約があったとしても共有物分割(請求)をすることができるようになります。この場合、請求を受けた者(他の共有者)は、カウンターとして破産者の持分を強制的に買い取ることができます。その対価(相当の償金)については、共有減価をするかどうかについて統一的な見解はみあたりません。
前述の持分取得裁判と同じように、結果的に単独所有が実現するかどうかで異なる、という扱いが合理的だろうと思います。

破産法の持分取得権→統一的見解なし

あ 条文規定

(共有関係)
第五十二条 数人が共同して財産権を有する場合において、共有者の中に破産手続開始の決定を受けた者があるときは、その共有に係る財産の分割の請求は、共有者の間で分割をしない旨の定めがあるときでも、することができる。
2 前項の場合には、他の共有者は、相当の償金を支払って破産者の持分を取得することができる。
※破産法52条(民事再生法48条、会社更生法60条も同様の規定)

い 解釈

「相当の償金」の算定において、共有減価の適用の有無については統一的見解は見当たらない
詳しくはこちら|共有者の破産・民事再生・会社更生における不分割特約の適用除外・持分買取権

9 遺留分侵害額請求→統一的見解なし(参考)

遺留分侵害額請求では、ベースとなる計算の中で、遺産や生前贈与した財産の評価額を出します。遺産や生前贈与した財産として共有持分がある場合には、当然ですが、その共有持分の価値を出すことになります。これについても、共有減価をするかしないについて統一的見解はみあたりません。
前述の持分取得裁判と同じように、結果的に単独所有が実現するかどうかで異なる、という扱いが合理的だろうと思います。

遺留分侵害額請求→統一的見解なし(参考)

あ 共有持分の評価を要する状況

「被相続人が相続開始の時において有した財産」または「贈与した財産」に共有持分が含まれる場合、当該「財産の価額」を特定(評価)することになる
(これらを元にして「遺留分算定基礎財産」を算出する)
※民法1043条(改正前の1029条)

い 解釈

「財産の価額」の算定において、共有減価の適用の有無については統一的見解は見当たらない
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産の計算の基本部分(基礎的計算式・改正前後)

10 まとめ

以上のように、共有減価をするかしないかについては、ある程度方向性が決まっている手続もあれば、議論自体があまりない手続もあります。
ただ、全体として、結果的に単独所有になるならば共有であることによる制限がなくなるので共有減価をしない単独所有にならないならば共有の制限があるので共有減価をするという扱いになる傾向があるといえます。
ここで、共有者が、少しずつ共有持分を取得して最終的に単独所有を実現する、ということを想定すると、最後の持分取得(最後の1ピースの購入)だけ共有減価なしで、それ以前の持分(ピース)取得のときは共有減価ありで買える、ということになります。単純にこのことだけを前提とすると、最後の1ピースとして最も小さい持分を残しておくと、トータルの取得金額が抑えられる、ということになります。
もちろん実際には多くの事情が絡みますので、自由に取得する順序を決められる(コントロールできる)わけではない方が通常です。

本記事では、共有持分の対価の算定が必要となるいろいろな手続における共有減価の有無を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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