【共有私道に関する工事などの「変更・管理・保存」の分類のまとめ(私道ガイドライン)】
1 共有私道に関する工事などの「変更・管理・保存」の分類のまとめ(私道ガイドライン)
共有となっている私道では、舗装やライフラインの工事などについて、共有者のうち何人の同意が必要か(変更・管理・保存のどれに分類されるのか)、誰が実行できるのか、がよくわからないので、工事を進められない、という問題が起きることが多いです。そこで、法務省や国交省の職員や、学者、実務家が委員会を結成し、ガイドラインを作成しました。2版として公表されたものは、令和3年の民法改正が反映されています。本記事では、私道ガイドラインのうち、共有の私道に関する内容の全体をまとめました。
2 共有私道の舗装工事の「変更・管理・保存」の分類(まとめ)
共有私道で問題になることが多い工事の1つは舗装に関するものです。
ここで、舗装は私道(土地)と附合して、土地(共有物)の一部になる、という特徴があります。そこで、舗装に関わる工事は共有物の変更・管理・保存のどれにあたるか、という問題になります。
舗装に関する工事にはいろいろな種類がありますが、簡単に整理してみます。
まず、現状維持といえる工事であれば保存行為に分類されます。共有者単独で工事を実行できます。
具体例は、アスファルトやL字溝が損傷した時に、必要最小限の補修工事をする、というものです。仮に、材質が多少グレードアップしたとしても、自治体の助成の対象となるような材質や工法であれば標準的なものなので、必要最小限の範囲内(保存行為)といえます。
次に、現状維持を超える工事は管理行為になります。たとえば、アスファルトが一部損傷した時に、「ついで」に(損傷していない部分を含めて)全面の再舗装をする、というようなケースです。
最後に、砂利道だったところに初めてアスファルト舗装をする(新設)工事はどうでしょうか。形式的には「変更」行為になるはずですが、変更の程度は軽微といえます。そこで、令和3年改正でできた軽微変更にあたるといえます。結果的に管理行為と同じ扱い(持分の過半数で決定できる)ことになります。
舗装に関する工事で(軽微ではない)変更行為に分類されるものは通常はないと思われます。
共有私道の舗装工事の「変更・管理・保存」の分類(まとめ)
あ 現状維持→「保存」
ア 基本
現状を維持する補修(メンテナンス)の範囲内であれば、保存行為に分類される
イ 工事の具体例
アスファルトが(実際に)損壊している際に、損壊部分のみを補修する
アスファルト全体が(実際には損壊していないが)近い時期に損壊(陥没)することが予想されるような具体的徴候がある場合に全面再舗装を行う
L字溝が損傷している際に、損傷部分のみを補修する
い 現状維持を超える改良→「管理」
ア 基本
将来の支障の予防など、現状維持を超えた工事(改良する工事)は管理行為に分類される
イ 工事の具体例
アスファルトの一部損壊の際に、全面的な再舗装を行う
L字溝が損傷している際に、損傷部分以外も含めて通路全体のアスファルトの再舗装を行う
う 軽微な変更→「管理」(扱い)
ア 基本
本来変更行為といえる工事でも、軽微な変更にとどまる場合には(軽微変更として)管理行為と同じ扱いとなる
イ 工事の具体例
砂利道にアスファルト舗装を行う
私道ガイドラインの中で、共有私道の舗装に関する工事についての説明の中身については、別の記事で詳しく紹介しています。
詳しくはこちら|共有私道の舗装工事・樹木伐採などの「変更・管理・保存」の分類(私道ガイドライン)
3 共有私道のライフライン導管工事の「変更・管理・保存」の分類(まとめ)
次に、共有私道で問題となることがとても多いケースとして、ライフラインの工事があります。ライフラインの中でも、特に地下の導管の設置や更新の工事が非常に頻発する問題です。
ところで、地下のライフライン導管は、私人所有(複数の住宅の所有者の共有)のものと、自治体やライフラインの供給会社などの公的な団体が設置、所有、管理するものに分かれます。
どちらについても、舗装とは法的には違う構造となっています。それは、土地(私道)と附合することはない、というところです。導管は共有物の一部にならないので、共有物の変更・管理・保存という分類のどれかにあたるということはないのです。
結論として、私人所有の導管については、新設も補修も改良(下水枡設置など)はいずれも共有持分に応じた共有物の使用の範囲内だ、ということになります。もちろん共有者1人で実行することができます。
次に、公的導管は、土地の所有者(共有者)が第三者(設置・管理をする会社・団体)に対して土地の地下を使う権利(利用権)を設定するという構造になります。土地の所有者(私道共有者)サイドでは、利用権を設定する決定をすることになり、この決定の分類が問題となります。結論としては、新たに利用権を設定すること(要するに導管の新設)は管理行為に分類されます。
一方、補修工事は、最初に設定した利用権の中身として将来の維持のための工事も含むと解釈するのが通常です。つまり、補修工事のために新たに私道共有者サイドで何らかの決定をする必要はない、ということです。
共有私道のライフライン導管工事の「変更・管理・保存」の分類(まとめ)
あ 水道・下水道の私人導管
ア 公道の導管に接続→持分に応じた使用
私道共有者の1人が、私道の地下に、公道の導管までの導管を設置する
→持分に応じた使用である
→共有者単独で工事実施が可能である
イ 私人導管に接続→持分に応じた使用+設備使用権
私道共有者の1人が、私道の地下に、私道地下に既存の私人の導管までの導管を設置する
→持分に応じた使用である+既存の導管を使用する権利がある
→共有者単独で工事実施が可能である
ウ 補修
私道地下に既存の私人の導管について補修・取替をする工事
→持分に応じた使用である
→共有者単独で工事実施が可能である
い 水道・下水道・ガスの公的導管(利用権設定)
ア 新設(利用権設定)→管理
地方自治体などに対して、私道地下の利用権を設定することは、管理行為に分類される
イ 補修・取替→合意の範囲内
公的導管の管理者(地方自治体など)が、私道地下の既存導管について補修・取替をする工事
→(利用権設定の際に)明示または黙示の合意がある
→管理者単独で工事実施が可能である(新たな同意取得は不要である)
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p101、103、108、114、119、124、129、134、140、143
4 共有私道の電柱工事の「変更・管理・保存」の分類(まとめ)
私道に設置するライフラインとしては、地下の導管以外に、電柱の設置(電気を送る)があります。
電柱や電線は土地(私道)と附合せず、電力会社が所有、管理する、という構造です。
電柱を設置する際は、土地所有者(私道共有者)が電力会社に利用権を設定することになります。土地所有者(私道共有者)サイドで利用権を設定する、という意思決定は管理行為に分類されます。
電柱が老朽化して、更新(交換)する際は、同一場所に設置するのであれば当初設定した利用権の範囲内なので、新たな意思決定は不要です。別の場所に設置するのであれば管理行為に分類されます。ただし、緊急性が高い場合は、保存行為に分類されます。
共有私道の電柱工事の「変更・管理・保存」の分類(まとめ)
あ 新設(利用権設定)→管理
配電事業者(電力会社)に対して、私道の利用権を設定することは、管理行為に分類される
い 取替(同一場所)→合意の範囲内
配電事業者が、私道の既存電柱を撤去し、同一場所に設置(更新)する工事
→(利用権設定の際に)明示または黙示の合意がある
→配電事業者単独で工事実施が可能である(新たな同意取得は不要である)
う 取替(隣接場所)(利用権設定)→原則「管理」
配電事業者が、私道の既存電柱を撤去し、私道内の別の場所に設置(更新)する工事について
このような内容の利用権設定は、管理行為に分類される
ただし、緊急性が高い場合は保存行為に分類される
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p101、145、148、151
5 ライフライン工事と「賃借権等の設定・償還義務」の関係
以上で説明したライフラインの工事の中で、第三者に利用権を設定することは管理行為に該当する、という話しが出てきました。ところで、令和3年改正後の民法254条では、賃借権等の設定について、管理行為としてできる期間の上限が明文化されています。たとえば、一般的な土地の賃貸借や使用貸借のうち管理行為として可能な上限期間は5年となっています。では、持分の過半数で決定できる私道地下の利用権は5年が上限になるか、というとそうではありません。私道地下への導管設置は、私道を排他的に使用するものではないので、「賃借権等の設定」には該当しないのです。
次に、令和3年改正の民法249条2項は償還義務(対価を支払う義務)を定めています。では、共有の既存導管を使うためには対価を支払わないといけないかというとそうではありません。償還義務が生じるのは、持分を超えた使用だけです。共有者全員が導管を使っている状況では償還義務は生じません。
ライフライン工事と「賃借権等の設定・償還義務」の関係
あ 「賃借権等の設定」との関係
ア 民法254条4項(令和3年改正)の要点(前提)
令和3年改正の民法254条4項で、共有物の「賃借権等」の設定について管理に分類される期間の上限を明文化した
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
イ ライフライン導管設置のための利用権設定との関係
ライフラインの導管を私道の地下に設置するための利用権設定は、民法254条4項の「賃借権等」の設定、にはあたらない
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p134、140、145
い 償還義務との関係
ア 民法249条2項(令和3年改正)の要点(前提)
令和3年改正の民法249条2項で、共有者が自己の持分を超える使用をしている場合の償還義務が規定された
従前は一般的な規定(民法703条や709条)を根拠として認められていた権利関係が特別規定になったものである
詳しくはこちら|単独で使用する共有者に対する償還請求(民法249条2項)
イ ライフライン導管設置との関係
私道地下に既存(既設)の私人導管に新たに接続する工事をした場合でも、自己の持分を超えた使用とはいえないので、償還義務は生じない
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p103、129
6 ライフライン工事による「特別の影響」
令和3年改正で大きく変わったルールの1つとして、1度共有者間で決めた使用方法の変更があります。変更する決定も原則として管理行為に分類されるようになりました。ただ、そうすると、決定に基づいて使用している共有者を裏切ることになるかもしれません。そこで、特定の共有者(使用している共有者)に「特別の影響」が及ぶ場合には、当該共有者の承諾が必要、という制限がつけられています。
ライフライン工事によって、長期間水道が使えない状況が続くというケースはこれに該当するといえます。
ライフライン工事による「特別の影響」
あ 令和3年改正による「特別の影響」の規定(要点・前提)
共有物の使用方法の決定は管理行為なので、持分の過半数で決定できる
意思決定をした後に、決定内容を変更することも、管理行為に分類される(持分の過半数で決定できる)
ただし、特定の共有者に特別の影響を及ぼす場合には当該共有者の承諾が必要である
詳しくはこちら|共有者が決定した共有物の使用方法(占有者)の事後的な変更(令和3年改正後)
い ライフライン工事による「特別の影響」の具体例
特別の影響の有無は、事案に応じて個別に判断されるが、例えば、共有者間の決定に基づいて特定の共有者が共同所有型私道の特定の場所に給水管を設置して水道水の供給を受けている場合において、他の共有者により、持分の過半数の決定でその給水管の設置場所を変更することとされ、相当期間水道水の供給が止められることとなってしまうケースでは、特別の影響を及ぼすべきときに当たり得ると考えられる。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p18
7 共有私道の階段・ゴミボックス設置の「変更・管理・保存」の分類(まとめ)
以上で説明した、舗装工事とライフラインに関する工事が、共有私道におけるメジャーな問題でした。それ以外にも問題となりやすい工事として、階段の設置やゴミボックスの設置が挙げられます。
階段を新たに作るとすれば、もともと坂道になっている私道ですが、階段にすることによって歩行者は便利になりますが、自転車や自動車は通れない、または通りにくくなります。物理的にも機能的にも変化が大きいので変更行為に分類されます。
一方、すでに階段になっていて、これを拡幅するだけの工事や、てすりだけを追加する工事であれば変化は小さいので、管理行為にとどまります。
私道のうち一部をゴミ置き場とするために自治体の大型ゴミボックスを置くことは、管理行為に分類されます。
共有私道の階段・ゴミボックス設置の「変更・管理・保存」の分類(まとめ)
あ 階段
ア 新設→変更
坂道に階段を新設する工事は変更行為に分類される
区分所有法の決議の活用により緩和できる(後述)
イ 既存階段の拡幅→管理
既存の階段を拡幅する工事は管理行為に分類される
ウ 既存階段へのてすり新設
既存の階段にてすりを設置する工事は管理行為に分類される
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p154、157、160
い ゴミボックス
固定しない大型のゴミボックスの設置→管理
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p162
8 共有私道の樹木に関する「変更・管理・保存」の分類(まとめ)
最後に、樹木に関する工事(行為)の分類も問題になることがあります。
まず、私道内に樹木がある(植樹されている)ケースで、これを全面的に伐採、撤去することは、原則として軽微変更(管理扱い)に分類されます。ただし、美観向上の目的で植樹されている樹木であれば(軽微ではない)変更になります。
一方、樹木の枝によって通行に支障が生じている場合に、通行の安全を確保するために最小限の枝の剪定をする行為は保存行為に分類されます。
次に、私道内ではなく、私道の外(隣接地)から樹木の枝が私道内に伸びてきているケースもあります。これについても民法の令和3年改正でルールが改良されています。
越境されている側の土地所有者が、樹木所有者に「切除してくれ」と催告しても応じない場合、自身で切除できることになりました。樹木所有者の所在の場合も同じです。
越境されている側の土地が共有私道である場合、このような催告や切除を実行することは(共有私道の)保存行為に分類されます。つまり、共有者のうち1人だけで催告や切除をすることができます。
共有私道の樹木に関する「変更・管理・保存」の分類(まとめ)
あ 私道にある樹木の伐採・撤去
ア 原則
私道にある樹木を伐採し、撤去する工事は、原則として軽微変更(管理行為の扱い)に分類される
イ 例外
私道の美観を向上させる目的で植樹された樹木である場合には変更行為に分類される
区分所有法の決議の活用により緩和できる(後述)
い 私道にある樹木の剪定
樹木が私道の通行の妨げになっている場合に、私道の機能を回復する範囲内で剪定することは、保存行為に分類される
う 隣接地の樹木の伐採(催告や実行)
ア 分類
隣接地から私道に樹木がはみ出している場合に、隣接地所有者に対して伐採の催告をすることや伐採工事を行うことは、(共有私道の)保存行為に分類される
イ 令和3年改正による規定(要点)
樹木所有者に対して、越境部分の切除を催告したが切除しない場合、や、樹木所有者の所在不明の場合は、(越境されている土地所有者が)自ら切除できる
※民法233条3項1号、2号
私道ガイドラインの中で、共有私道の樹木に関する工事(行為)についての説明の中身については、別の記事で詳しく紹介しています。
詳しくはこちら|共有私道の舗装工事・樹木伐採などの「変更・管理・保存」の分類(私道ガイドライン)
9 区分所有法の「団地」の活用による変更要件の緩和(概要)
以上の説明の中で、変更行為に分類されるものがありました(階段新設と美観向上目的で植樹された樹木の伐採)。変更行為を決定するには、共有者全員の同意が必要です。
ただし、共有私道は区分所有法の「団地」に該当するので、集会を招集して決議を行えば、一部の共有者が反対していても決定できることがあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|区分所有法の「団地」の制度と共有私道での活用(適用)
本記事では、共有私道に関する各種工事が「変更・管理・保存」のどれに分類されるか、誰が実行できるか、ということについて要点を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有の私道に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。