【将来の債権譲渡と破産の関係(賃料債権譲渡による不動産の換価不能)】
1 将来の債権譲渡と破産の関係(賃料債権譲渡による不動産の換価不能)
将来の債権譲渡について、以前は有効性についての議論がありましたが、現在では有効とされ、担保としての活用が拡がっています。
詳しくはこちら|将来債権譲渡(集合債権譲渡)の要件・活用の例
将来の債権譲渡を使うと、他方で、破産手続で支障が出ることにつながります。本記事では、将来の債権譲渡と破産の関係を説明します。
2 将来の債権譲渡への破産の影響→賃料は影響なし
一般的に、破産者の財産の管理は破産管財人だけが行えることになります。では、破産者が持っている債権(将来の分)が、すでに譲渡されていた場合はどうでしょうか。少なくとも、賃料債権については、自動的に発生することが想定されているので、(対抗要件がある限り)影響はないことになります。つまり、債権譲渡を受けた者(譲受人)が取り立てることができる状態が維持される、反面、管財人は取り立て・回収をできない、という結論です。
将来の債権譲渡への破産の影響→賃料は影響なし
そのうち後者(注・賃料債権の譲渡)は、設定者に破産手続が開始しても、譲渡担保権者が対抗要件を備えているかぎり、その取立権に影響を受けることはない。
※伊藤眞ほか著『条解 破産法 第3版』弘文堂2020年p532
3 収益不動産の価値→ゼロ方向
破産者がもっている収益不動産の賃料について、将来分がすでに譲渡されている場合、管財人の立場では、賃料が得られない、かつ、新たに第三者に賃貸することもできない不動産、ということになります。固定資産税がかかるだけで収益はない、要するにゼロ(マイナス)の価値の不動産ということになります。
収益不動産の価値→ゼロ方向
また、かかる不動産を競売に付しても、競落人は、将来の賃料債権を相当期間取得することができないことからしていわゆるDCF法による評価は困難であり、またその他の評価方法によっても、収益が長期間計上できず、その間管理費用の負担のみが生じるところから、その評価はきわめて困難である。
かかる点からして、果たして実際に競落されるのかという問題もある。
※伊藤眞ほか著『条解 破産法 第3版』弘文堂2020年p533
4 平成16年破産法改正の際の議論
以上のように、将来の賃料債権の譲渡は、破産手続の中で財団形成(分配原資を集めること)に大きな支障が生じます。実は、平成16年の破産法改正で、意識的にこのような設定にした経緯があります。すでに想定内だったのです。
破産手続では、不動産の価値がなくなって財団から放棄することになることが想定されていましたが、将来の賃料債権の譲渡の効力を確実にすることでこれを担保とした融資が使える、という社会経済上のメリットがあります。つまり、メリットの方を優先した、という政策的な判断があったのです。
平成16年破産法改正の際の議論
あ 将来の賃料債権の処分を認めることのデメリット
他方で、将来の賃料債権の処分の効力について破産手続における制限を撤廃することに対しては、破産財団は、賃貸目的物件につき負担だけを負うことになり、当該財産の換価が困難となって、結局その所有権を放棄せざるを得ないことになり、管財事務に支障が生ずるだけでなく、賃借人にも保守等のサービスを受けられないという不利益が生じ、ひいては社会的な損失が生ずるのではないかという懸念も示されていました。
い 将来の賃料債権の処分を認めるメリット
しかし、このような制限を撤廃することによって、賃料債権の譲渡等の法的安定性が高められ、賃貸目的財産の所有者に資金調達方法の多様化がもたらされるという効用があり、また、そのような処分の効力が民法および民事執行法上認められ、当該資金調達によって破産者が既に利益を受けている以上、
う 立法過程での結論→メリット優先
破産手続開始時に破産財団に帰属する財産は、当該譲渡等によって当該賃料債権が流出した財産であり、負担のみが破産財団に帰すこともやむを得ないと考えられます。
※小川秀樹編著『一問一答 新しい破産法』商事法務2004年p89
本記事では、将来債権の譲渡と破産の関係を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、将来債権譲渡の問題に直面されている方は、活用方法を検討されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。