【共有者から使用承諾を受けた第三者が占有するケースにおける金銭請求】
1 共有者から使用承諾を受けた第三者が占有するケースにおける金銭請求
共有者の1人から共有物を使用(占有)することの承諾を受けて、第三者が共有物を使用(占有)しているケースはよくあります。他の共有者も了解していれば問題はないですが、関与していない場合には、自身が使用できないことになるので、明渡や金銭の請求をするという発想が生じます。まず、明渡請求については、「同視理論」により原則として否定されます。
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けて占有する第三者に対する明渡請求
その代わり、金銭(使用対価)の請求については原則として認められます。本記事では、このことを説明します。
2 使用承諾を受けた第三者が占有するケースにおける金銭請求(まとめ)
前述のように、共有者から使用承諾を受けた第三者に対する明渡請求は否定されます。その代わり、承諾していない共有者は、原則的に金銭の請求をすることができます。ここで、誰に対して請求できるのか、ということはいろいろな解釈があり、簡単ではありません。最初に、実際に採用される傾向のある解釈をまとめておきます。
まず、承諾した共有者Aは、根本的な要因を作ったので、同視理論(A自身が占有したものとみなす)により、支払義務を負います。なお、この支払義務は、令和3年改正前は不当利得返還義務(または損害賠償義務)でしたが、改正後は償還請求権(民法249条2項)となっています。
次に、占有している者に対しては、対価(賃料)を支払済であれば金銭請求が否定される、対価を支払っていないならば金銭請求が認められる傾向があります。ただし、占有している者がたとえば、共有者全員で了解していると誤解していた場合には保護される、つまり金銭請求は否定されることになります。
なお、占有する第三者が負う支払義務の根拠ですが、令和3年改正後も償還義務(民法249条2項))は適用されません。支払義務を負うとすれば不当利得か不法行為による責任です。
使用承諾を受けた第三者が占有するケースにおける金銭請求(まとめ)
あ 設例
建物をABが共有している
AがBに無断でCの使用を承諾した
共有者ABによる協議や意思決定をしていない
(そもそもAの持分は過半数に満たないので賃貸借や使用貸借が管理分類だとしても、意思決定をすることはできない)
い 承諾した共有者Bに対する請求→可能
Cによる占有は、承諾した共有者Aによる占有とみなす(同視する)
AはBに対して償還義務を負う
う 使用するCに対する請求・有償ケース
ア 原則→請求不可
CがAに使用対価(賃料)を支払った場合
Cに利得はない→BはCに不当利得の返還を請求できない
イ 例外→請求可能の可能性
損害賠償請求が認められる可能性がある
ただし、Cが善意であれば不当利得返還請求・損害賠償請求のいずれも認められない
具体例=Cが「Bも承諾している」と認識していた
う 使用するCに対する請求・無償ケース
ア 原則→請求可能
CがAに使用対価(賃料)を支払っていない場合
BはCに不当利得の返還(または損害賠償)を請求できる
イ 対価支払なし・例外
Cが善意であれば、Cが善意であれば不当利得返還請求・損害賠償請求のいずれも認められない
3 第三者の占有の違法性とその効果(前提)
いろいろな見解の説明に入る前に、前提となる部分を押さえておきます。
たとえば、共有者の過半数持分で第三者に賃貸すると意思決定をしている場合には(この賃貸借が管理分類であれば)適法になります。つまり、反対した共有者も含めて無断で占有しているとは主張できません。
しかし、共有者の過半数持分で決定していない場合、たとえば共有者ABのうちAだけが第三者Cに使用を承諾した場合、BにとってはCは違法、つまり、不法占拠者と同じことになるのです(しかし明渡請求は前述のように否定されます)。そこで、不当利得や損害賠償として金銭の請求ができる、というのが原則的な発想になります。
第三者の占有の違法性とその効果(前提)
非承認共有者は第三者(占有者)に対し、(持分に応じた使用収益の妨害の禁止および)損害賠償または不当利得の返還を請求できる
※鎌田薫稿『共有者の一部から占有使用を承認された第三者に対する明渡請求の可否』/『ジュリスト935号臨時増刊 昭和63年度重要判例解説』有斐閣1989年6月p65
※富越和厚稿『共有者の一部の者から共有物の占有使用を承認された第三者に対するその余の共有者からの明渡請求の可否』/『ジュリスト918号』有斐閣1998年9月p79
4 第三者への金銭請求に関するいろいろな見解
(1)平野裕之氏見解→有償・無償による判別+善意による否定
前述のように、このケースで問題になるのは、占有する第三者Cに対する金銭請求が認められるかどうか(Cが債務を負うかどうか)です。これについてはいろいろな見解があります。
まず、平野氏は、有償ケースについては、Cには利得がないことから金銭請求を否定します。次に無償ケースでは原則として金銭請求を認めます。ただし、Cが、占有が不適法であることについて善意であれば民法189条により、適法という扱いになる、その結果、金銭請求は否定される、と指摘します。この状況の具体例は、管理分類の賃貸借について、過半数持分の共有者が賛成していると思っていたケースや、変更分類の賃貸借について、共有者全員が賛成していると思っていたケースが挙げられます。
平野裕之氏見解→有償・無償による判別+善意による否定
あ 判例民法
ア 前提(共通事項)
事例は、XABCが共同相続により本件建物(診療所)をそれぞれ持分4分の1の割合で共有し、YはABCとの間で本件建物の使用貸借契約を締結しこれを使用しているため、使用に承諾を与えていないXがYに対して、本件建物の明渡しを求めたものである。・・・
イ 有償ケース→第三者への請求否定
1に述べたように、もし不当利得返還請求が可能であるとすると、他の共有者が賃料を受け取っていれば、共有者が不当利得をしていることになり、賃料を支払っている第三者には不当利得は成立しないが、
ウ 無償ケース→第三者への請求肯定方向
使用貸借の場合には、使用を承認した共有者には不当利得はなく、第三者が不当利得していることになろうか(これができなくても、使用を承認した共有者ABCへの損害賠償請求が可能)。
※平野裕之稿/能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 第3版』第一法規2019年p339
い 物権法
ア 有償ケース→第三者への請求否定方向
AB共有の土地を、AがBに無断でCに使用貸借または賃貸借している場合、BはCに対して明渡請求はできないが、誰に対して不当利得返還請求ができるのであろうか。
賃貸借の場合には、Cは賃料を支払っているので、Aが不当利得していることになる。
イ 無償ケース→第三者への請求肯定+善意による否定
他方、使用貸借の場合には、Aには利得はない。
Cが善意ならば189条が適用になる。
Cが悪意の場合には、Aと同じ部分的な不当利得がCにつき成立すると考えられる。
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p369
この説明の中で登場する民法189条(善意占有者の果実収取権)は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|善意占有者の果実収取権(民法189条)
(2)富越和厚氏見解→損害賠償肯定
富越氏は、一般論として(細かい状況による影響は考えず)、占有が不適法であることから金銭賠償が認められる、ということを指摘しています。
富越和厚氏見解→損害賠償肯定
※富越和厚稿『共有者の一部の者から共有物の占有使用を承認された第三者に対するその余の共有者からの明渡請求の可否』/『ジュリスト918号』1988年9月p79
(3)藤崎太郎氏見解→有償ケース・損害賠償肯定
占有が不適法である以上、利得がないとしても損害賠償の請求は認められる、という実務家の指摘もあります。
藤崎太郎氏見解→有償ケース・損害賠償肯定
・・・
なお、賃貸による場合、Aに賃料を支払ったDに不当利得は成立しないと考える立場がありますが、その場合でも、Dに対する損害賠償請求は可能であると考えられます。
※藤崎太郎稿/鈴木一洋ほか編『共有の法律相談』青林書院2019年p85、87
(4)令和3年改正の中間試案補足説明→無償ケース・金銭請求肯定
令和3年の民法改正の議論の中では、無償ケースについて、占有する第三者への金銭請求を認める説明がなされています。
令和3年改正の中間試案補足説明→無償ケース・金銭請求肯定
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p15
5 関連する問題
(1)請求できる金額
金銭請求が認められる場合、その金額はどのように計算されるのでしょうか。素朴な発想は、賃料に相当する金額に請求者(B)の持分割合をかけた金額ということになります。実際にもこのような計算方法が採用されることが多いです。ただし、別の見解もあります。
詳しくはこちら|単独で使用する共有者に対する償還請求の金額算定
(2)共有者間の償還請求を賃貸借の追認と評価する発想
ところで、共有者の一部が第三者に有償で貸したケースでは、通常は賃貸借に該当することになりますが、賃貸借の賃貸人は誰なのか、という問題があります。貸すことに反対をしている共有者が賃貸人に含まれるかどうか、という解釈です。現在では含まないという解釈をとる傾向がありますが、その場合でも、共有者間で使用対価(賃料相当額)の償還請求をしたことを、賃貸借の追認と評価する、という発想も示されています。仮に賃貸借を追認できれば、反対共有者も賃貸人として、賃借人に対して(自身の共有持分割合相当の)賃料請求権をもつことになります。ただし、賃貸借契約の中で支払方法が決められている場合は賃料請求として回収できないことになるでしょう。
そもそも、賃貸借契約の中で、反対共有者の名義が出ていない(顕名がない)場合には、追認自体ができないということもあると思います。
共有者間の償還請求を賃貸借の追認と評価する発想
あ 設例
例えば、土地aの共有者A1・A2・A3(持分割合は各3分の1)のうち、A1とA2の合意により、土地aを駐車場として使用する目的でBに2年間、1か月賃料6万円で賃貸した場合、A3とBとの法律関係はどうなるであろうか。
仮にA3はこの賃貸に反対していたとする。
い 反対共有者は賃貸人に含まない解釈(仮定・前提)
(a)賃貸借契約はA1・A2とBとの間でのみ成立し、・・・とも考えられる。
う 共有者間の償還請求を賃貸借の追認とみる余地
少なくとも、A3がA1・A2に対する賃料相当額の支払を請求することは、A1・A2によるBへの賃貸を明示的または黙示的に追認したものと解され、A3との間にも賃貸借契約の効力が遡及的に発生する(民法116参照)とみる余地があるように思われる。
※松尾弘著『物権法改正を読む』慶應義塾大学出版会2021年p39、40
(3)共有者間の賃料分配金の将来請求の可否(参考)
前述のように、共有者Yが賃料を受領している場合、共有者XはYに対して賃料の分配金を請求できます。これについて、訴訟上将来分の請求ができるか、という問題があります。駐車場の賃料については否定されていますが、それ以外(建物の賃料や建物敷地の賃料)については認められる可能性があります。
詳しくはこちら|収益不動産の共有者間の賃料分配金の将来請求の可否
本記事では、共有物(共有不動産)を共有者以外の者が使用しているケースにおける金銭の請求について説明しました。
実際には具体的な状況によって結論が違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。